028 拠点まで。
市場に戻り、コーヒーサイフォンを無事購入。
「これで旅の途中でも、美味しい珈琲が飲める。頼んだぞ、アリア」
「……え、あたしが淹れるの?」
「弟子が淹れるものじゃないのか?」
導師エレノアと旅していたころは、ラークが担当していたものだが。
ラークがその点を指摘する前に、ローディからの通話スキルが入った。
[ラーク。こいつは、100万リラ分の仕事だったぜ]
[そうか。苦労をかけたなぁ]
[労いはいいから、ちゃんと払えやがれよ]
[次に合うときまで用意しておこう──]
ラークは心から約束した。
手持ちは1万リラもなく、これが100万リラまで増える予定もなかったが。
[《物体探査》を開いておけ、そこにこっちからMAPを叩き込む。依頼された探索対象が、現在いるMAPだ。あとは、てめぇでどうにかしろ]
[感謝する]
[100万リラだぞ]
[うーむ]
通話スキルが切れると同時に、ラークの脳内にMAPが送り込まれてきた。
懇切丁寧なことに、ラークの現在地から、誘拐されたゆるふわ少女のいる地点までのMAPだ。
「さすが、いい仕事をする」
ラークはアリアを抱きかかえた。お姫様だっこだ。
「きゃっ! いきなり何を──」
「舌を噛むなよ」
身体強化スキルをMAXで発動してから、ラークは地を蹴った。
《加速》と《跳躍》を併用。
群衆の間を縫って、駆け抜ける。ぶつかると市民を撥ね飛ばしてしまうので、注意が必要だ。
だが、これだと非効率か。ラークは建物の屋上まで跳び、次の建物へと跳躍していく。
最後に城壁を飛び越えて、都市セルベの外に着地。
そこからは街道なので、遠慮なく《加速》で突っ走る。
「お、お師匠様ぁ、これ、速すぎ、る──」
一口に街道といっても、多様だ。
ちゃんと舗装され、街道という名に相応しい主要道路もある。
だが、それだけではなく、未舗装の小さな道も、街道と呼ばれている。ここらへんは大雑把だ。
ラークは、ローディが寄越したMAPを確認しながら、未舗装道路に入った。足元が悪くなろうとも、速度に影響はない。崖でも登ることにならない限り、どんな荒れた道でも高速で移動可能だ。
3時間ほど走ったところで、ラークは止まった。
森を抜けたところにある、小さな丘の上だ。
見下ろす空地には、一軒の山小屋がある。この中に、ゆるふわ少女が監禁されていた。
「ついたぞ」
アリアが、愕然としている。
「……お師匠様。おかしいわよ、ちょっと。こんな速度で何時間も走って、少しは疲れなさいよ」
「少しは疲れたが」
「そうは見えないのだけど。どういうスタミナをしているのよ」
「暗殺者は、どんな環境においても万全の力を発揮できなくてはならない。そのために必要なのは、1にスタミナ、2にスタミナ」
ラークは、じっとアリアを見る。移動中から今まで、お姫さまだっこ維持だ。
急にアリアが、顔を赤らめた。
「そ、そんなことより、もう下してよ」
「悪い」
アリアを下ろしてから、ラークは〈斬殺丸〉を出す。アリアが装備していると邪魔なので、異空間に収納にしていたわけだ。
「僕から離れるなよ」
アリアは意外そうに言う。
「あたしも同行していいのね。足手まといだからと、待機を命じられるかと思ったわ」
「待機していたいのか?」
「そんなわけがないでしょ!」
ラークはうなずいた。
「暗殺者として育てるからには、甘やかしたりはしない。もちろん、無茶はさせないがね。ただ、生と死の瀬戸際を体験しないことには、経験値は積めないものだ」
アリアが勢い込んで言う。
「あの生意気なアーサーは、このあたしが倒すわね!」
「それはダメだ。Cランク相手は、まだ荷が重い」
ラークはアリアを従えて、先へと進んだ。ラークだけなら《存在減滅》を使うところだが、同行するアリアはまだ使えない。
となると、師匠だけ《存在減滅》を発動しても仕方ないので、使わないでおく。
アリアは小声で言った。
「どうして、こんなところで、ゆるふわ少女を監禁しているのかしらね?」
「2つ考えられる。近くに民家がないので、長期の監禁に適しているからか。または、受け渡し場所として機能しているのかもしれないな」
「誘拐犯たちも、誰かに雇われていたというわけなの? 雇い主に、ここでゆるふわ少女を引き渡すの?」
「その可能性もある、という話だ」
《存在感知》で、すでに山小屋内の様子は掴んでいる。
ゆるふわ少女は屋内中央。
そのまわりに男が3人いる。その1人が、アーサーだ。残りの2人は、誘拐の実行犯だろう。
(ゆるふわ少女たちも、簡易魔造でワープして来たわけか。つまり、黄金何トンにも値する簡易魔造を2つ所持していた。誘拐犯サイドはよほど資金潤沢とみえる。ということは、身代金目的ではなさそうだな──まてよ。2つあるなら、3つある可能性も──)
瞬間、それは同時に起きた。
アリアが落ちていた枝を踏み、その音にアーサーが気づく。
一方、魔造の《空間転移》が発動し、新手の人物が2人も、この空地に出現した。
その片方は、《能力透視》によって、Sランク工作員と判明。
ラークは、アリアを見やった。
「こうなると仕方ない。僕は新手のSランクを始末する。だから、アーサーを倒すのは、お前だ」
アリアはうなずいた。
「望むところよ!」




