契約
君たちが住んでいる世界とはまた違う世界。この物語はそこでの出来事だ。
ボクはどこにでもある薬屋の息子に生まれた14歳。名前はジャスティス。ジャスティス・R・ロヴ。
今は店で使う薬草を取っているところだ。
「っと・・・こんなもんかな・・。」
薬草を摘み終え、自宅と兼用の店、「怪しくないお薬屋さん」へ向かった。店名がふざけているのは、店を作った祖父のせいだ。
少しすると、木か、キノコを模した家の集まった町が見えてきた。そこがボクの故郷、薬や医療に特化した街、「トリート」。分類は「メディカルタウン」。
門をくぐり、自分の家へ走った。
「ただいまっ」
扉をああけながら言い、摘んできた薬草を調合室へはこんだ。そこでは父さんが真剣な眼差しで薬を作っていた。
「薬草、ここに置いとくね。」
と言って薬草を置き、すぐに部屋を出た。14歳の僕にはすることが沢山ある。薬草摘みだけするほど暇じゃない。
「じゃあ行ってきまーすっ」
そう言いながら、先ほど通ったばかりの扉をあわただしく出ていった。
そのまま走り、「教授」を探しに図書館へ向かった。教授は外のことをたくさん教えてくれるのだ。
図書館へ着くや否や、すぐに『歴史』の本棚へ向かった。そこが教授のお気に入りの場所なのだ。
予想的中。彼はいつもどおり教授の座っている席の横に座った。
「おや、これはロヴ君。どうしました?」
教授は長い茶髪をし、丸眼鏡、そして白衣をまとっている。ボクの予想では20歳前後のはずだ。少なくともそれくらいには見える。
「外の話聞かせてよ!」
僕は小さい頃から教授から話を聞いていた。他の国の戦士の話、魔法使いの話、巨大イカの話、聖剣の話、etc.....
今日もいつもどおり、面白い話を期待していた。
期待通りにはいかなかった。
「もう直ぐ、聖剣が抜かれる。封印されていた聖剣が、600年の時を経て、解放される…」
何のことかわからなかった。だが、教授が悲しげな表情をしている。わかったのはそれだけだった。
「今日は帰るんだ。」
教授は短くいった。
「へ?」
何のことか理解できなかった。
「今日はもう帰るんだ。早くっ」
明らかにいつもの教授じゃなかった。語調がいつもよりきつい。ここでやっと、ボクはただ事ではないと何となくわかった。
「帰ったら、ご両親と一緒にできるだけ遠くまで逃げるんだ。」
ボクは頷き、走って家に戻っていった。
はっ、はっ・・・と、自分の吐息が聞こえた。
何が起きるのかは分からないが、どこからか恐怖がふき出てくる。
「やっと着いた・・・。」
そう呟きながら、扉を開け、調合室へ飛び込んだ。
「父さんっ」
父さんは驚いた表情をしていた。
「どうしたんだ。そんなに慌てて。」
事情を話すと、父さんは大笑いした。
「はっはっはっ面白いなっ。そんな冗談、初めて聞いたぞ。教授も面白い事を言う。」
「違うっ。冗談じゃないよっ」
とったものの、確かに冗談のような内容だからか、まともに取り合ってくれなかった。
父さんは後で説得しようと思い、キッチンへ向かった。
そこでは母さんが、早くも夕食の準備をしていた。
母さんにも同様の反応をされ、途方に暮れた。取りあえず落ち着こうと自分の部屋へ行こうと、階段を上がっていると、階段に水の跡があることに気付いた。
「なんだ・・・?」
水の後を追ってみると、あいている部屋に続いていた。ほんの好奇心で、その部屋を開けてしまった。
部屋の中心にはペット並の大きさをした羽が生えた牡牛が考え込んでいた。悲鳴を上げようとした。が、声が出なかった。いや、それだけじゃない。体全身が動かなかった。その間に記憶を呼び起した。確か、教授の話に、羽、をもった牡牛の姿をした、いろいろな能力を持つ生き物を聞いたことがあったはずだ。そう・・・確か・・・
――――――悪魔だっ
悪魔は何やらまだ考え込んでいる。
「仕方ない・・・。頭悪そうだがこいつでやるか・・・。」
ん?頭悪いって聞こえたぞ?ボクか?僕のことを言っているのかっ
と、心の中で念じたものの、声が出ないため、無駄だった。
「あぁ、お前のことを言っているんだよ。」
いつの間にか牡牛が黒い髪をなびかせた全身黒ずくめの14,15歳ぐらいの青年がたっていた。
「気付いたみたいだが、俺は悪魔のサガン。お前を使おうと思ってる。…何か言ったらどうだ。」
お前が喋れないようにしてるんだよっ、と例によって念じた。
「あぁ、そうだったな。叫ぶなよ。」
サガンが指を鳴らすと、全身の硬直が解けた。
「ふう・・・。で、使うってなに?」
「もう直ぐ俺の同類が聖剣を抜いちまうんだ。それを阻止はできない。だから、もう一度封印するのを手伝え。俺と契約しろ。」
「封印?なんだよそれ。それに契約って?」
「聖剣は存在しちゃいけない程高密度の魔力と支配欲の塊なんだよ。それが誰かに渡れば必ず災いが起きる。いたるところで破壊活動が行われ、世界は恐怖によって支配される。俺達は600前、なんとかそれを封印したんだ。それをもう一度封印する。心配するな、どんなクズでもできる。封印具を使いこなし、魔方陣を扱えるようにすれば誰でもな。もちろんお前には教育が必要だろうが・・・。次に契約だが、これは俺とお前が裏切らないことを前提に結ぶモンだ。破れば破った方が死ぬか、死にはしないが一生残るような障害を負う。これについての利点だが、契約をしていれば、通常以上の力が出る。普通は元の身体能力の2倍以上だ。それに、そうすればどちらももう片方を召喚することができる。これによっての利点はおいおい教える。さぁ、どうする?」
彼は一気にまくしあげた。ボクは断る気だったが、教授は家族を連れて逃げろ、といった。つまり、聖剣を手にした悪魔はこの街にき来るということではないのか?そして父さんと母さんは町を出ようとしない…。力を手に入れればみんなを守れると思った。
「分かった。やってやるよ。」
その言葉を聞き、サガンは満足げに頷き、部屋の中に入り、扉を閉めるように言った。
それからサガンはどこからかチョークを取り出し、三角形と逆三角形を組み合わせたものの周りに円を二重に書き、円と円の間に、見たことのない文字を書き連ねた。それからチョークをなおし、今度はナイフを取り出し、自らの指を切り図の中心に数滴の血を落とした。それからナイフをボクによこしてきた。
「同じ場所に血を落とせ。」
進んで、ではないが、しぶしぶとナイフを受け取り、はを食いしばってナイフで自分の人さし指に傷をつけ、サガンの血の上に自分の血を落とした。
刹那、血が青白く光り、次の瞬間右手の甲に激しい痛みが走った。見ると、よく分からない複雑な形が光輝いていた。
「これは?」
汗だくになりながら、訪ねた。
「契約印。契約したしるしだ。契約を破りそうになると、それが焼けるように痛み出す」
なるほど、と頷き、右手の甲をまじまじと見た。
「それよりお前、俺のことをどうやって両親に説明する気だ?」
という質問に僕は
「あ・・・・・・考えてなかった・・・・。」
と、頭を悩ませるのだった。
もう直ぐ聖剣が抜かれてしまうということをこのときだけは忘れることができていた・・・・・・。
第二話へ続く
サガン……最初はグリフォンの翼を持った牡牛の姿で現れるが、しばらくすると人間の姿になる。人を機知に富ませる力があり、愚者を賢くすることもできる。『ゴエティア』によると、ワインを水に、血をワインに、また水をワインに変質させることができる。一方、『悪魔の偽王国』によれば、ワインを水に、血を油に変化させ、その逆も可能だという。また、あらゆる金属をその領地の硬貨に変えることもできるという。




