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Full of the moon  作者: 五十鈴 りく
Chapter Ⅱ

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48/311

〈5〉工房にて

 アスフォテの片隅、そこは小さな工房だった。

 無骨な看板は錆びてしまい、文字がところどころしか読み取れない。その上、窓も薄汚れている。

 一見しただけではなんの工房なのか判別できない建物だが、漂う鉄臭さだけが唯一の手がかりだった。



「こんちはっ。スレディさん、いる?」

「いない」


 あまりの即答に、サマルは入り口で滑りそうになった。

 深緑のバンダナを幅広く額に巻いた青年は、作業を中断して、滴り落ちて来る汗を肩で拭った。


「出かけた」

「えぇ? だって、今日から来いって言ってたのに? 初日から放置?」


 サマルが愕然としていると、青年は無表情で小首をかしげた。


「駄目?」

「駄目だろ」


 この青年、何故か長文を喋らない。面倒なのかくせなのかはわからないが、話しているとこっちの調子が狂う。

 ぼろを出さないように気を付けないと、とサマルが考えていると、彼はサマルをじっくりと見た。糸目なだけに、その目の奥が読み取れない。


「な、何? フィベル――さん? 俺の顔になんか付いてる?」


 色々とやましい部分があるので、サマルは焦って自分の顔を撫で回した。けれど、彼――フィベル=ロットラックは小さくかぶりを振っただけだった。


「何も」


 何もないとは思えないほど、見ていた。


「何もって、なんかあるよね?」


 すると、フィベルはつぶやく。


「本気かなって」

「え? 何? 弟子入りしたいって言ったこと? 嘘なら来ないよ」


 サマルは抜け抜けと言った。フィベルは相変わらずの無表情である。


「厳しいよ、師匠は」

「……そんな感じする」


 少し、早まっただろうか。

 けれど、『彼』の協力があれば、活動の支えになる。それは間違いない。

 気を取り直したサマルに、フィベルは追い討ちをかけた。


「遺書は書いた?」

「は?」

「俺は書いたよ」

「なん……だって?」

「サキダツフコウヲ――」

「いや、聞きたくない……」


 やっぱり、踏み込むべき場所を間違えたかも知れない。そんな心境だった。

 

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