第2章17話 誰かを殺したくないなら、誰も殺さなきゃ良いんだ
自分の過去を語ったメイティ。
ついに現在にまで到着した彼女は、辛い思いを吐き出した。
「……わたしの大切な人、みんな、いなくなっちゃった……」
母親は病で、父親はギャングに、ロングボーは帝國軍に殺されてしまった。
「……でも、わたしは誰も傷つけたくない……それが、大切な人を奪う人でも……」
大切な人を失ったからこそ、敵の命も奪えない。
それがさらに、メイティから大切な人を奪ってしまうにもかかわらず。
だからこそメイティは、死というものから目を背け続けた。
「……わたし、自分勝手……だからケイナも、わたしでは救えなかった……わたし……ソラト師匠みたいに、強くない……」
うつむき、自分を責めるメイティ。
師匠と呼ばれ嬉しい気持ちを片隅に、俺は考えた。
どんな言葉をかければ良いのか、脳をフル稼働させて考えた。
考えた末、数年前の悲劇が俺の頭をよぎる。
「昔な、俺の友達が、学校でいじめに遭ってたんだ。暴力だけなら可愛いもんで、精神的な部分を徹底的に痛めつける、タチの悪いいじめだった」
思い出すだけでも胸糞悪い。
「俺は、次のいじめの対象になるのが怖くて、友達を救わなかった。結局その友達、自殺したよ」
自殺現場は見ていない。
ただ、教師から友達の自殺を聞かされただけだ。
それでも、俺の心は強く締め付けられた。
「今でもよく思う。友達を救うチャンスはなかったのかって。同時に、無関心と恐怖が、人を殺すんだって。それ以降、どうにも俺は、いじめをするようなタイプの人間が許せなくなってな」
それはただの怒り。
想像力の欠如から他人を死に追い込む人間と、友達を救えなかった自分への怒り。
至極単純な感情である。
「きっと友達を救えなかった後悔もあるんだと思う。いじめをするようなヤツを見るとぶっ飛ばしたくなるし、いじめられている人を見ると、その人が死ぬ前になんとかしないと、って心が焦るんだ」
正義や悪といった話ではない。
誰かの命を救うことに、正義とか悪とかいう高尚な理由は必要ない。
必要なのは覚悟だ、と俺は思うのだ。
二元論から外れた曖昧な世界に足を踏み込む覚悟。
「だから俺は、いじめの極致——誰かの命を奪おうとするヤツを許さない。誰かの命を奪おうとするチンピラ、帝國軍兵士、ゴロツキどもを殺したこと、後悔もしない」
他人の命を奪うのにも覚悟は必要である。
奪った命に対する責任を負う覚悟と、自分が殺される覚悟だ。
チンピラや帝國軍兵士たちは、他人の命を奪おうとしたのだから、自分が殺される覚悟ができていて然るべきなのだ。
殺される覚悟をしている者たちの命を奪ったところで、俺は後悔しない。
「だけど、これで俺も、誰かの命を奪うヤツらの仲間入りだ。俺は、いつ誰かに殺されても文句は言えない立場になったんだ。俺は強いわけじゃない。俺は、感情に従って自分の立場を貶めた、ただのバカだよ」
褒められたものではないのである。
結果的に、俺は命の選別をし、向こう側の人間になってしまったのだから。
「メイティは、俺みたいにバカになる必要はない。誰かを殺したくないなら、誰も殺さなきゃ良いんだ」
「……だけど、それだと、誰も守れない……」
現実に悲観しうつむくメイティ。
彼女がそんな表情をする必要はないというのに。
「無力なヤツなら、誰も守れないだろうな。だけどメイティ、お前は違うだろ。お前は勇者だ。五感で覚えた魔法を使えば、お前は『ステラー』最強の英雄にもなれるんだ。そこまで強い力があれば、誰も殺さずに、誰も彼もを守れる」
「……本当……?」
「ああ、本当だ。汚い仕事は俺やシェノがやれば良い。メイティ、お前は誰も殺さず、世界を守れば良いさ。ただそのためには、きちんと魔法を覚えなきゃいけないけどな」
「……誰も殺さず、世界を守る……」
本来のメイティの願いは、間違いなくそれであった。
だが彼女は、その願いを実現させる方法を知らなかった。
ならば、その方法をメイティに教えることこそ、伝説のマスターである俺の役目。
果たして俺が役目を果たせたのはかどうかは、正直言って分からない。
少なくとも、遥か遠くを見つめるメイティの瞳には、絶望を照らそうとする炎にも似た仄かな光が、わずかに輝いている。
今回の仕事は最悪の仕事であった。
ケイナは深く悲しみ、メイティは厳しい現実に直面した。
それでも、魔法修行という観点から見れば、必ずしも最悪の仕事ではなかったのかもしれない。
次回 第2章18話『お? おお?』
ラグルエル「最悪な仕事は終わり、クラサカ君たちは魔法修行を再開する。この修行で、ついにメイティちゃんが……!?」




