〈5〉工房にて
アスフォテの片隅、そこは小さな工房だった。
無骨な看板は錆びてしまい、文字がところどころしか読み取れない。その上、窓も薄汚れている。
一見しただけではなんの工房なのか判別できない建物だが、漂う鉄臭さだけが唯一の手がかりだった。
「こんちはっ。スレディさん、いる?」
「いない」
あまりの即答に、サマルは入り口で滑りそうになった。
深緑のバンダナを幅広く額に巻いた青年は、作業を中断して、滴り落ちて来る汗を肩で拭った。
「出かけた」
「えぇ? だって、今日から来いって言ってたのに? 初日から放置?」
サマルが愕然としていると、青年は無表情で小首をかしげた。
「駄目?」
「駄目だろ」
この青年、何故か長文を喋らない。面倒なのかくせなのかはわからないが、話しているとこっちの調子が狂う。
ぼろを出さないように気を付けないと、とサマルが考えていると、彼はサマルをじっくりと見た。糸目なだけに、その目の奥が読み取れない。
「な、何? フィベル――さん? 俺の顔になんか付いてる?」
色々とやましい部分があるので、サマルは焦って自分の顔を撫で回した。けれど、彼――フィベル=ロットラックは小さくかぶりを振っただけだった。
「何も」
何もないとは思えないほど、見ていた。
「何もって、なんかあるよね?」
すると、フィベルはつぶやく。
「本気かなって」
「え? 何? 弟子入りしたいって言ったこと? 嘘なら来ないよ」
サマルは抜け抜けと言った。フィベルは相変わらずの無表情である。
「厳しいよ、師匠は」
「……そんな感じする」
少し、早まっただろうか。
けれど、『彼』の協力があれば、活動の支えになる。それは間違いない。
気を取り直したサマルに、フィベルは追い討ちをかけた。
「遺書は書いた?」
「は?」
「俺は書いたよ」
「なん……だって?」
「サキダツフコウヲ――」
「いや、聞きたくない……」
やっぱり、踏み込むべき場所を間違えたかも知れない。そんな心境だった。




