対策会議
14:41 首相官邸
今朝の電話会談から穐原は至急内閣の大臣を呼んで閣議を行ってた。
閣議の途中、穐原の所に置かれてる電話がなり始めた。
大臣達は一旦喋るのを辞め、穐原総理は受話器を取った。
「どうした?えっ、何?日の丸を付けた戦闘機が来た? それでその戦闘機はどうなったのかね?そうか、わかった。また何か有ったらすぐ報告してくれ。それでは」
話が終わり、穐原総理は受話器を置いた。
「例の日本列島に関してですか?」
穐原が電話を切ると同時に右隣に居る初老の男から声をかけられた。
彼は内閣官房長官 篠川柳。
「ああ、太平洋方面から日の丸を付けた軍用機が3機飛来してすぐ引返したそうだ」
「軍用機ですか?飛んできたのは爆撃機ですか?」
今度は対面に座る男からだ。
彼は防衛大臣樋川輝。
「いや、哨戒機と護衛機の戦闘機2機の計3機だそうだ」
「なら情報収集でしょうか。今回は周辺の情況を調べに来たという感じでしょうか」
次は左隣から声がかけられた。
外務大臣大原太郎。
大臣達が思い思いの意見を出してる時、再度電話がなり始め穐原は受話器を受け取った。
「はいもしもし」
『やあアキハラ。今朝ぶりだね』
受話器の向こうからは今朝聞いた声が聞こえてきた。
「ジョニー大統領でしたか。ご用件は何ですか?」
相手は今朝電話をかけてきたジョニー大統領だった。
穐原は内心またこちらに面倒事を押し付けに来たかと警戒をした。
『実はいま先程在日米軍から連絡が有ってな。なんでも日の丸を付けた軍用機が飛来したそうじゃないか』
相変わらず耳が早いなと内心思いながらも、
「ええ。自衛隊がスクランブルをかけ警告したらもと来た針路へと引き返したと聞いています」
『そうか。それよりもアキハラ。例の日本列島だが先程NATO加盟国とのTV首脳会談を行って今後の方針を話したのだがな』
ジョニー大統領のNATOとの会談を行ったと聞き、
穐原総理は、
当事者の一人に報告もなく勝手にポンポン決めないでくれよ、と言いそうになったが堪えた
「そうでしたか。それで会談の結果はどのようになったのですか?」
まさかNATOが動くから我が国も自衛隊を動かせとかじゃないよな?
と内心危惧した。
『それがまだ相手が未知の国だから暫くは様子見だ。例の日本列島を各国の衛星からの情報を統合すると我が国のミニッツ級空母と同等の空母が最低でも10隻は確認できてな。さらにICBMのサイロも多数確認したのだ』
空母10隻か、数で言えばアメリカとほぼ互角か。
『とまあ衛星だけでは情報収集にも限界はあって、無人偵察機を何機か送ったのだがことごとく音信不通になってな。我々のレーダーにも察知されなかったことを考えると最低でもF35位のステルス機は持ってるのだろう。そのおかげで海運や空輸にも悪影響が出てる。今は初日だから騒ぎは起こってないが時間が経てば立つほど経済に影響が出るだからこと速やかにこれを解決しなければいけない』
「同感です。海路や空路に影響が出始めたら経済は混乱し、太平洋諸国は大混乱になるでしょう」
現に海運会社や航空会社から太平洋上にいた船や飛行機との連絡がつかないとの報告が来てるからな。
『経済だけではない。太平洋の秩序にも悪影響が出る。今まで我が国と日本国の間に大国が居なかったから問題はなかったが強大な軍事力を有してる大国が現れたら貴国は東西北と仮想敵国に囲まれることになるぞ。我が国もハワイが最前線になるのはゴメンだ』
それは我が国も同感です。
と穐原は返答し内心でも確かに日本の安全保障としては看破できないと思った。
そもそも太平洋に日本、アメリカ、オーストラリア以外の大国は居なかった。
だからアメリカは近年まで太平洋を内海化して太平洋の覇権を握ってきたし、日本も背後を気にせず北と南西に戦力を配置すれ良かった。
だが背後に、太平洋のど真ん中に仮想敵国が現れたとなれば話は変わる。
「今の所我が国では特使を乗せた航空機または船舶で先方のもとに向かい交渉を行うという事を考えてます」
『フム。向こうからやって来る。または撃たれるという事は考えてないのかね?』
「本日の接触の件が在りますの無きにしも非ずですね。ただ撃たれるのは何とも」
ジョニー大統領の指摘も最もだ。
現に無人機を問答無用で撃ち落とされてるのだから。
『そうか。貴国は特使の派遣を考えてるのだな。では私は日本が特使を派遣することに賛成しよう』
「はい?」
穐原は何を言ってるんだ?と思ったが段々とジョニー大統領の意図がわかった。
アメリカは例の日本列島に無人機を派遣した。
だがことごとく音信不通になった。
音信不通になったと言うことは撃墜されたのだろう。
それはそうだ。自国の領空に他国の無人偵察機なんかが無断で飛んでいれば撃ち落とすだろう。
最悪の場合、アメリカは例の日本列島から仮想敵国と見られるだろう。
例の日本列島は海軍の規模で言えばアメリカとほぼ同等の軍事力を保持している。
そんな軍事大国に領空を侵犯し喧嘩を売ったという事実が出来れば他国からは厄介な火種を作ったと見られ、国内からは政敵からネガティブキャンペーンのネタになる。
だが日本が先に特使を派遣してもらい事情を話してもらい、ワンクッション入れることで少しでも有耶無耶にしようとするのだ。
万が一特使を乗せた船なり飛行機なりが攻撃でもされたら無人偵察機を問答無用で攻撃する国家に何故特使を派遣したんだと糾弾されないようにするつもりだ。
また例の日本列島でアメリカ人が人質にでもされら困るのだ。
だから日本には鉱山のカナリアにするのだ。
『もし何かしら必要なことが有れば言ってくれ。できる限りの支援はしよう』
「わかりました。ところで大統領に一つお聞きしたいのですか」
『何だね?』
「例の日本列島はいつ頃公表するおつもりですか?」
『ああ。NATO各国と話し合って明日だ。まだ情報収集中でな。東側諸国もまだ混乱しているのだよ』
しばらく話し合いをしてわかりました と言って穐原総理は電話を切った。
「はあぁ〜。疲れた」
「例の日本列島に関してですか?」
穐原が電話を切ると同時に篠川官房長官が尋ねてきた。
「ああ。米国から新たな情報で列島に空母が10隻とICBMのサイロが多数確認されとの連絡だ」
「空母10隻ですか?」
これに樋川が反応した。
「ああ。米国はNATOとのTV首脳会談を行っていたよ」
「まぁ、米国からすれば太平洋のど真ん中にいきなり未知の国が出現したら開きますなぁ」
今度は左端に居る国土交通大臣の山下隆次郎が喋った。
「念の為陸上自衛隊には第2種を発令。海上自衛隊は横須賀、呉の護衛艦と潜水艦を全て出港させ、臨戦態勢に入れ。空自も太平洋側の基地は直ぐに戦闘機を発進出るようにしろ」
穐原総理は樋川防衛大臣に指示を下した。
「わかりました。では統幕と子細について話してきますので席を外します」
「わかった。くれぐれも慎重に頼むぞ。間違っても戦車を街中で走らせることはさせるなよ」
「わかりました。では失礼します」
そして樋川が退出した。
「では以後の対応ですが本日は外務省に日本列島に派遣する特使の選出を行い、明後日を目途に特使を向かわせるということでよろしいですか?」
「ああ。外務省は至急人選を頼む」
「わかりました」
「では、これにて閣議を終了とする」
閣議が終了し、大臣たちは秘書や官僚に指示を出しながら退室していき、最後は穐原総理と篠川官房長官だけになった。
「だいぶ疲れてるようだが大丈夫か?」
篠川が穐原総理の隣に座った。
「ああ、余りにも非現実的な事が起きてなんか夢でも見てる気分だ」
穐原総理はこんな状況だったら野党との下らない予算会議でもやってたほうがまだマシだよと言った。
「それはそれで面倒だがまぁ、そっちのほうが幾ばくか気は楽だな」
樋川官房長官は苦笑いしながらペットボトルのお茶を飲んだ。
「それでアメリカは電話でなんて言ってたんだ?」
「ああ。NATO各国首脳と情報交換の会談をやって、日本列島に無人偵察機を飛ばしたら軒並み撃墜されたと言ってたよ」
樋川官房長官はなんで未知の国にいきなり無人偵察機で領空侵犯するんだよと呆れた。
「そういえば中国や韓国の動向はどうなんだ?あの国々なら真っ先に公表なり何なりして騒ぎ出すと思うのだが?」
ああ。と穐原総理は思い出したかのように、
「韓国は米国が抑えてる。中国は対策に追われてると思う。太平洋に進出しようと思った矢先に太平洋のど真ん中新しい日本列島が現れたんだ。奴ら相当慌てふためいてるぞ。ロシアも、今の所沈黙を保ってる」
穐原総理は笑いながら、俺等が困ってるようにお前等も困れと言った。
「いい気味だと言いましょ。では私も失礼しますね」
「ああ」
篠川が退室し穐原一人だけとなった。
「空母を多数保有する日本か・・・。」
同刻某所
ここには数人の男達がなにかの議論をしていた。
髪型を七三分けにしスーツを着た男が、
「危険です。相手はどのような国なのか分からない未知の国家です。そんな急に行けと言われましても無理です」
と言うと、
「だがこのまま座して見てるだけにもいかぬのだぞ」
還暦を迎えたであろう着物を着た老人が反論した。
「だからといって今日の今日で接触した連中に特使を派遣するとしたって安全が保証されるかわかりません。外務省としてそんな所に部下を派遣するのは反対です」
それでもスーツの男は反対した。
「よいか!?我々には約2億2千万人の臣民が居るのだぞ!!今行える最善の方法を取らなければならないのだぞ!」
スーツの男、外務省の役人の及び腰にとうとう老人が怒った。
「御老公、どうか落ち着いてください。また御体に障ります」
このままでは埒があかないと思ったのかメガネをかけた男が仲介してきた。
「寝たきり老人扱いをするな!!」
しかし怒りはおさまらなかった。
「なら軍を派遣すればいいではないですか!この為の軍なんですよ?軍はどうなんです?」
外務省の役人は我関せずで居た軍に話を振った。
軍服を着た男は、
「軍は命令が有れば行きますが、その時はその国の外交に関する全権を委任されたと解釈しても?」
と役人に質問をしたが、
「ふざけるな!何故外務省が軍に全権を委任するのだ!」
とキレた。
部下は派遣したくないと言い、かと言って全権も委任したくないそんな外務省の及び腰に、
「ええいもういい!!外務省はアレコレ言い訳を考えて人を出したくないと判断する!特使派遣は軍に命令する!軍は直ぐに例の国と接触をし交流を保て!可能なら国交に関する基礎条約を結んでこい」
とうとう老人の我慢の限界がきたようだ。
「なっ!それは外務省の管轄ですよ!勝手に「黙らんか!」」
老人の決定に役人が反論しようとするが老人の気迫に押され黙り込んだ。
「この国家存続の危機の時にグダグダ抜かす輩に国家の舵を取る資格はない!」
「ですが「くどい!」・・・」
「軍は明日に特使を航空機に乗せて例の国に派遣しろ。交渉の人員の選出と航空機の編成は全て軍に任せるが交渉のメンバーにはドイツ語、英語を話せる奴を入れろ。それと下に見られないように将校も入れろ」
「わかりました。では私は大本營に向かい交渉の人員を選出してきます」
「ああ、頼むぞ」
軍服を着た男が退室していった。
そしてメガネをかけた男が会議の終了を宣言しそこに居た男達は各々の持ち場へと向かった。