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Full of the moon  作者: 五十鈴 りく
Chapter Ⅱ

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〈23〉ゼゼフ参戦?

 不審者ゼゼフは、レジスタンスの隠れ家に連れて行かれた。少年に押さえられたままで中に足を踏み入れる。

 そこはごく普通の民家だが、明かりのもとにたくさんの人がひしめいていた。椅子も足らず、床に座っている者もいる。そこに五人が加わり、ざっと見ただけで男性九人、女性四人、子供一人。

 急にレジスタンスのメンバーに取り囲まれ、ゼゼフは丸い顔を青くして震えていた。

 すると、赤毛の小さな男の子が冷めた目をする。


「何、この、ふやけた水死体みたいなの」


 あどけない子供のあまりの辛辣さに、ゼゼフは泣きそうだった。その子供のそばの、同じく鮮やかな赤毛の男性も、笑顔でひどいことを言った。


「お土産? 要らないよ」


 そして、不機嫌な面持ちの眼鏡の青年が、ゼゼフをレンズの奥から一瞥すると、ぽつりと言った。


「レヴィシア、どういうことだ?」


 レブレム=カーマインの娘はレヴィシアというらしい。花のような愛らしい名前だ。


「えっと、あたしにもわかんない」


 レヴィシアは、あは、と笑顔を振り撒いてごまかしたが、余計ににらまれていた。慌てて長身の青年の後ろに隠れる。そして、彼はレヴィシアを庇うように言った。


「俺たちの後を付けて来たんだ。レヴィシアを見られたし、放っておくのも心配だったから、連れて来た。勝手な判断だが、用心に越したことはないかと思って」

「……そういうことか。仕方がないな」


 その一言に、一番くつろいで見える老人が、椅子にふんぞり返りながらぼやいた。


「狭いのぅ」

「俺の方が窮屈だっての」


 確かに、壁際に押しやられている、筋骨隆々のこの男性にとってはかなりの苦痛だろう。


「しばらくの辛抱だ」


 同じく椅子に腰かけた落ち着いた紳士が微笑む。彼に面差しが似ている女性が彼を気遣っていた。多分、娘だろう。

 眼鏡の青年は、もう一度ゼゼフに視線を投げた。ゼゼフは口もとを震わせる。


「一応、身元を尋ねておこうか。名前と居住地、定職があるのならそれも。それから――」


 抑揚のないその声は、突き刺さるように鋭い。警戒されるのは仕方がないとしても、ゼゼフは恐ろしくてたまらなかった。

 すると、丸い肩を震わせているゼゼフに、救いの手が差し伸べられる。


「そんなに一度に訊くもんじゃないよ。怯えてるじゃないか」


 すらりとした赤毛の、気の強そうな女性だった。間違いなく美人の部類だ。ゼゼフには彼女が光り輝いて見えた。

 そして、それに続くように、髪の短いたおやかな女性が、そっと柔らかに声をかけて来る。


「ごめんなさい。こんな状況で不安でしょうに、配慮が足りませんでした。――ねえ、ルテア、もう手を放してあげても大丈夫でしょう?」

「ん? ああ」


 ルテアと呼ばれた少年は、すでに力をまったく込めていなかったが、とりあえず放してくれた。


「あ、あ、ありがとう」


 ゼゼフの不器用な感謝に、髪の短い女性はそっと微笑んだ。


「いいえ、気付くのが遅れて申し訳ないくらいです。あの、私はプレナといいます。あなたのお名前も教えて頂けますか?」

「ゼ、ゼ、ゼゼフ=アーネット、ですっ」


 緊張のし過ぎでろれつが回らなかった。


「ゼゼゼゼフぅ? 変な名前」


 赤毛の子供が冷やかす。青ざめていたゼゼフの顔が、今度は耳まで真っ赤に染まった。色が白いのでわかりやすいとよく言われる。


「ゼ、ゼゼフ! ゼゼフだよ!」

「ふぅん、変なの」


 残酷な子供は大した興味もないらしく、あっさりとそっぽを向いた。

 ひそかにショックを受けてうつむいたゼゼフの顔を、レヴィシアが下から覗き込んで来た。あまりの至近距離に、ゼゼフは体をびくっと強張らせる。


「ね、ゼゼフ、あたしたちと会ったこと、内緒にしてもらえるかな?」


 すると、眼鏡の青年は冷たく言った。


「頼みごとをしているんじゃない。喋るなと言っておけ」


 ゼゼフが短く悲鳴を上げると、何故か紳士の娘らしき女性がクスクスと笑った。


「ザルツさんはそうやって、すぐ嫌な役どころに回ります。損な性分ですね」


 眼鏡の青年、ザルツは苦虫を噛み潰したような顔をする。けれど、その女性はそれが本心ではないと言いたげだった。

 レヴィシアは、念を押すようにゼゼフの目を見つめる。


「脅したりしないよ。喋らないって言ってくれたら、信じる。それが馬鹿なことだって言われてもね」


 引っ込み思案なゼゼフは、そのまっすぐな瞳を見続けることができなかった。ちらちらと視線をさまよわせながら、それでもレヴィシアを何度も見やった。

 こんな状況なのに、やっぱりかわいいなぁなどと考えていた。

 捕まった時は、レジスタンスなんてとんでもないと思ったのに、のどもと過ぎればなんとやら。男性陣は怖いけれど、女性陣は優しい美人ぞろいだ。協力して仲良くなるのもいいな、と。


「もしもーし」


 ぼうっとしてしまったゼゼフから返事がないので、レヴィシアは彼の顔の前で手を振っていた。ゼゼフはようやく妄想から覚める。


「あ、あ――」


 人見知りもあり、すぐにどもってしまう。

 シュティマの喜ぶ顔を思い浮かべ、もじもじと手もとをいじりながら、やっとのことでゼゼフはそれを口にした。


「あの、ぼ、ぼ、僕もなか、仲間に加えて下さい!!」

「はぁっ?」


 赤毛の子供の声が一際大きく響いた。

 レヴィシアはきょとんとして瞬きを繰り返している。ゼゼフはその勢いが消えうせてしまわないうちにまくし立てた。


「あ、あの、僕、仲間に入れてほしくてここまで来たんです! でも、うまく接触できなくて、諦めかけてたら――」


 慣れない早口で喋ったせいか、息を切らして肩を大きく上下させる。そんなゼゼフに、ザルツは眉間に深いしわを刻みながら尋ねた。


「組織に入って、どういう形で貢献できる?」

「え?」

「戦闘、諜報、後方支援、レジスタンス活動と言っても、役どころは様々だ。何ができると訊いている」


 ゼゼフは硬直し、それから恐る恐る正直に答えた。


「え、と……りょ、料理」


 すると、ザルツは大げさに嘆息した。


「要らない」


 と、一言。にべもない。

 あまりにはっきりと断られ、ゼゼフが燃え尽きていると、そこに追い討ちがかかった。


「はーい、ボクもいらないと思いまーす。もうヤローはこりごりだよ」


 赤毛の子供は、挙手をしながらそう訴える。何もしていないけれど、さっきから目の仇にされているようだ。そして、その隣の赤毛の女性も困惑していた。


「アタシもちょっと、ね。ルヴェラ(アイツ)のことがあっただけに、容易に賛成はできないね」

「でも、せっかく参加したいって言ってくれてるのに……」


 リーダーのレヴィシアがそう言ってくれて、ゼゼフは顔を輝かせたけれど、すぐに思い知らされた。ザルツが折れなければ駄目なのだと。


「いらない」

「ザルツ、ここで問答してたら先に進めないだろ。多数決でどうだ? 平和的だろ」


 垂れ目の青年の意見に、ザルツは渋面を作った。けれど、それに気付かない振りをしたレヴィシアが、さっさと仕切る。


「はい、じゃあ反対な人、手をあげて」


 真っ先に勢いよく手をあげたのは、やっぱり赤毛の子供だった。それから、ザルツ、赤毛の女性、赤毛の男性、筋骨隆々の男性、老人の六人。それだけだった。

 どちらでもよい人間が多かっただけの話かも知れない。


「ユイは嫌でも、レヴィシアに従うからわかるんだけど、ルテアが反対じゃないのは意外だな」


 垂れ目の青年が瞬きを繰り返すと、ルテアは難しい顔をしてつぶやいた。


「参加したいって言うのなら、機会は平等であるべき、だろ」


 その一言で、垂れ目の青年は少し寂しそうな目をした。


「そうだったな」


 成り行きに任せ、ぼうっとしていたゼゼフは、レヴィシアの声で我に返る。


「はい、じゃあ決まり。ゼゼフは今から仲間になりました。よろしくね、がんばろう!」


 微笑と同時に差し出された手を、ゼゼフは恍惚と見つめていた。


「え、あ、ほ、ほんとに? うわぁ……」


 緊張のし過ぎで汗ばんだ手を太もも辺りで拭くと、その手を握り返した。

 やっと、現実味が感じられた。その場にいたメンバーたちの自己紹介を、ゼゼフは必死で頭に叩き込んだ。そして、忘れてはならないことを付け足す。


「あ、あの、実はもう一人僕の友達も仲間に入れてほしいんですシュティマっていってすごくいいやつなんです仕事があって一緒には来られなかったけど最初から二人で参加するつもりだったんです!」


 息継ぎもせずに言い放ったゼゼフは、荒く息をしながら返事を待つ。



 その勢いに圧倒されたレヴィシアは、その流れのままに返事をした。


「あ、うん、いいよ。ぜひ参加してね」

「勝手に答えるな。会ったこともない人間だぞ」


 ザルツににらまれたけれど、レヴィシアはそれをするりとかわす。


「そうだけど、ゼゼフがそこまで言うんだし、悪い人じゃないと思うよ」


 その一言が、ゼゼフには飛び上がって小躍りしたくなるくらいに嬉しかったようだ。つぶらな瞳を輝かせてうなずいている。


「絶対、会えばわかってもらえると思う!」


 その必死な表情には、作為も、ましてや悪意などない。ただ、友達に対する純粋な信頼があるだけだ。それが手に取るようにわかった。

 それにより、レヴィシアはゼゼフのことを少しだけわかったような気がした。きっと、ザルツもそうだったのだろう。それ以上うるさいことを言わなくなった。


「えっと、じゃあ、そのお友達はどこにいるの? どうやって合流したらいい?」

「エ、エイルルーだよ。僕とシュティマは同じ職場なんだ。東通りの『スパイラルテール』って食堂で」


 すると、エディアが驚いた風だった。


「あら、私もエイルルーに住んでいたんですよ。最も、外で食事をしなかったので、お店に伺ったことはありませんけれど」


 ザルツは思案顔でぽつりとつぶやく。


「エイルルーか。近く通過するつもりはしていた。通りがけに拾うから、それまでに身辺整理をして待っていろ」

「え?」


 ゼゼフはその言葉に耳を疑ったようだ。けれど、声をもらした途端ににらまれている。

 ただ、なんだかんだ言いつつも、ザルツは認めたらしい。



 そうして話はまとまったけれど、ゼゼフという青年はどう見ても役に立ちそうもない。

 人畜無害がとりえのような青年だ。悪意はなく、それでいて足を引っ張る。

 そんな予感がしたクオルは、早くも追い出す算段をしていた。

 新しい仲間は、こんなにコロコロしたヤローなんかじゃなく、もっとかわいいおねえちゃんであるべきだ、と。


 レヴィシアの名前の由来は、レウィシア(レウイシア)という花から来てます。ピンクや白の可憐な花です。

 ちなみに、ルテアがビオラ・ルテアという小さく鮮やかな黄色の花です。パンジーの配合親になった野生種だそうです。

 ラナンはラナンキュラスでした。


 花言葉まで調べないで付けたのですが、興味本位で調べてみたところ、レウィシアの花言葉が、『信頼、期待』でした。案外、合ってました。

 ビオラの花言葉が、『私のことを思って下さい』だったのには、少し笑いましたが。他にも『誠実な愛、信頼、忠実』などなど、たくさんあるようです。

 ラナンキュラスは、『魅力的、美しい人格』でした。いい人過ぎました(涙)

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