十三話・告白
大きな足音と男女の争うような声で廊下の方が騒がしい。何だろうと首を傾げるが不安はなかった。騒動の原因のものは自分に害を及ぼさないと、何となくだが本能的に分かっている。
だんだんと音が大きくなっていき、扉を蹴飛ばすように開け男が入室して来た。よほど急いでいたのか息を切らし、額には汗が滲んでいる。
顔には心配の色が見えて、知らず頬が緩んでしまう。
「レイシン、起きたって聞いて」
「コウジン」
会いたいと願っていたが、ほんの少し時期が悪かった。レイシンのあられもない姿を直視し、コウジンの顔は走ってきたことを抜かして赤くなる。走ってきたにしても赤過ぎなので視線を辿っていくと答えは見え、レイシンの顔も恥ずかしさのあまり赤く染まる。
「す、すまない。急に成人したんで合う衣がなかったんだ」
「いや。俺こそ悪い」
慌てて後ろを向くコウジンにレイシンは笑みを零す。床に足を下ろし、慎重にコウジンの元へ向かう。
子どものときも大きいと思ったが、成人しても彼は見上げなくてはならない。男と女の差だろうが少々不公平だと不満を感じるものの、コウジンよりも背の高い自分を想像できないので溜飲を下げる。
「あのな、コウジン」
そっと背中に寄り添うと動揺しているのか思いっきり体が揺れる。レイシンは気にせずに言葉を続ける。
「私はお前が好きだ」
今しかないと思った。早く言わなければユミンや他の者達が来てしまう。自分の決心が鈍って、次などなくなり言い出せなくなる。焦りから早口になっていく。
「どうしようもないほど焦がれている」
貴方が欲しいと言外に伝えれば、正面から抱きしめられる。久しく感じていなかった温もりに目を閉じ堪能する。
「レイ、シン」
囁くよう情熱的に名を呼ばれ見上げれば、コウジンの目から涙が滝のように流れている。こんなにも自分を好いていてくれるなんてと愛おしくなり、右手を彼の頬に伸ばして涙を拭ってやる。
「嘘じゃないよな? お前が俺を好きだって。夢じゃないよな」
半ば呆然としたようにコウジンが呟くのをレイシンは頷き肯定する。分かりやすく背中に手を回すと、浮遊感と共に抱き上げられた。
「レイシン、俺もお前が好きだ」
持ち上げられたためか目線が同じになる。唇が触れそうになるほど近くになり、濃い緑色の目が真っ直ぐレイシンを捉える。
「どうしようもないくらい愛しているんだ」
そっと床に下ろされ、一拍置いてから跪く。コウジンの突然の行動に驚くが、黙って続きを待つ。
「俺の妻になってくれ。これから先、ずっと共に歩んでいって欲しい」
真髄な眼差しを受け、心はじわじわと熱くなっていく。どうしていつも欲しい言葉をくれるのだろうか。こんなにも一緒にいたいと思わせてくれ、目を閉じても靄がかかることはなく未来を描ける。
「こんな私でも良ければ、末永く共にいたい」
頭を垂れたままのコウジンの両手を取り包み込む。ゆっくりと顔を上げていくコウジンと見つめあう。
甘い雰囲気を生み出す中、わざとらしい咳が聞こえた。
「えー、こほん、おっほん、そろそろよろしいでしょうか?」
レイシンとコウジンが揃って扉に顔を向けると、二人を見ないように廊下に目をやりながら、困ったように立ち尽くしているユミンがいた。
「お、お前、いつから居たんだ?」
額を押さえながらコウジンが声を低くする。嘘を吐いたら許さないといった声色にユミンは頬を掻く。
「えっと、『お前が好きだ』辺りでしょうか」
「始めからじゃないか。頼むからいるのなら声をかけてくれ」
「はい、善処します。……多分」
ガックリと肩を落とすコウジンにユミンは澄ました顔で入室してくる。
「レイシン様、お待たせして申し訳ありませんでした」
「えっと、ユミン。何も持ってないようだが」
手ぶらで荷物を持っている様子もないので、レイシンは困惑してしまう。
「いえいえ。あります。さ、ここへ!」
ユミンがパンッと手を叩くと、どこらか湧いたのか侍女が出てくる。皆、手には衣やら髪飾りやら大量の品を手にして、獲物を見るような肉食獣の目で舌なめずりしながら近寄って来る。戦闘能力なんてないか弱そうな女性達に何だかレイシンの腰は引けてくる。
「さあ、レイシン様。お着替えしましょうね」
にっこりとした笑みを浮かべるユミンだが、やはり他の侍女達のように武官さえびびらせる威圧感がある。助けを求めるようにコウジンを見るが、着替えの邪魔にならないように出口へ向かっていた。
「皆、行くわよ」
ユミンが高々に声を上げると、侍女達は水を得た魚のようにいきいきとレイシンに襲い掛かってきた。あっさりと巻いていた布を取り除かれ、とっかえひっかえ衣を纏わされる。
「うふふ、腕が鳴りますわぁ」
この色が良い、形はこれ、装飾はこれじゃなくそっちの。絶え間なく侍女達が声を張り上げレイシンを飾り立てていく。
もっと動きやすい物が良いなんて言葉を挟む暇もなくされるがままになる。どんどん体力が削られていくレイシンに、ユミンは極上の笑顔を向けてきた。
「女に生まれたからには着飾りませんとね。覚悟してくださいませ」
今までの分を取り返す。副音声でそんな言葉が聞こえてきた。