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第24話:加賀の「一揆の残党」、安土の「固定給」に溶ける

1:日本海を塞ぐ鉄の障壁


「――信長様は、北陸の海すら一瞬で干上がらせるおつもりか」


西暦一五七〇年代半ば、天正の初頭。加賀国。

かつて「百姓の持ちたる国」と呼ばれ、強固な一向一揆の拠点が残るこの地にて、国人衆や顕如に付き従わぬ一揆の残党たちは、激しい驚愕に身を震わせていた。


すでに本願寺が周辺を完璧に経済包囲され、戦う前に無血開城して『国営宗教法人』へと形を変えた噂は加賀にも届いていた。しかし、加賀の一揆衆は独自の海運網(闇の流通網)に固執し、新政庁への抵抗を試みようと小舟を集めていた。


だが、彼らの目の前に現れたのは、三好水軍と九鬼水軍が放つ、無数の櫂と薄い鉄板を貼り付けた新型鉄甲船の巨大な艦隊であった。


「報告いたします! 織田海軍省の船団が、敦賀から能登、加賀の沖合に至る日本海の海路を完璧に封鎖いたしました! 独自の抜け荷の裏路は百パーセント塞がれ、領内は大物価高騰に見舞われております!」


戦う前に、塩も、硝石も、日々の食糧すら寸分の狂いもない正確さで断ち切られている絶望。かつて一国を支配した一揆衆の誇りは、目に見えぬ軍勢の前に秒速で解体されつつあった。



2:百姓の国、国営の港湾開発へ就職す


「大義に従う者は近代官僚として活かし、拒む者は合法的に一瞬で処分する。これが惣追捕使様の掟だ」


加賀の陣所。安土から出張してきた明智光秀が、帝の一人称『朕』が記された宸翰を掲げ、加賀の代表者たちへ最終宣告の書類を突きつけた。


それは、加賀の古い武力を完全に解体スクラップする代わりに、彼らの卓越した海運能力を活かした『北陸港湾開発局』の役職と、手厚い『固定給』を約束する、最高総参謀局(二兵衛)の非情にして完璧なハメ手であった。


「戦をすれば民が死に、田畑が荒れる。されど織田に従えば、本願寺の門徒らが京や近江でそうされているように、高額な固定給をもらって『国営寺子屋』や『国営孤児院』の恩恵に預かれるのだぞ」


光秀の冷徹な言葉に、一揆衆の長たちは涙を流してひれ伏した。抗えば秒速で滅ぼされるが、従えば無理のない環境で、民と共にこれ以上ない富を得られる。加賀の港湾や街道を近代化する大開発の労働力として、彼らは自ら進んで新政庁の近代システムへと就職ビルドしていくのだった。


これにより、光秀が越後へと通じる陸路の物流網は百パーセント開通した。越後の上杉謙信(某)が引き受ける将来の異国(ロシア・清)の南下を防ぐ「北の不滅の壁」への先行投資(補給路)は、ここに寸分の狂いもない完璧な形で繋がったのである。



3:絶対覇王の仮面と、日本海の冷や汗


その頃、安土の新政庁。物見櫓から初夏の風を受ける余の胃壁は、限界を超えた大物価高騰を起こしていた。


(……いやいやいや! 光秀に『上杉への通り道を少し綺麗にしておけ』って言っただけなのに! なんで二兵衛は日本海を百パーセント封鎖して、加賀の一向一揆の生き残りを丸ごと国家公務員にしてハメ殺してんの!? 容赦なさすぎて内心ガチで動揺と冷や汗が止まらんわ!)


覇王の仮面をガチガチに固定しながら、余の内心はパニック状態に陥っていた。


古い権益を秒速で解体し、適材適所で近代官僚へと就職させる――周囲からはそんな冷徹無比な絶対強者に見えているだろうが、余の心臓はもう限界だ。さらに正室の帰蝶、臨席する副総裁の井伊直虎、そして九州の立花誾千代が並んで現れる。


「上様、北陸の掌握、実に見事な大開発にございます。これでまた加賀の美しい名産や、現地の美女たちが国営官僚として安土へ大量に就職してまいりますね。……内親王さまの降嫁を間近に控えながら、まさか、他に『下心』があってのことではございませぬよね?」


帰蝶の、全てを見透かすような絶対零度の視線が余を射抜く。誾千代は「惣追捕使様! この誾千代、いつでも北陸への視察に供奉する所存!」と男勝りに算盤を叩き、直虎は「流石は上様、神仏のごとき先見の明……!」と目を輝かせている。


「ふん、加賀の海運を北の防衛線に転用する。すべては余の計算の内よ……」


余は震える手で茶を飲み、威厳たっぷりに言い放った。北陸の足固めは万全となったが、余の胃の寿命だけは、到底持続可能とは思えぬ領域へ達しつつあった。


(第二十四・五話(幕間):安土の給与袋、あるいは降伏者たちの拝賀へ続く)

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