第2章18話 お? おお?
ケイナの一件から5日。
奴隷たちの支援とケイナの感情に区切りがつき、俺たちはファロウに戻ってきた。
火山とマグマの川、灰に覆われた地獄。
奴隷たちやケイナが味わった地獄と比べれば、分かりやすい地獄。
むしろ清々しい気分で汗を拭いながら、俺は遠くに立つフユメとメイティに呼びかける。
「おーい! 聞こえるかー!?」
「聞こえますー!」
「よし! 魔法修行をはじめるぞ!」
実のところ、俺はもうこの惑星で学べる魔法はないと思っている。
それでもファロウに戻ってきたのは、メイティの修行のためだ。
「メイティ! 噴火魔法で俺を吹き飛ばしてみろ!」
遠くでぺこりとうなずくメイティが見えた。
おそらくだが、メイティの五感には火山の勢いがすでに刻まれている。
あとは彼女が想像力を駆使し、想像した現象の具現化――魔法――を行えるかどうかだ。
想像する対象は、それが具体的であればあるほど想像しやすい。
だから今回、噴火魔法で俺を吹き飛ばす、という明確な対象を想像するよう、メイティに伝えておいた。
俺の指示に従っているのだろう。遠くに立つメイティは、俺に向かって両腕を突き出している。
さて、メイティが魔法を使えるようになるときは訪れるのだろうか。
「これは誰も殺さず誰かを守るための修行だ! 噴火魔法で俺を殺す場面を、はっきりと想像しろ!」
何を言っているのか、自分でもよく分からない。
フユメの治癒魔法に対する絶対的な信頼がなければ、本当に意味の分からない言葉だ。
しかしメイティは、俺と同じくフユメに絶対的な信頼を寄せている。
「お? おお?」
俺の足元が振動し、岩の隙間から煮えたぎるマグマが滲み出していた。
安全な場所からこちらを眺めるフユメも、俺の足元の異変に気づき体を乗り出す。
これは、ひょっとするとひょっとするかもしれない。
メイティの背中を押してみよう。
「自分の願いのために想像するんだ! お母さんを喜ばせようと炎魔法を覚えたみたいに!」
どうしてメイティは小さな炎魔法だけが使えたのか。
どんな小さな炎であろうと、暗闇の中にいる母親を照らし出すためだ。
つまり、明確な願いのためならば、メイティは魔法を使えるのだ。
だからこの魔法修行でも、メイティが明確な願いを持っていたなら。
「魔法を覚えて、誰かを守ろう! 誰も殺さず誰かを守る――」
そのときは来た。
足元に広がる地面はひび割れ、マグマが吹き出し、噴煙が辺りを覆ったのだ。
それはまさしく火山の噴火。
魔力によって引き出された現象が、どこからともなく具現化した結果。
ついに、メイティは噴火魔法を使えるようになったのである。
弟子の成長に喜んだ俺は、マグマと噴煙の中、満面の笑みを浮かべ死んでいくのであった。
伝説のマスター、弟子の成長を見届け、ここに死す。
「起きてくださいソラトさん! やりましたよ! メイティちゃん、ついに噴火魔法を使えるようになりましたよ! すごいです!」
蘇生魔法によりこの世に戻ってきた俺が最初に目にしたのは、高揚感に身を投げ捨てメイティを抱きしめ、猫耳を永遠にモフモフし続けるフユメの姿であった。
若干、いや、かなりメイティは困り顔なのだが。
「よくやったぞ、メイティ」
とりあえずフユメのことは放置し、俺はメイティに親指を立てる。
その行動の意味が分からなかったのだろうか、メイティは小首をかしげた。
うむ、フユメが抱きつきたくなるのも納得なかわいさだ。
「……他の魔法、試したい……」
「さすがメイティちゃんです! 向上心がすごいです! ソラトさんとは大違いです!」
「そこで俺の悪口を入れるのかよ」
「悪口ではありません! 事実です!」
「まあ、否定はしないけど」
「自覚はあったんですか」
「俺のことはどうでもいい。メイティ、好きな魔法を使ってみよう」
弟子の成長を見守るのは、こんなにも心躍ることなのか。
メイティがやりたいと言ったことは、なんでもやらせたい気分だ。
俺はすぐさま遠くに行き、メイティを正面に見据え仁王立ちし、メイティが魔法を使うのを待った。
そこからは死の連続である。
どうやら一度コツを覚えたメイティは、勇者としてのアドバンテージを最大限に利用できるようになったらしい。
メイティの火砕流魔法により、空気と一体化し流れる岩の塊に俺は包み込まれた。
メイティの地震魔法により、崩れる地面に俺は呑み込まれた。
メイティのガス魔法により、生命維持機能は完全に破壊され俺は倒れた。
死ぬたびにフユメに蘇生され、弟子のためにと、俺は高揚感を胸にメイティの魔法を受け続けた。
今の俺は、はたから見ればドMを通り越した異常者だろう。
数度目の蘇生の際、メイティは俺の袖を掴み、囁くように言った。
「……ソラト師匠、もう大丈夫……」
「大丈夫って、何がだ?」
「……わたし、ソラト師匠を狙わなくても、魔法使える、と思う……」
「気を遣ってる、って感じじゃなさそうだな。だけど、まだちょっと早いような――」
「ソラトさん、メイティちゃんならきっとできますよ。ほら、お弟子さんを信じましょう」
「……分かった。じゃあメイティ、自由に魔法を使ってみろ」
もしこれができれば、立派な魔法使いの仲間入りだ。
メイティは魔法を使うため両腕を突き出す。
溶岩と灰色の空に覆われた世界で、想像した現象を具現化しようと目を瞑る。
誰も殺さず誰かを救う勇者になるため、五感の記憶を呼び起こす。
俺とフユメは、伝説のマスターとして、彼女の修行を見守るだけだ。
「……マグマ魔法……!」
そうつぶやくと同時、メイティの手の平からマグマが出現する。
まるでホースから噴き出した水のようなそれは、メイティの腕の動きに合わせ、風に揺れる糸のごとく動き回っていた。
加えて、メイティの想像に従順なマグマは、噴き出す量や太さまでも自由自在。
「すごいな……」
「はい、とても綺麗です……」
灰色を切り裂くオレンジの曲線に、俺たちは心を奪われてしまう。
芸術的な美しさを纏ったマグマには、メイティの願いが込められているかのようであった。
「……ソラト師匠、フユメ師匠、わたし、魔法使えた……」
マグマのショーを終えたメイティは、嬉しそうに振り返りそう言う。
嬉しいのは俺たちも同じだ。
「やったなメイティ! すごいぞメイティ! さすがは俺たちの弟子だ!」
「私、感動しちゃいました! メイティちゃんが、こんなに成長していたなんて……!」
感情を爆発させる俺たちに、心なしかメイティが困惑しているような気がする。
しかし、俺たちの感情は素直な感情だ。
確実に勇者への道を歩むメイティの成長が、自分のことのように嬉しかったのだ。
次回 第2章19話『……これなら、プーリン、作れる……』
ラグルエル「魔法が使えるようになったメイティちゃんは、今度は古代兵器の製造を開始するようだわね」




