表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/182

第2章16話 まるで、昔話の勇者が使う魔法みたいね

 14年前、とある商船にてメイティ=ミードニアは誕生した。

 遠い昔の大戦で故郷を失い離散し、宇宙を漂い生き続けるニャアヤ族にとって、それは珍しことではなかった。


 メイティは、十数人規模の小さなニャアヤ・コミュニティにて幼少期を過ごす。

 決して豊かとは言えず、刹那的な生活を送る中、多忙な父に代わって、メイティは病床の母の看病をしていた。


 母の看病は、大好きな母親との時間を過ごせる、メイティにとっての至福の時。メイティは常に母に付き添い、母のために頑張り続けた。

 そんなある日のことである。


「あら、商船の電源が落ちてしまったようね」


 電気が消え、暗闇の中、ベッドに横たわるメイティの母は、そうメイティに告げた。

 100年は宇宙を漂う商船である。この程度の不具合は今にはじまったことではない。


「メイティ、どこかにランプがあったはず。探してくれる?」


「うん」


 穏やかな母の言葉に従い、メイティはランプを探す。

 夜目が利くニャアヤ族にとって、暗闇は大きな問題にならない。ただ、光は心の平穏のため、ニャアヤ族にとっても必要なもの。

 すぐにメイティはランプを探し出した。


「お母さん、このランプ、どうやって使うの?」


「これは、随分と古いものね。火を使うものだわ。ここのつまみを回せば、明るくなるわよ」


 言われた通りに、ランプのつまみを回すメイティ。

 ところが、慣れない古い道具というものは、小さな女の子には少し扱いが難しかったようである。

 燃料が漏れていたのか、単に点火装置が壊れていたのか。ランプの炎は勢い余り、メイティの指に火傷を負わせてしまう。


 驚いたメイティはランプを落とし、ランプは床に激突した衝撃で壊れてしまった。


「あっ、お母さん、ごめんなさい……」


「片付けておいてくれれば良いわよ。もともと古いものだしね。それよりメイティ、火傷は大丈夫?」


「大丈夫」


 暗闇の中、ランプの灯りのように微笑む母だが、メイティはなおも母のために明かりを探す。


 とはいえ、扉の電子ロックは停止し、部屋からは出られない。

 どこにも存在しない明かりを探したところで、意味はない。


 そこでメイティは、幼心に思いついたのだ。自分が明かりを作れば良いと。

 母のためにと、メイティは先ほどのランプの炎を思い浮かべた。炎を思い浮かべ、自分の指先に炎が揺れる場面を想像した。


 すると、想像した通り、メイティの指先に小さな炎が揺れる。


「メイティ!? それ、どうやったの!?」


「……分からない」


「すごいわ! まるで、昔話の勇者が使う魔法みたいね!」


 仄かに照らされた部屋の中で、母は娘の不思議な力に驚いていた。

 対してメイティは、母に聞く。


「お母さん、明るい?」


「ええ、とっても明るいわ。病気も治っちゃいそうなぐらいよ。メイティ、ありがとう」


 喜ぶ母の姿を見て、メイティは照れたように笑う。

 そしてメイティは思う。これかもずっと、母を支え続けようと。


 メイティの母が息を引き取ったのは、それから半年も経たぬ内であった。


    *


 母を失い、メイティは父の仕事を手伝う日々を送る。


 ところがメイティを乗せた商船が、とあるギャングに襲われた。

 父を含む多くのニャアヤがギャングに殺害され、しかしメイティは生き残り、奴隷市場へと送られてしまう。


 奴隷としての生活は、実のところ父の仕事を手伝っていた頃と、あまり変わりなかった。

 過酷な労働と貧しい生活は、商船にいたときと変わらない。


 粗末な食事と粗末な服装は、ニャアヤ族にとって普通のこと。

 必要最低限の住居は、あるだけマシだ。

 刹那的な生活を送るのは、何も変わりはしなかったのだ。


 ただし、メイティを気にかけてくれる人はもういない。暴力や暴言も日常茶飯事。いつしかメイティは、言葉を口にしなくなっていた。


 そうして5年の月日が経過した。


「くだらないミスしやがって!」


「……ごめんさない……」


「小娘! 処罰の時間だ!」


「大変です兄貴! 同盟軍が襲ってきました!」


「ああ!? なんだと!?」


 奴隷生活は唐突に終わりを迎えた。

 暴言と暴力にまみれたギャングたちは、銀河連合・同盟軍に殲滅され、メイティは奴隷から解放された。


 解放されたメイティは銀河連合の病院に連れて行かれ、弱った体は治療を受ける。


 久々の平穏に母を思い出したメイティは、意識せず指先に炎を揺らした。

 この光景が、銀河連合・同盟軍を驚かせ、彼らに新たな欲求を植え付けた。


「もしかしたら、彼女には大変な力が宿っているかもしれない」


「その力、同盟軍の兵器として利用できれば……」


「魔術師メイティ=ミードニア。同盟軍最強の兵器として、銀河の平和と自由を守ってもらおう」


 話は勝手に進んでいた。

 衰弱した体が回復し退院すると同時、メイティは同盟軍に連れられ、以降は軍事施設で過ごすこととなる。


 軍事施設での毎日は、訓練の毎日と同義であった。

 さすがの同盟軍も魔術の使い方は知らない。メイティも、当時は魔法の覚え方を知らない。

 手探りの訓練は毎日続き、それでも何らの成果を生み出すことはできなかった。


 そもそも、メイティは誰かを傷つけるのを拒否し、訓練を受ける動機もない。訓練がうまくいくはずはなかったのである。


 メイティも、自分を兵器扱いする軍人たちに懐くことはなかった。

 彼女にとって軍事施設での毎日は、暴言や暴力の少ない奴隷生活でしかなかったのだ。


 同盟軍は徐々にメイティの訓練を諦め、ある決断を下す。

 まともな軍人がダメならば、まともでない軍人にメイティの訓練を任せようと。


「お主が魔術師のメイティ=ミードニアか? こんな小さな子を最強兵器扱いとは、同盟軍もわし以上に耄碌(もうろく)したかの」


 初対面でそう言い放った退役軍人ロングボー。

 彼は同盟軍特殊部隊の元隊員。50年前と30年前の戦争で活躍した伝説の戦士。

 生来、組織というものに馴染まぬ彼は、30年前の戦争が終わり現役を退くと、1人の老人として悠々自適な日々を送っていた。


 そんな彼を、同盟軍はメイティの訓練のため呼び戻した。


 なぜロングボーはメイティの訓練を引き受けたのか? 

 メイティがその疑問を口にする前に、ロングボーは答えた。


「軍の訓練は大変だったじゃろう。自由はないし、何より楽しくないからの。でも安心せい。わしのところに来たからには、もう好きにして良いからな」


 つまりロングボーは、メイティを同盟軍の訓練から解放(・・)したのだ。

 それが組織を嫌っているからなのか、メイティを憐れんだのか、はたまた違う理由なのか、メイティには分からない。


 ロングボーによる訓練は、ほぼ訓練とは言えないものである。


「今日は風が強いのお。そうじゃ、山登りてもしてこい」


「今日は波が高いか。ほれ、ちょっと海を泳いでこい」


「たまには絵でも描いたらどうじゃ? 楽しいぞ」


「プーリンの作り方を教えよう。作り方を覚えたら、自分で作ってみるがいい」


「雨が降ってきたの。雨の日こそ、外で遊んでみたらどうじゃ?」


 ちぐはぐな指示ばかり。

 意味も分からず、メイティは機械のようにロングボーの指示に従い続けた。

 なぜそんなことをしなければならないのか、どうしてこんなことをしなければならないのか、を考えない。これが、刹那的な人生を送ってきたメイティの答えである。


 どんなに意味の分からぬ指示を与えられようと、メイティはロングボーの指示に従い続けた。

 結局、訓練は1年半も続く。


 ロングボーは高齢だ。彼はベッドや椅子からあまり動かない。

 いつしかメイティは、ロングボーの介護をするようになっていた。

 そのせいだろうか、メイティは母を看病して過ごした毎日を思い出すようになる。


 母の姿とロングボーの姿が重なったのだろう。メイティはロングボーに心を開きはじめていた。

 魔法は一向に使えるようにならなかったが、メイティはロングボーとの時間を過ごすのが、少し楽しみになってきていたのだ。


 しかし今回も、ロングボーとの別れは唐突に訪れる。


「厄介なのが来たの。お主はここで待っておれ」


 ある雨の日、突然の訪問者にロングボーはそう言って、家の外に出た。

 やはり指示に従い家の中に残ったメイティは、ロングボーの最期を見ていない。

 彼女は外から響いた銃声を耳にしただけだ。


 ロングボーが帰ってくることはなかった。

 代わりに現れたのは、物々しい帝國軍兵士たちと、金の刺繍に飾られた黒のマントをはためかせる、軍帽からボブカットの黒髪を垂らした、美麗な女将校。


「私は栄えある帝國軍第2艦隊所属、巡洋艦ストレローク艦長のケイ=カーラック大佐だ。魔術師、我らが帝國の未来のため、貴様を連行する」


 今までと同じく、メイティは抵抗しなかった。

 彼女はカーラックに連れられ、巡洋艦ストレロークに拘留される。


 人類支配論を声高に唱える帝國にとって、ニャアヤ族であるメイティは家畜同然。

 ストレロークの独房で過ごす日々は、奴隷として過ごした日々となんら変わりなかった。

 窓もない独房で、メイティが何日間を過ごしたのかは分からない。


 拘留されてだいたい数ヶ月。独房で粗末な食事をしていたメイティのもとに、帝國の軍服を着た1人の女性がやってきた。

 同じ軍服を身につけながら、カーラックとは違い暖かい雰囲気を(まと)った、ブロンドヘアを揺らす女性。

 メイティはその女性を、女神であると直感する。


「はじめまして、メイティ=ミードニアちゃん。私はラグルエル=オルタファ=メイエムフォン=イーゼン。いきなりで悪いんだけど、あなたは『ステラー』の勇者に選ばれました。おめでとう」


 いきなりすぎる言葉に、メイティは首をかしげるだけだった。

 だがラグルエルは、構わず話を続ける。


「あなたには、五感で覚える魔法修行という能力が備わってるわ。その力を使って、メイティちゃんには『ステラー』を危機から救ってほしいの」


「……ここから、出してくれる……?」


「ごめんなさいね、私には無理だわ。だけど、これからあなたを救ってくれる人がいるから、もう少し待っててね」


 そう言って、ラグルエルはメイティの額に手を当てる。

 メイティは安寧と平穏に包まれ、深い眠りに落ちていった。


 再び彼女が目を覚ましたとき、彼女は脱出ポッドに乗せられ、4人の人間に出会う。

次回 第2章17話『誰かを殺したくないなら、誰も殺さなきゃ良いんだ』

ラグルエル「メイティちゃんの過去を知ったクラサカ君は、どんなことを口にするのか。伝説のマスターらしいことが言えるのか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ