勧誘
「さて、これからどうする?」
病院から出た俺は、隣を歩くバッタに振り向いた。
目が合った瞬間バッタは顔を赤らめて視線を逸らす。
気まずい雰囲気はなかった。
照れているだけだと分かっている俺の気分はすぐに嬉しくなってくる。
「そ、そうですね……雄一さんがしばらく動けませんし、二人で外に出るのは危険だと思います」
「だよな。あいつを馬車か何かに乗せるにしても金が要るし」
「お金を溜めるには戦闘しないと……」
「せめてもう一人……戦える奴が欲しいな」
二人して考える。
しばらく考えて、思いついたことは、いや、思いついたタイミングも思いついた人物も同じだった。
二人ともが同じ思いなら迷う必要などはないだろう。
雄一は後で怒るかもしれないが、多分あいつなら大丈夫なんじゃないかと思う。
いざとなれば雄一は入院したままでもいいし。
「あ、あの……」
「ん?」
「う、浮気は、嫌です」
捨てられそうな子犬のような目で見上げてくるバッタに、思わずグッときた。
頭に手を置いて髪の毛をくしゃくしゃにするように撫でてやる。
「ちょ、環架さ……」
「バッタ可愛すぎ」
「あぅ……」
バッタの方もまんざらではない様子。
恥ずかしそうにしながらもちょっと嬉しそうだった。
なんだろうこの充足感? これがリア充という名前の上位職業のスキル効果か。
一頻り撫でて満足した俺は、バッタを引き連れて酒場へ向かう。
いるかどうかはちょっと疑問だったが、ここで会う以外に自分達の接点がないので、ここに向かうしかなかったのだ。
夕日を浴びて二人揃って歩く街中は、初めてここに来たときと違い、光り輝くような新しい春が来た。そんな楽しさがあった。
実際には夏だけど。
ただ歩くだけで気分が高揚してくる。
人間というのはかなり単純に出来ている。
彼女が出来たと思うだけで世界が今までと違って見える。
こんな危険でゲームのような現実でも、俺はここに来てよかったと思えるようになっていた。
バッタも、病院に戻った時一度だけバッタのキグルミを視線で見たが、もう自分から被ろうとはしなかった。
俺と彼氏彼女の関係になったことで自信を持てたのだろうか? それだったらちょっと嬉しい。
酒屋のドアを開き、入り口を潜ると、俺は客席を見回した。
ざわざわとしていてかなり賑わいを見せている。
カウンターの黒服も忙しそうだ。
「あ、いました」
窓際の四人組用のテーブルに一人だけで座りながら窓の外を見て人間ウォッチングをしている緋織ナスカ。
テーブルには飲みかけの水が入ったグラス。
食事はしていないようで、水だけで粘っているようだ。店にとっては迷惑な客である。
物憂げな表情は一人きりが寂しいからだろうか?
まるで誰かが声をかけてくれるのを待っているかのような、それでいて投げやりな視線に、俺とバッタは互いに顔を見る。
ようするに話しかけづらいオーラがでているのだ。
まるで感傷に浸る私に話しかけるな、斬るぞとでも言っているような、無言の重圧。
「行くぞ」
俺は萎えそうになる気力を奮い起こし、バッタに先んじて歩き出す。
バッタも意を決したようで、俺の後ろを恐る恐る付いてきた。
対人恐怖症とでもいうべきか、バッタは他人の視線に敏感に反応している。相手の雰囲気が悪いと特に怯えた態度になってしまうようだ。
「よぉ、黄昏てんな」
「ん? ああ、環架……だっけ」
視線を向けて俺を確認したナスカは、体の向きを変えてこちらに向いた。
よく覚えてくれていたものだ。ちょっと嬉しい。
「どしたの? もしかして……」
「んー、ま、考えてる通りかな。正直甘く見すぎてた。というか正直言うが戦闘ができる人手が欲しい」
「なんつー率直。ま、下手に回りくどいよりいいけどさ。ようするに仲間がゲームオーバーしたから補充したいってことでしょ」
はぁとため息を付き、また来たかといった不機嫌な顔になる。
おそらく何人か他の奴らにも誘われたんだろう。
「いや、補充っていやそうなんだがな。ゲームオーバーは誰もしてない」
「あ、そうなの? じゃああのガリガリ君が離脱した?」
「今病院だ。黒服の話じゃ全治数日。頭にかすった程度だし骨も折れてないらしい。見かけによらずタフだよなあいつ」
ああ。と、彼女はようやく理解したらしい。
「助っ人ってわけだ。彼が戦線復帰するまでの代理ね」
「それもあるけど、ちょっとな」
俺の態度に不審がるナスカ。
耳元に顔を近づけ囁くように言ってやった。
「PK回避のために出来るだけ早く別の街に行きたい。そのために人手が欲しい」
俺の言葉を聴き終えると、驚いた顔をしていた。
「どうかな?」
ナスカは少し考えるような素振りをしてバッタを見る。
「そうね……オッケーっていいたかったけど。ちょっとだけ、考えさせて。明日には答えられると思うから」
なんだ? 歯切れが悪いな。
他にどっかから声が掛かってたんだろうか?
「それで、なんか何も返せないで悪いとは思うんだけど、そのこと詳しく教えてくれないかな?」
「そのこと?」
「別の街に行く理由。お願い」
断る理由はなかったので、バッタに許可を求めてから話すことにした。
バッタのお金を使い軽い夕食も頼んでおく。
おごってくれたのは彼女になったからというわけではなく、雄一の治療費で俺の金が底を付いたからである。
食事がワンコイン500Lとか、420Lしかない俺には払えなかったんだ……
ワリカンにしておけばよかったのだが、バッタに払わせるのも悪いと俺が払ったのが失敗だった。マウスを倒した金額は雄一にも入るそうなので後で雄一に3000L返してもらおう。
久我山環架
装備:ショートソード、皮の鎧、皮のベルト
所持アイテム:火炎の杖、氷結の杖、雷鳴の杖
魔法:爆裂魔法(手榴弾)
所持金:420L
保科雄一
クラス:重戦士
状態:重傷?
装備:錆びた斧、壊れた鎧
所持アイテム:火炎の杖、氷結の杖、雷鳴の杖
所持金:400L
バッタ
クラス:マルチウエポン
装備:ナイフ×2、臭いロングソード、小型のボウガン、ショートソード、タンクトップ
所持アイテム:バッタのキグルミ、火炎の杖、氷結の杖、雷鳴の杖
組み立て式・鉄塊、ハリセン、着替え
所持金:6110L - 1000L = 5110L




