第3話 九能 悠の時間―長い友との始まりに/04 見てみたいもの
【Present Day】
気恥ずかしい話だが、あの崩れた壁と共に、俺の心の中の壁も崩れていったような気がする。
打ち解けたのとも違うし、認められたというのともちょっと違う。
むしろ認められたと感じたのはもっと後のことだ。
どちらかというと、俺が、俺自身を認めることを知ったのだろうか?
まあ、恥ずかしい昔話さ。
「ごちそうさん」
「へい。まいど」
蕎麦をたいらげ俺たちはスタンドを後にした。
「おじちゃん、また来るからねー!」
店主は苦笑しながら手を振り返す。
ぶっきらぼうだが、ライノとのやり取りを見る限り、結局は仲がいいらしい。
「悠、今回はどう思うよ?」
ライノが満腹気味に腹を叩きながら、いつもの軽い口調で俺に話しかけてくる。
「今回の宝探しはパンドラ・グローブだろ? 表向きはメサイアのセキュリティアーミーの演習地とか言ってる場所だぜ。 IPS部隊の駐屯地で、プライベティアも巡回してるコースだって話だろ? 正直、やりあいたくねぇなぁ」
俺がそう答えるとライノも露骨に顔をしかめて苦笑した。
「ほんとそれなぁ。 メサイアのハマーなんぞ相手にしたら、こっちは分が悪すぎるっつの。 まったく、リーダーはどこからネタ仕入れてきたんだか……」
俺がため息まじりに言うとライノは肩をすくめる。
「あの人は、面倒ごとが好きだかな。 とはいえ、リーダーのお陰でこうやってトッピングが増えるんだから、悪くはないけどさ」
「ま、それは否定しない」
いつものような軽口を叩きながら歩いているうちに、俺はふと、自分がアルマナックに来てからの日々を振り返っていた。
そういえば、俺がアルマナックの本業を知ったのは入ってからかなり後のことだった――。
【Flashback】
全身が汗でべっとりと張り付いている。
まだ熱が残るγのコクピットで胸が締め付けられるような息苦しさを感じながら肩で息をついていた。
「今日はちょっと洒落にならないんじゃないの……」
通信越しのケイトの声にも、いつもの強気な調子はなかった。
完全に消耗しきっているようだ。
モニターを見ると、彼女はすでにホークから這い出しハンガーの床で大の字になって寝転がっている。
疲労で重くなった腕をなんとか動かし、ハッチを開けると冷えた空気が一気に流れ込んで熱気をさらっていった。
よろよろとコクピットを出ると、ライノがエリミネーターから上半身裸で降り立ち、ウォーターボトルの水を頭から浴びていた。
苛立ちに任せて、俺はライノに叫んだ。
「なあライノ、宝探しって毎回あんな風にV5のアーミーが絡んでくるのかよ?」
ライノは水滴を乱暴に払うと、眉間に皺を寄せ少し考え込んだ。
「んー…… 毎回ってわけじゃないけど、今日はやけにしつこかったなぁ」
そう言うとボトルの水を豪快に飲み干した。
「あいつら、何をそんなに必死に隠してるんだ? というか、宝ってなんだよ?」
思わず口をついて出た問いかけに、ライノはさらに深く顔を曇らせた。
「さーねぇ。 でもさ悠、オズの遺産ってヤツ、本当にあると思うか?」
「オズって、コード・フレームワークの生みの親のビリー・オズニアックだろ?」
ライノは頷いた。
「そ、それー。 じゃあ話くらい聞いたことあんだろ。 プライマル・フォーってやつ」
――プライマル・フォー。
コード・ライダーなら一度は耳にしたことのある都市伝説だ。
オズニアックが晩年に作ったとされる、四機のコード・フレームワークのことだ。
「まさかアルマナックの宝探しって、そいつなのか?」
「リーダーは何も言わねぇし……」
いつの間にか胡座で座っていたケイトが話に割り込む。
「お前ら聞いてないのかよ?」
「無理だろ、リーダーだぜ? 下手に聞けばぶん殴られるか、スミーをけしかけられるだけだ」
ライノが大げさに首を振った。
「うちもさ…… それ聞いたらもう引き返せない気がするんだよねぇ」
ケイトが珍しく神妙な顔で呟いた。
プライマル・フォーか……。
俺はコーヒー缶を弄りながら口を開いた。
「オズって、学校で習ったあのオジサンだよな」
ライノがウォーターボトルを片手に、軽くうなずく。
「ああ、ビリー・オズニアック。この世界を作った人」
ケイトが胡座のまま、頬杖をつきながら視線を上げる。
「で、そのプライマル・フォーってやつ、本当にあると思う?」
ライノは肩をすくめた。
「さあな。でも、写真とか動画、結構出回ってるらしいぜ」
ケイトが指を折り始める。
「CBとかマッハとか、名前まで知られてるんだよね」
俺が思い出そうと眉をひそめる。
「たしか、他にマジック・ナインにブレード……とかって、4体のことか?」
ライノがうんうんと頷く。
「で、メサイアがすっごく隠したがってるって話だ」
ケイトが首をかしげる。
「隠すってことは、あるってことじゃね?」
ライノがまた肩をすくめる。
「逆に、ないから隠してるんだって説も」
俺が口を挟む。
「最近はUMA話みたいなのもあるけど、こっちの方がまだマシだよね」
ケイトが目を丸くする。
「マシって…… V5のアーミーに追いかけられてるんだぜ?」
ライノが前のめりになる。
「でもさ、どこかで変なCF見たって話、聞いたことあるだろ?」
俺が思い出したように指を立てる。
「ああ、すごい速さで飛んでたとか」
俺はまた口を開く。
「性能がやばいとか、秘密を暴くとか、触るとダメになるとか……」
ケイトが呆れたように手をひらひらさせる。
「後ろの二つは、それ完全にオカルトじゃんか」
ライノが少し間を置く。
スクイズボトルを傾け、最後の一滴を飲み干す。
「まあ、UFO番組みたいなもんさ」
俺は缶を握りしめる。冷たい金属の感触が掌に染みる。
「でもさ」
口を挟む前に、一呼吸置いた。
「実際に追いかけられてると、案外本当かもって思えてくる」
ケイトがため息をつく。胡座のまま、背中を丸める。
ライノがにやりと笑う。
空のウォーターボトルを親指で器用にくるりと回す。
俺は二人の様子を見比べる。ライノの目が一瞬、遠くを見つめる。
「まあ、ホントにあるなら、見てみたいじゃない――」
俺の心を読んだかのようにいつもの調子に戻って、ライノはそんなセリフを吐いた。




