死者誤入(ししゃごにゅう)
母さんになんとかサガンのことを説明し、急いで彼の分の夕食の準備をしようとしたが、サガン曰く「悪魔は食事を必要としない。自然エネルギーを魔力に変換しているからな。」
だそうだ。そういったくせに、サガンは好青年のような表情で食卓に降りてきた。
「水をもらいにきた。」
そう言いながら、水を受け取ると、ニヤリとしながら指をならした。すると、驚いたことに水かいつの間にか赤ワインに変わっていた。3人が目を丸くしているのを見て、満足げに微笑むと、
「もっと水を持ってきてください。」
と、ボクと話していた時とは比べ物にならないくらい丁寧な口調で喋った。
これはすごい、と父親も母親も瓶に水を入れてはサガンに渡した。それを受け取ると指をならしていろいろな種類のワインへと変える。
それが2、3分ほど続き、気を良くした父さんがつまみを持ってき、大人の二人はあっという間に泥酔状態になり、ケタケタと笑っていた。サガンは優しい笑みを消し、
「来い。」
と言って、階段を駆け上がった。ボクは仕方なくついていったが、何か少し不安だった。
「何?どうしたんだよ急に。」
「もう直ぐ奴が来る。いや、奴らが来る。と言ったほうが正しいが。」
ボクの質問に対してサガンが簡潔に答えた。
「奴ら?」
重ねて聞いてみたが、聞こえてなかったらしい。彼は暗い眼をしていたが、どこか嬉しそうな雰囲気を漂わせている。
「来た。」
「えっ?来たって?」
「来い!!」
口調は荒いが、やはりどこか嬉しそうに言い、階段を駆け下り、家を出た。ボクも急いでついていったが、外に出て門を見ると、何か塊がぞろぞろとこちらに向かってきている。
「な…何あれ……。」
「悪魔の率いてる軍団だ。多分ヴァラクのだろうな・・・。」
「ヴァラク?なんだよそれ!てヵ、悪魔って軍団持ってんの!?」
「あぁ、知らなかったのか?俺のことは知ってたのに?」
と、会話をしている間にも軍団が迫ってきている。
「それは置いといて、あいつらどうするのさッ。このままだと、この街に来ちゃうよッ」
「だろうな。それがヴァラクの狙いだろうしな・・・・。」
「もしかして・・・・そのヴァラクってやつが聖剣解放したの?」
ニヤ。と、彼は表情を緩めた。
「お前、実は感がいいんだな。お前を得たんで良かった。さて、もうそろそろやらないとな・・・。」
「やるって何・・・・」
言い終わる前にサガンが遮った。
「分かってんだろ?殺すんだよ。これを使えッ」
そう言いながら、これまた複雑な彫刻を施された指輪だった。それを受け取り、とりあえず右手の人差し指つけてみると、体の内側が温かくなり、力がわいてきた。
「おぉ・・・・なんだこれ、スゲぇ…。」
「それを使えば俺の軍団を呼び寄せれる。早く使えッ」
「あれ…じゃあなんでお前はつけないの?」
「俺の軍団だ。俺が指輪なしで使えねえわけねえだろッ。やっぱり馬鹿か?」
あ、なるほど。と内心頷きながら、指輪を使おうと思い、ここでひとつ疑問がわいた。
「どうやって使うの?」
今にも悪魔に飛びかかろうとしていた彼は、不機嫌そうに振り返り、簡潔に答えた。
「両手を合わせて念じろッ。扉よ開けってな」
言われた通りに両手を合わせ、扉を思い浮かべ、念じた。
―扉よ開けッ―
次の瞬間、背後で何かがうごめくのを感じた。咄嗟に後ろを振り返ると、そこには目の前に迫ってきている軍団に似た軍団がいた。
『こんな奴がサガン様の契約者かぁ?』
『馬鹿みてぇな顔してるぞ。』
「お前ら…ボクが呼び出したんだよッ。いいからボクの言うことを聞けッ。いいか、あいつらを倒せッ」
と言ったが、誰一人、いや、一匹動こうとしない。それどころか、野次が飛んだ。
『ッざけんな』
『俺らはお前に仕えてんじゃねえんだよッ』
『サジン様に仕えてんだよッ』
と、あちらこちらで言いたい放題。どうすりゃいいんだ・・・。と迷っていたら、一人で戦っていたサジンから怒号が飛んできた。
「テメェらッやる気ねえんならさっさと帰れッ。俺の命令だッ。さっさとやりやがれッ」
一瞬の沈黙の後、サジンの軍団がヴァラクの軍団を殲滅しにかかった。一匹だけがボクの元に残り、短剣を二つ地面においてから、そいつも戦いに加わった。短剣を手に取り、走りだした。あれ、体が軽い・・?契約のおかげか・・・・。そう思いながら、短剣で近くの敵から切りかかった。よく見ると軍団は、死ぬと血を吹き出しながら黒い粉となって消えていく。サガンは何やら血をいくつもの小瓶に集めている。もちろん敵を殺しながら。
攻撃をよけ、短剣を敵の頭に刺し、新たな敵の攻撃をいなしながら首を落とす。この単純な作業を何分繰り返したのだろう・・・。少しするとサガンの声が聞こえた。
「全員どけェッ」
そう言うと、味方の軍団が次の瞬間どこかに隠れていた。もちろんボクは戦ったままだ。逃げ出せる状況じゃない・・・。
急に体が浮遊感に包まれ、足もとから光に包まれた。それがだんだんと上にあがってくる。光が頭まで着くと、気がつくと、サガンの隣に、先ほどまでとっていた格好で立っていた。
「・・・なにこれ・・」
「言ったろ、契約者同士はお互いを召喚できる。」
「あ、なるほど」
おしゃべりはそれで終わり、ということだったのか、血の入った小瓶を並べ、指を鳴らした。すると、さっきまで赤かった液体が色がなくなり、見ただけでは何かわからくなった。それから、どこからかライターを取り出し、瓶の栓をゴム栓から布に代え、布に火をつけ、投げた。地面に落ちると、火が回り、敵軍を燃やしつくした。恐怖、苦しみ、悲しみ。それらのこもった呻き声が聞こえてくる。
思わず目をそらした。確かにボクらの街を襲おうとした奴らだったが、その罪相応の罰はあまりにも酷なものだった………。
「行くぞ。」
と、サガンが言いながら、門の方向ではなく、まだ見えない違う街の方向へと歩き始めた。
「え?街に戻らないの?」
そう言うとサガンは怪訝な顔をし、振り向きながら言った。
「俺たちは聖剣を封印するために契約したんだぞ。」
「でも、そんなにすぐじゃなくても…」
と、言った瞬間、右手の甲が焼けるように痛み出した。
契約を破ろうとしている・・・・・。
納得はしなかったが、どうせサジンが契約に組み込んだのだろうと思い、仕方なくついていった。
「いい子だ。」
サガンは満足げな笑みを浮かべ、足を進めた。
聖剣を封印するために・・・・。




