008 一宿の恩義を果たす。
盗賊たちが去ったところで、ラークは立ち上がった。衣服についた土を払っていると、先ほどの村人がやって来た。
「おい、あんたの連れの子は、連れてかれてしまったぞ! 盗賊たちに酷いことをされてしまうに違いない!」
「そう悲観的にならないで。それより娘さんは無事でしたか」
「あ、ああ。あんたの連れの子のおかげで、盗賊たちに見つからなかったようだ」
「それは良かった。では、僕はこれで──」
ラークが歩き出すと、村人が慌てて言った。
「ど、どこに行くつもりだ?」
「さっきの盗賊たちのアジトですよ。アリアを《存在探知》で追いかけるわけです。ずっと一緒だったので、識別して追跡するのも容易い。では急ぎますので。さくさく潰して、朝までにもうひと眠りしたい」
それだけ言うと、呆気に取られている村人たちを置いて、ラークは地を蹴った。
身体強化スキルから、《加速》を発動。
あっという間に、先行していた盗賊たちが見えてくる。ペースを落とし、追い抜いてしまわないよう気をつけた。
とはいえ、《存在減滅》を発動しているので、追い抜いても気づかれることはないだろうが。
盗賊たちの後方5メートルまで近づいてから、馬たちに速度をあわせた。
アリアを見つける。
真ん中を走る馬の上に、荷物のようにして乗せられていた。
一見、気絶しているようだが、ラークには分かった。アリアにはちゃんと意識がある。
ラークの意図を読み取って、わざと捕まったらしい。さすが訓練なしでもFランク・スタートなだけはある。
やがて盗賊たちは山の中へと入っていった。
(山中にアジトがあるということは、山賊なのか? 盗賊と山賊の定義の違いがわからないなぁ)
やがて山腹にある野営地に辿り着いた。ラークが追跡していた盗賊たち以外にも、続々と集まってきている。
この地に拠点を作り、一斉に散らばり、再集合。
定期的に拠点を移動することで、官憲の追跡を逃れやすくしているわけだ。
ラークは樹木の枝上に腰かけ、盗賊たちをスキャンする。皆殺しにしても良いが、暗殺者は無駄に殺さない。培った技術は大事に使うものだからだ。
そして占い師は、そもそも人を殺さない。
ここ数日で結構な人数を殺しているので、ラークとしては悩ましいところだが。
(アレをやるか──)
ラークは野営地まで降りて行った。すぐさま盗賊の何人かが気づいて、取り囲んでくる。
盗賊というのも立派な職業で、《能力透視》でランクも確認できる。ここにいるのは、ほとんどがFランクだが。
その中で代表格の盗賊が言った。
「なんだぁ、迷子にでもなったのか?」
その隣の盗賊は、《能力透視》が使えたようだ。というのも、小ばかにしながら言ったので。
「コイツ、職業は占い師ですぜ。なんの役にもたたねぇ、くだらない職業だ」
ラークは溜息をついた。
「単刀直入にいこう。すまないが、盗賊稼業から足を洗ってもらえるかな?」
想像した通り、盗賊たちがバカ笑いしだす。
一般的に、いまの要請はバカにするものらしい。
「仕方ない──」
ラークは右拳に意識を向けた。かつて城壁を粉みじんにするとき使った、ちょっとしたスキルだ。
《粉砕拳》。
これを大地に叩きつければ、この周囲にいる者は吹き飛ぶだろう。死傷者は出ないだろうし、盗賊たちを震え上がらせるには充分だ。
さっそくラークが《粉砕拳》を発動しようとしたとき──
「まて!」
ラークは新手の男を見た。
盗賊Bランク。間違っても雑魚ではない。
まわりの連中が「お頭!」と声を出す。やはり、盗賊頭のようだ。
盗賊頭もラークに対して《能力透視》を使ったらしい。
ラークを凝視したまま、顔が青ざめている。
「てめぇ、何者だ?」
「通りすがりの占い師だ」
「抜かすな! てめぇはGランク占い師なんかじゃねぇ! なんなんだ、SSSランク暗殺者ってのは──!」
ラークは舌打ちした。時折、前職が《能力透視》されることがある。いわばバグだ。
「占い師だと言っているだろ」
盗賊頭は慎重な口調で答える。
「……オレたちは解散することはできねぇ。たとえ、化け物じみたアンタに脅されようともな」
「つまり、近隣の町村への襲撃をやめる気はない、ということだな?」
「アンタの村があるのか? なら、そこは襲わないよう約束できるが」
「そういう問題じゃない。いいか、僕だって正義の味方気取りはしたくない。だが、いま僕はある村に肩入れしている。さらに、だ。その村だけを助けるというのも、それはそれでスッキリしない。モヤモヤが残る。結局、明日以降の占い稼業を気持ちよくするためには、君たちには解散してもらうしかない」
盗賊頭は覚悟を決めたようだ。
「断るといったら?」
「どうだろうな。話し合いする気はあるのか?」
盗賊頭は武器を構えた。
瞬間、ほかの盗賊たちも殺気を放ちながら、戦闘態勢に入った。
ラークは『《粉砕拳》で脅かして解散させる』という計画を諦めた。
この盗賊団は、盗賊頭をトップにして統制が取れている。盗賊頭が戦闘を選択したのならば、ほかに取るべき道はなくなってしまった。
ラークは溜息をついた。
「占い師の道は厳しいな」
5分後。
拘束されていたアリアを解放してやる。
「お師匠様、盗賊たちは──あ!」
放り込まれていたテントから出るなり、アリアは知りたいことを全て知った。
死屍累々。
盗賊団は全滅していた。
「お師匠様の副業は、〈狂戦士〉ね!」
これ、褒めているつもりらしい。
「本業も副業も占い師だ──ああ、何遍、言わすのか」




