029 対決。
ラークは軽く跳躍して、Sランク工作員の前に立った。
山小屋から20mの距離だ。
工作員は男で、歳は30前後。銀髪、長身、眼鏡。短めの戦杖を装備。
いきなり殺すのは、暗殺者のやり口だ。そこで、まず話し合いを試してみた。
「誘拐犯の仲間だな? 否定は不要だ。こちらの要請は、誘拐した少女を返してもらうこと。そうすれば、誰も怪我せず済む」
対して、言葉を発したのは、工作員の連れだった。
こちらは40代の男で、脅威ではない。ただ身なりの良い服を着ているので、上流階級に属している者だろう。
「お前たちは、ル・ボルドーの手下か!」
ラークは、ル・ボルドーという名前に聞き覚えがない。
工作員が舌打ちする。連れが、ラークに余計な情報を伝えてしまったからだろう。
それから、ようやく口を開いた。
「占い師ごときが、我々の妨げになれると思っているのか? 身の程をわきまえろ」
ラークの今の職業は、Gランク占い師。
当然、前職のSSSランク暗殺者は、通常の《能力透視》では表示されない。
「話し合いは決裂か?」
ラークが確認すると、応答のごとく工作員が攻撃を仕掛けてきた。
「《業血地獄》!」
《業血地獄》──全てを焼却する炎の雨を降らす、災厄スキルだ。
さすがSランクだけはあるが、《業血地獄》だと、ここにいる全員が死ぬことになる。
もちろん工作員は別だ。連れの男も含めて《結界》がかけている。
ラークは地を蹴り、《存在しない剣(π)》で、《結界》を切り裂く。
同時に、『連れの男』の胸倉をつかんで、空高く放った。
工作員が吠える。
「なんだと──!」
刹那、〈業血地獄〉が解除。『連れの男』に結界を張ったということは、死んで欲しくないわけだ。よって、結界を無効化された上で放り上げられた『連れの男』を助けるためには、《業血地獄》の解除しかない。
「お次はこれだ」
「貴様、待て──」
ラークは攻撃の手を緩めず、工作員の懐内に飛び込み、《刀化》+《連斬》。
同じ個所へと、無数の斬撃を叩き込む。これで工作員を守っていた《防御膜》も破壊。
だが工作員の命は取らず、その右腕を切り落とすに留めた。
「命が惜しかったら、仲間を連れて消えることだ」
ここで工作員を殺すと、山小屋内にいる男たちが何をするか分からない。すなわち、ゆるふわ少女に危害を加える危険があるのだ。
工作員は切断面から血を流しながらも、ラークをにらみ返した。
「貴様、何者だ? 占師がこんな──さては職業を偽装しているな?」
「お前ごときでは、僕には勝てない。いいから、降参して──」
「《血の雨》!」
「聞いたことのないスキルだ」
「私のユニークスキルだ。よく聞け、愚か者〈血の雨〉スキルが降らすのは、厳密には『血』ではないぞ。物体を溶かす『何か』だ。《防御膜》さえも溶かしてしまうものだぞ」
「話の分からない奴だ」
ラークは《粉砕拳》連打で、工作員を吹き飛ばす。
ついで《加速》で、吹き飛んだ工作員の後ろに回る。
「血の雨が降る前に、死んでもらう」
手刀を一閃。
工作員を背中から、切り裂いた。
その流れで、ラークは山小屋内へと突撃。
屋内には、ゆるふわ少女の他に、誘拐実行犯の男が2人。
まずは男の一人に、《弾丸》を叩き込み、排除。
残りの男は、案の定、ゆるふわ少女を盾にした。
「ち、近づくな! この娘がどうなっても──」
ラークは《時間緩慢》を発動。
時の流れを遅くした中で、さらに《加速》。
これでは、常人には瞬間移動にしか見えない。
これで男の後ろに回り、迷走神経を叩いて殺した。
かくして、ゆるふわ少女の救出に成功。
アリアと離れてからの経過時間は、168秒。
この間も、《存在感知》は発動していた。
よってアリアとアーサーが戦闘に入っているのは、確認してあるが。
(アリア、踏ん張れよ)




