甘くはないね、森丸くん
「ヘッ…………」
いきなりの展開に驚きすぎて息しか出せなかった。固まっている私をよそに、さらちゃんは冷静に核心をついてきた。
「なんかカッコよさげな雰囲気ある〜と思って、バニラアイス提供する時チラッと見ちゃったんですよ。そしたら、あれ……見たことあるくね?と思って」
「ウン……」
「レザーじゃね?と思って。本当にそうかは分かんないですけど」
__いや、正解!
「あたしレザーの辞めちゃった人の顔タイプで、最初ちょっとだけ地味に見てたんですよね。あの辞めた人……じゅん…………高野純也!」
まさか、高野純也の顔ファンが池袋の西口にいるとは。それより、バレちゃったな。どうしよう、も何も普通に『え〜そうなの〜?』とか流そうかな。
「レザーのメンバーな気がするなー、名前なんだっけ。顔は分かるんですけど」
__森丸だよ。森丸天音!
「あの部屋203ですよね。受付用紙見れば分かるかな。あっ、これだ。……佐藤天音?」
__あ、佐藤だ。ここでは佐藤だった。
「佐藤天音。え、こんな名前だったかな?」
__いいえ、森丸天音。
「いおりさん、分かります? てかそもそもレザー知ってます?」
さらちゃんのこっちを見る目に、動揺を隠せない。『なんとな〜く分かるけど。203の人がそうなの?』のスタンスを取るか正直に話すか。
どうしよう、もう時間がない。変な間になる前に結論を出してなんか言わないと。
さらちゃんなら正直に話しても大丈夫な気がするけどな。人への興味が薄いっていうか、何言っても『あー、そうなんすね』くらいの温度でいてくれる感じ?ねちっこくないと言うか、サラっとしてて……あ、さらちゃんだけに笑。
「いおりさん……?」
ドブ以下のユーモアで冗談こいてたせいで、変な間になってしまった。こうなったらもう、言っちゃうか!
「さらちゃん、合ってるよ。203の人はレザーの人」
「えっ! やっぱりそうですよね。いおりさんも知ってたんですね、レザー」
「うん。それであの人は佐藤天音じゃなくて、森丸天音」
「そうそう森丸! やっぱ佐藤じゃないですよね。」
「それに先々週から遭遇してる。全部金曜日で、今日と同じような時間」
「へー、そうなんだ。ハマったんですかねー」
さらちゃんは最初こそ少し驚いていたものの、やはりすぐにそうなんすねーのモードに戻っている。よかった。
「それでその……森丸って私の中学の同級生なの」
「えっ、マジですか! 何か喋ったりしなかったんですか?」
「ううん。向こうは気づいてない。別に仲良くもなかったし、流石に分かんないと思う」
「えー、そうなんですね。やっぱその頃からカッコよかったんですか?」
「うん、整ってる感じだったよ。背も高かったし。でも目立つタイプじゃなかったからさ、オーディション出るって聞いた時はめっちゃびっくりした」
「そうなんだー。でもそんな感じしますよね。今もアイドル!って雰囲気はあんまり無いですもんね」
「そうなんだよねー」
さらちゃんと話していると203のドアが不意に開き、森丸が登場した。
絶賛あなたの話をしているところだが、そんなことはつゆ知らず、むき出しの森丸でドリンクバーを利用し颯爽と帰っていった。
「てか、何も変装しないで使ってて大丈夫なんですかね?」
「それなのよ。店に入る時はメガネとか帽子してるのに、部屋行ったらすぐ取るからこっちがヒヤヒヤするんだよね」
「ですよね。だってこの私がピンと来たくらいだから、他にもバレる可能性高いのに」
「そうなの」
そして私はさらちゃんに、前回はメンバーの山本風李くんも一緒に来ていたことや、中ではラップ曲を歌ったり自分のデビュー曲まで歌ったりしていたことなども話した。
「遭遇するの3回目だけどいまだに謎なんだよね。何しにわざわざここに来てるのか。普通に息抜きなのかなーとも思うけどさ」
「うーん。そうですね……」
ティロリ♪『203:(1名)フライドポテト』
ティロリ♪『203:(1名)⭐︎割り箸』
考えモードに入っていた2人の間に、チャイムが2発響いた。
必ず箸を付けてもらうために、“揚げ物”のページからポテトを頼んだ後、すかさず“サービス”のページに飛び割り箸を入力する、という流れを完璧に仕上げて来た森丸。
「いおりさん、来ましたね」
やる気の中に冷静さをきちんと備えたさらちゃん。すぐにキッチンへと消え、すぐにフライドポテトを仕上げてきた。
「何かレザー確定となると急に緊張しますけど、まっすぐ置いてきます」
さらちゃんはさっきより少し固い足取りで203へとポテトを運んでいった。
無事に出てくると、今度は何やら真剣な表情。
「どうしたの?」
「いおりさん。何となくですけど、分かったかもしれません」
あのすいません、……何が?




