024 魔王を占う。
『魔王』が職業なのかは、議論の出そうな話ではある。
ただ魔王とは、誰でもなることができる。つまり、どのような種族だろうとも。
ただし一定の条件を満たす必要は出てくる。
簡単にいってしまえば、暗黒面へと落ち、『世界の敵』となることだ。
暗殺者ギルドをもってしても、魔王の暗殺に成功したのは、ただの一度きりだ。
その一度きりの達成者こそが、ラークである。
あのときは、400日もの準備期間を有したものだ。
もちろん、暗殺者として最高の功績。
暗殺界での伝説として語り継がれているのも、無理はない。
占い師となった今は、何の感慨も抱かないが。
ラークは、隣にいるアリアを見た。お客の魔王を眺めているが、恐れている様子はない。
アリアはまだ《能力透視》を使えないのだ。
ラークは、改めて魔王を見た。
魔王を占えるとは。
導師エレノアでさえ、これほどの相手を占ったことはないのでは?
「水晶玉で占わせていただきます」
魔王が驚いた様子。
「手相を見るのではないのですか?」
「え、手相占いがよろしいのですか?」
一口に占いスキルといっても、多様な占い方法がある。ラークが得意とするのは、水晶玉占いだ。手相占いは苦手である。
しかし、お客の要求は絶対だろう。
「では手相を拝見」
魔王が片手を差し出す。
ラークは虫眼鏡を出して、魔王の手相をよく見た。
「ところで、何を見て欲しいんですか?」
「生命線です。長生きできるか気になって」
「はぁ……生命線に切れ目はないし、それなりに長いので、別に大──」
刹那、ラークの脳内にビジョンが過った。
世界が燃えている。
たくさんの人間が死に、その中央には、この魔王が立っている。
「──嗚呼」
「どうかしましたか?」
ラークはハッとして、手相へと視線を戻した。
「長生きされますよ」
魔王はホッとした様子で、手を引っ込める。
それからお代を払って、歩き去った。
「お師匠様。今のお客さん、ちょっと変わっていたわよね」
「ああ。だろうな」
ラークは自問する。
いま、魔王が世界を滅ぼす未来予知をしたのだろうか、と。
その夜は、町の宿で一泊。
翌朝には、町を出立した。
魔王が消えた方角とは、正反対へ。
仮に、あの魔王が災厄を振りまくならば、できるだけ離れていたほうが良い。
そして、魔王を倒す役目は勇者にある。暗殺者に出番はない。
「お師匠様。あたし、そろそろ《存在減滅》を会得できたかしら?」
「スキルは会得したら、自然と分かるものだ。《存在減滅》の壁は高い。そう簡単に覚えられるものではないから、辛抱強く訓練しなさい」
アリアは不満そうだ。
ラークは溜息をついた。
「昼飯の前に、少しだけ別の訓練も付けてやる」
とたんアリアの顔が輝く。分かりやすいものだ。
微笑ましく思いつつ、ラークは荷物を置いた(多少の荷物は、《異空間収納》は使わず持ち歩いている。旅人は荷物を持つ者だからだ)。
ラークは左手を出し、手刀を作った。《刃化》を発動。
「よし、剣戟の訓練だ。〈斬殺丸〉で斬りかかってこい」
「お師匠様、遠慮はしないわよ」
「当たり前だ」
アリアは忍刀〈斬殺丸〉を抜き放ち、飛び掛かってきた。
ラークは手刀で応じつつ、アリアの動きを見る。身体のバネが良い。これで身体強化のスキルを使えるようになれば、かなりの敏捷性を手にするだろう。
ただし斬撃は、あまりに軽いが。
これでは《防御膜》を使う敵では、ダメージを与えるのは難しそうだ。
ならば、標的が《防御膜》を使う前に、不意打ちで殺せば良い──
ただアリアは暗殺者になりたいと言いつつも、卑怯なことは好まない性格だ(この時点で、暗殺者として不適格なのだが)。
となると、《防御膜》を叩き斬る力を身に着けさせる必要がある。
「よし、アリア。《存在減滅》の会得訓練と共に、このスキルも覚えろ」
ラークは手刀を大地に触れさせ──
「《連斬》」
とたん、大地に直径5メートルほどの裂け目が生まれる。
アリアが目を大きく見開く。
「そ、そんな威力の攻撃、あたしにできるかしら?」
「威力自体は求めていない。《連斬》とは、一か所に連続した斬撃を放つスキルなんだ。目に見えないほどの速度でな。1秒間で、僕は1200回の斬撃を放った。アリアでも、訓練すればすぐに1秒間で50回はいけるようになる」
一撃が軽いのならば、同じ個所へと連続して攻撃すればよい。
そうやって、敵の《防御膜》を破るのだ。
アリアは拳を握りしめた。
「会得してみせるわ、お師匠様!」
ラークはこう思わずにはいられない。
(占いの訓練も、それくらい熱心にやってくれればいいんだがなぁ)




