007 盗賊と遭遇する。
忍刀を購入した町でも、占い客は来なかった。
「おかしい。なぜなのか」
「お師匠様。やっぱり、道端でやっている占い師なんて、怪しいというか、能力を疑われてしまうのでは?」
「僕は怪しくないし、能力にも自信がある」
アリアがボソッと言った。
「能力に自信がある、というのは、どうかしらね──」
「何か言ったか?」
「何でもないわ」
その時は、2人が町を出立して、半日ほど経っていた。
いまは自然のままの道を進んでいる。日が暮れ始めたころ、村を見つけた。
「小さな村だし、宿屋はないだろうな。どこかの家に泊めてもらえないか、頼んでみよう。その前に忍刀を渡せ、アリア」
アリアは不審な顔をする。
「なぜ? 肌身離さず持っているものなのでしょう?」
「そうだが、小さな村に入るんだぞ。武装していたら、怖がらせてしまうだろ」
これがポーソンのような都市規模だったら、護身用として受け入れられるが。
「僕の《異空間収納》でしまっておくから」
「分かったわよ」
それから、2人は村へと入った。
第一村人に声をかけるが、目も合わせてもらえず、逃げられてしまう。
「あれ。どうしたんだろう?」
「お師匠様が怖かったんじゃない?──撤回。それはないわよね。お師匠様って、見るからに無害そうだし」
無害そうに見えるのも、暗殺者として必要なことだ。
暗殺者は、相手にナメられてなんぼの世界である。
「あたしから声をかけてみるわね。女子のほうが警戒されないと思うし」
「頼んだ」
アリアが声をかけた村人は、よそよそしくはあったが、泊めることを了承してくれた。家畜小屋だったが。
農村生まれだけあって、アリアは家畜小屋に泊まることにも抵抗はないようだ。
もちろん、ラークはどんな環境でも適応できる訓練を積んでいる。家畜小屋など快適すぎるくらいだ。
夜半になった。
アリアは隣で熟睡しているが、ラークは起きていた。
先ほどまでは眠っていたのだが、侵入者の気配に目覚めたのだ。ただし侵入者といっても、まだ村から500メートルは離れているが。
(馬が4頭。騎乗しているのは、6人か。相乗りが2頭ということだな。こんな夜遅く、旅の者だろうか? いや、暴力的な気配を感じる。ははぁ、これはアレか)
ラークはアリアを揺り起こした。
「うん? どうかしたの、お師匠様? まだ朝日は昇ってないみたいだけど?」
「どうせ、すぐに目覚めることになった」
ラークの言葉通り、村内で騒ぎが起こった。ラークが感知していた人馬が、村内に飛び込んできたのだ。
「おらおら、寝てんじゃねぇ、豚どもが!」
という罵声も聞こえてくる。
この場合の豚は、村人のことらしい。
「盗賊ね?」
アリアも、この手の経験はあるようだ。
「ああ。村人がよそよそしかったのは、これが理由のようだ。この村は、定期的に盗賊の餌食にされているのだろうね」
家畜小屋のドアが開き、ラークたちを泊めてくれた村人が入ってきた。10代前半の娘もつれている。
「す、すまないが、この子を匿ってくれ」
父親らしく、娘を押しやってから、家畜小屋の外に出て行った。
「アリア。君はそこの子と隠れていろ。そこの干し草置き場のところにでも」
「お師匠様は、どうするの?」
「様子を見てくる。一宿の恩義はあるからな」
ラークは《存在減滅》を使ってから、家畜小屋の外に出た。
それにしても夜中に襲いに来るとは、盗賊というのは昼夜逆転しているらしい。驚くことでもないが。
村人たちは、村の中央に集められていた。先ほどの父親も含まれている。リーダー格の盗賊が、怒鳴り散らしていた。
どうやら、今回の目的は若い女だったらしいが、先んじて村では逃がした後だったらしい。
(いや、ひとり逃げそびれた娘が、家畜小屋に隠れているか。ついでに言えば、アリアだって若い女だな)
ラークは村人たちの中に入ってから、《存在減滅》を絶った。リーダー格が驚いた様子で、言った。
「てめぇ、どこから出てきた?」
「さっきから、いたよ。それより、あんた達はこれで全員なのか?」
「これで全員かって? バカ言え。オレたち〈髑髏の丘〉は、5000人の大所帯──というのは嘘で、ここにいるのも含めて300人だ」
リーダー格は正直に話してから、自分で口をおさえた。
ラークが、相手に自白させるスキル《お喋り》を、こっそり使ったためだ。
ただ《お喋り》は、よほど意志の弱い者にしか使えない。
(300人か。ここでこの6人の盗賊を潰しても、残りの294人が報復に来て、村は焼き払われるな。これはアジトまで行って、壊滅させるしかないか──こういうときに人々を無視できないのが、占い師の辛いところだ。暗殺者と違って、情が大事だからな)
ラークは家畜小屋を指さした。
「若い女なら、そこに隠れているぞ」
リーダー格はすぐさま命令し、部下に家畜小屋を調べさせた。すぐにアリアが捕まって、出てくる。どうやら、村人の娘を別の場所に隠してから、自分はわざと見つかったようだ。
(上出来だ、アリア)
盗賊の一人が、ラークを後ろから殴り付けた。気絶させるつもりらしい。あまりに弱々しい一撃だったため、すぐには気づけなかったが。
とりあえずラークは倒れて、目をつむった。