彼ら側の事情
現れたクロスは、何とも言えない表情をしていた。
彼にとっては何か複雑に思うような事象だったのか?
そう私が思っているとそこでクロスが口を開いた。
「セレンの能力が元に戻ったのか?」
「うん。ただ、魅了関係は封じさせてもらったけれど」
「……そうか。ありがとう」
そこで珍しくお礼を言われて私は目を瞬かせた。
「魅了関係の能力は……あまり俺も好ましくないものだったからな」
「大事なセレンが、他の人にモテるのが気に入らない、とか?」
「そうだな。それまでは……陰で何となくいいかなぐらいの輩が、襲おうとするは告白をするわで大変なことになったからな。昔はそんな事は無くて穏やかだったのに……まさかあいつに力が発現するなんて」
「もしかして、他にも有力候補がいたのかな?」
「ああ、里でも人気の人物で魔力も強くて、美貌も……そんな、かつて魔王と戦った“聖者”の再来と呼ばれていた人物がいたが、それを押しのけて選ばれてしまった」
なんとなく大変な状況になっていそうな気がした私だけれど、そこでクロスが、
「だがそれは本音を言うと、ザマァ、と思っていた部分もある。実の所彼女はそこまで美人ではなくて素地の部分では、セレンの方が美人だったから。それもあってか随分いじめられていたからそれはそれで、俺自身も思う所はあったが……その後が大変だった。嫉妬に狂った彼女がセレンを怪我させようとしたりしたが、結局は、“追放”といった形になったか」
「“追放”ですか?」
「俺達は“いばら姫”を守るのみの存在。だから傷つけることは許されない。だから追い出された。それが里の決まりだ。そして、彼女についていくものは誰もいなかったようだった。皆セレンに心酔していたからな」
酷な話だ、と私は思っていたけれど、それが彼らの決まりなのであれば私からはどうこう言えない。
ただ気になるのは、
「その人物が恨んで、セレンの誘拐事件などに関係していると?」
「いや、その人物はすでに死亡している。馬車の事故に巻き込まれて、たまたま監視をしていた人が目を離したすきにそういった事故が起こって……遺体は一応は里に埋葬された。だから彼女についていく人物もいなかったために関係はしていない」
「……そうなのですか」
「色々と我々の里も綺麗ごとだけでは済まない話が多々ある。だが魅了の力はもろ刃の剣だ。それに惑わされてセレンに襲い掛かる輩もいる」
「だったらどうしてセレンから離れようとするのですか?」
それが不思議で私は問いかけるとクロスは言葉に詰まったように黙る。
そしてすぐに、
「……そのセレンを狙った魔王候補だか何だかが、この学園に潜入しているといった情報を得た。それも兼ねてここに俺は入り込んだのにセレンまでついてきて……」
「その情報の出どころは?」
「里の情報を集める部署から、のはずだ。そこに聞かなければさらに何処からもたらされた情報かは分からない」
「そうなんだ……それで、魔王候補が誰かの見当はついているのかな?」
その問いかけにクロスは首を横に振ったのだった。
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