023 一仕事する。
〇バメル男爵邸〇
男爵は湯舟に浸かりながら、唸った。
パクルガからは、ロガ修道院を買収する必要はなくなったとのこと。朗報ではある。
修道院の買収に手間取り、冷や汗をかいていたのだから。
しかし、このまま修道院を放っておくつもりはない。下民の分際で、貴族に逆らったのだ。その報いを受けさせるのだ。
(パクルガの無能が、用心棒を片付けずに帰るとはな。だが用心棒といっても、いつまでも修道院にはいまい。邪魔者がいなくなるのを待ってから、修道院を襲わせれば良かろう)
バメル男爵は湯舟から上がった。思考はまだ、修道院への復讐方法へと向けられている。
あそこには若い修道女がいる。ジェーンといったか。
浚わせて、手籠めにしてくれよう。そのあとは部下たちにくれてやる。慰み者になるがいい。最後には奴隷商人に売り飛ばすとして──
バメル男爵はあんぐりと口を開ける。
1秒前まで、この広い浴室には誰もいなかったはずだ。
ところが、今は男がいる。
「固形石鹸をお使いとは、貴族様は分かっていらっしゃる」
「き、貴様、一体どこから──」
男は、バメル男爵の首をつかんだ。軽々と持ち上げてしまう。
「な、離せ! 無礼者!」
バメル男爵は、そのまま大理石の浴槽へと落とされる。その後頭部が、浴槽の縁へと叩き込まれた。
プツンと意識が途切れ、バメル男爵は死んだ。
バメル男爵の死体を見下ろしてから、ラークは固形石鹸を床に置く。
「踏んづけると、よく滑るんだ、これが」
それから再度、《存在減滅》を発動。
男爵邸を後にした。
※※※
バメル男爵を事故死に見せかけて殺してから、3日後。
ラークとアリアは、ロガ修道院を後にした。
修道女ジェーンに見送られながら、街道を歩きだす。
クロエは『占い師の夫婦』計画のため、一足早く立ち去っていた。占い師として開業するため、まずはギルドに入るつもりらしい。
どうやら、ラークがすでに占い師ギルドの一員と誤解している様子。
ラークはあえて、その誤解を解かなかった。
事実を知れば、クロエも占い師ギルドから脱退するだろう。
それまで、ある種の時間稼ぎができる。
つまり、クロエが推し進めている『占い師の夫婦』計画の。
アリアが嬉しそうに言う。
「ロム君が意識を取り戻して良かったわね、お師匠様」
「最後まで、僕には憎まれ口しか叩かなかったけどな」
「だけど、ロム君が痛めつけられたのがキッカケで、お師匠様は暗殺者に戻ったわけよね」
「一時的に、だ。もうすでに僕は、どこを取っても占い師に戻っている」
「ふーん。それはそうと、騎士団の人からも勧誘されていたみたいだけど」
「パクルガのことか。言うまでもないが、騎士なんかに興味はない。あの男とも、もう会うこともないだろう」
ラークの予言は見事に外れるわけだが、それはまだ先の話だ。
それから4日かけて、次の町に到着した。
「さて、営業許可を取って、久しぶりに本業に戻るか」
結局、孤児たちを占うことには失敗した。
導師エレノアから、毎日、占いを怠らないように教えられていたというのに。
「占いスキルが下がってなければいいが」
「下がるほど高くなかったと思うけど」
「……」
アリアという弟子は、悪意なく心を傷つけることをたまに言う。
ラークは町役場に行き、営業許可を得た。
町規模だと、営業許可を取るのも簡単だ。これが都市クラスになると、一気に難易度が高まる。
町と都市の区別は、人口や城郭の有無で決まってくる。そして都市には、少なからずギルド支部がある。となるとギルド連合も出て来て、営業許可もここで取ることになり──とにかく、頭が痛くなる。
《異空間収納》で、テーブルとイスを出して、道端にセッティング。
「そういえば、リガーという暗殺者はどうしたの?」
「ああ。あの男なら、まだ生存している。もう少し弱らせてから、話し合ってみるつもりだ」
「何か目的があるのよね。暗殺者リガーを持ち運んでいるのには?」
「あるといえばあるが、まだ何とも言えないな」
ラークの信条は、使い道のありそうなものは拾っておく、だ。
ラークと同じく暗殺者ギルドを抜けた者。味方にできるかもしれない。
「すいませんが?」
「あ、はい」
驚いたことに、占いを求める客が来た。
驚くのもおかしな話だが、こうもすぐにお客が来たのは、初めてのことだ。
その客は、若い女性で、憂いに沈んだ瞳をしていた。
黒髪は長く、清楚な感じがある。
このときラークは、無意識的に《能力透視》をしていた。
そして、(これは、これは)と内心で呟く。
職業:魔王、SSSランク。
(面白い客だな)




