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小説同好会

 小説同好会ってゆうのは、その名の通り小説が好きな学生が集まる同好会や。どんなジャンルが好きなんかは問われることはないし、読むだけの学生でも大歓迎って聞いてる。現在のメンバーは四人やけど、実際に活動してるんは二人だけやな。

 その二人ってゆうのが、今回の事件で事情聴取を受けた坂本泰治君と関本康子さんや。毎週都合の合う日の放課後に会って、小説の話をしたり自作の小説の評価をしあったりしてる。今学期は火曜日と木曜日の放課後に二人の時間が合ったので、午後六時頃まで同好会の活動をしてた。そして、二週間前に近くの階段で事件の一部始終を聞くことになってしまったんや。

 俺は四限目の授業が終わって教員室に戻ると、帰宅の準備を済ませてタイムカードを押す。そして、そのまま四階の小説同好会がいつも使ってる教室へと向かった。俺も小説を読むのは好きやから、よくこの同好会に参加してたりする。


 「こんにちは。何やってんの?」


 階段に近い四階の教室へと入ると、既に坂本君と関本さんは立ち上げたノートPCを見ながら議論してる。


 「あ、先生。今、坂本君の書いたラノベを見てるんですよ」

 「はは、ラノベっちゅうか、ラノベもどきですけどね」


 最初にこちらへ顔を向けた関本さんが楽しそうに声を返してくれた。そしてすかさず坂本君が照れ隠しに関本さんの発言を微修正する。いつも通りやな。


 「お、また書いてきたんか。今度はどんなんや?」

 「いつものとこですねん。ネットに上がってますさかいに、そっちを見てください」


 俺は自分のノートPCを取り出すと、坂本君に指示された通りにとある小説投稿サイトのページをブラウザに表示させる。

 弱小素人作家の場合やと、個人のウェブサイトで公開してもなかなか多くの人を呼び込むことは難しい。そもそも、その手間が面倒やという作家も多い。それに対して小説投稿サイトを使うと、ある程度の読者に見てもらえることが期待できるので、利用する価値があるとゆうわけや。もちろん、多くの他作品に埋もれてしまう可能性は高いけどな。

 まぁ、それはええやろう。

 ともかく、坂本君のペンネームでサイト内検索をかけてページを見つけると小説を読み始める。


 「へぇ、今度は異世界のホラーものか。魔法で無双したら一発で解決してしまいそうやなぁ」

 「あはは、先生、あたしと同じこと言ってる~!」

 「いやいや! まずは読んでくださいって! 魔法無双なんてしとりませんから!」


 こんな明るい雰囲気で読んでも怖くはないように思えるんやけど、今回のは短そうやから一気に読もか。

 二十分ほどかけて読み終わった。一万字くらいのを前後編に分けて書いてあったんやけど……


 「う~ん、電気を消してから読んだ方が良かったかな?」

 「どういう意味なんですか、それ」

 「まぁ、ホラーものやしねぇ。周りの環境っていうのはやっぱり大切やと思うよ」


 精一杯無難な感想を伝えたけど、坂本君は机の上で突っ伏してた。関本さんがその横でにやにやとしてる。それ以上は口にしないように。

 それからはしばらく坂本君の書いた小説の話を三人でしてた。その後は関本さんが勧めてくれた恋愛小説を読んだ感想へと移る。以前紹介されたBLものと違って、ちゃんと男女の恋愛について書かれていたから安心して読めたと伝えると二人とも笑ってた。

 楽しい時間はすぐに過ぎる。いつの間にかショタコンの話に移っていたがそれも一段落し、いつもならそろそろ解散の時間というときになって、俺は今日の本題を思い出した。


 「そうや。二人に聞きたいことがあったんや」

 「え、あたしらにですか?」

 「何ですか、一体?」


 二人は不思議そうな視線をこちらへと向ける。


 「二週間前にあった事件のこと」

 「「あー」」


 それまでの楽しそうな顔から一転してどちらも微妙な顔をする。いきなり切り替えられた話題が殺人事件についてなんやから当然やろう。


 「まぁ、警察の事情聴取と似たような感じになるかもしれんけど、あのときの様子を教えてほしいんや」

 「なんでまたそんなん聞きたいんです?」

 「今期になって、たまたま仁科先生と教員室で昼ご飯を一緒に食べる機会が増えたんやけど、そのときにやたらとあの事件のことばかり話されてな、だんだん気になってきたんや」

 「仁科先生っておしゃべりですもんね~。それで、仁科先生はどんなことを話してたんですか?」


 一応俺の理由に納得してくれたらしい関本さんは、仁科先生の話していたことを聞きたがる。まぁ、これは当然やろう。俺は知ってることを二人に全部話した。


 「う~ん、確かに初めて聞く話もあるけど、どれも想像の範囲内よね~」

 「そうやな。特に衝撃的な事実はないなぁ」


 二人は残念な表情を浮かべる。確かに、俺も美尾ちゃんに気になる点を指摘されるまでは、二人と似たような感想しかなかったもんなぁ。


 「ということで、今度は二人の知ってることを聞きたいんやけど」

 「いいですけど、そんなビビるような話やないですよ?」

 「うん、しかも、声だけしか聞いてないし。あ、声っていうより音かな?」

 「それでもええから」


 こっちとしては、美尾ちゃんのゆうてた佐竹先生の声についての証言があるのか知りたいだけやから、別に話が面白いかどうかまでは気にしとらん。


 「その日はいつもと同じように、四限目の授業が終わってから、この教室に集まって小説の話をしてたんですよ。あれって五時までに来てたよね?」

 「うん、授業が終わってからすぐに来たから、四時五十分までにはここにおったな。そんで、その日は少し暑かったからドアを開けっ放しにしてたんですわ。そのせいで階段から声が聞こえてたんですけど」

 「それやと、佐竹君が説教され始めてからずっと山下先生や佐竹君の声を聞いてたんか?」

 「そういうことになるんですけど、実はいつ説教が始まったのかはわからないんですよね。山下先生が説教するのって珍しくないし。あたしらは無視してたんですよ」

 「そもそも、山下先生はともかく、説教されてたのが誰かっていうのも当時は知らんかったしなぁ」

 「え、そうなん?」

 「いやだって先生、階段から反響して聞こえてくる声なんてちゃんと聞き取れませんって。興味がない上に聞き取りにくい声なんて無視しますやろ?」


 そりゃそうや。せいぜいうっとうしいと思うだけやろう。


 「そうなると、この教室で話をしてたら、いつの間にか階段の方から先生が学生を説教する声が聞こえてきたってくらいか。かろうじて先生が山下先生ってわかったくらいで」

 「そうそう、そんな感じです、先生」

 「山下先生が説教してた学生と口論してたのは覚えてる?」

 「ああ、途中からボルテージが急に上がったから気づきましたよ。あれには驚いたなぁ。絶対キレるようなことを山下先生が言ったんだよ」

 「それでしばらくしてからやったと思うけど、『あっ!』ってゆう声が聞こえたんです。そんで、その後何かが階段から落ちるような音がしたんですわ」

 「どっちが叫んだん、それ?」

 「たぶん山下先生やったと思います。ただ、自信はないですけど」

 「一瞬だったもんね。はっきりとわかるわけないですよ。それと、その後に誰かと誰かが話し合う声が聞こえたんです」

 「仁科先生の話によると、たぶん佐竹先生と佐竹君やな」


 今のところ、佐竹先生の声は山下先生が死んだ後に聞こえただけか。


 「山下先生が死ぬ前の口論で、山下先生と佐竹君以外の声って聞こえんかったか?」

 「二人だけだったような気がする。そんなにたくさんの違う声が聞こえたっていう記憶はないですけど……」

 「う~ん、どうやったかなぁ。俺も二人だけやったような気がしますわ」


 二人とも眉を顰めたり首をかしげたりして思い出そうとしてる。他のことは割とすんなりと話してくれたのに、これだけはいくら考えても何も出ない様子や。そうなると、恐らく山下先生と佐竹君は事件が発生するまで二人きりやった可能性が高いな。


 「あー二人とも、それ以上何も出てこなさそうやし、こんでええわ。もう六時も回ってるし、今日はこのくらいにしとこか」

 「あ、ほんまや! 俺このあと見たいテレビあんのに!」

 「どうせ録画してるんでしょ?」

 「いやそうなんやけどな!」


 今までの真剣な表情から一転して、二人はいつもの明るい顔に戻る。荷物を鞄に詰めてから俺に挨拶をすると、さっさと教室から出ていった。

 とりあえず、知りたいことは聞けた俺は、教室の電気と空調を切ってぼんやりと考え事をしながら扉を閉めた。

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