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第45話 闇の騎士の風格

当たり前だけど、自分より弱い人の下に付きたくはないらしい。

「なにをしている」


 階段から声がした。ふと視線を飛ばすと、誰かが立っている。

 明らかに人間ではなく、プラシアはゾッとした。

 足が震えてしまうと、杖をギュッと強く握り締める。


「ラインにザイア、見事に返り討ちだな」


 階段を下りてくる魔物。見た限りでは人型だ。

 特徴的なのは、真っ黒な鎧を身に纏っていること。

 鞘に納まってはいない鋭い剣を腰に携え、邪悪な魔力らしきもの? が、影の中で踊っている。僕には何となくそう見えると、「おー」と声を上げた。


「それで、貴様達は何者だ?」


 騎士型の魔物は問い掛けた。

 残念ながら、プラシアは魔力に当てられて固まっている。

 不安が表に出ているせいだけど、それとは裏腹に、僕はパチパチパチパチ! と拍手を送った。


「凄い凄い、想像以上だよ」

「なに?」


 こっちの話だけど、想像以上の実力だった。

 内面的に隠されているものの、多分強いと思う。


 とは言え魔王軍に属してくれている隊長格の魔物達とは比べられない。

 理由は単純で、隊長格の方が強い。相性の良し悪しはあるけれど、明らかに劣っている。それでも正直想像は超えてくれているから、是非とも引き入れたい。


「こっちの話だよ。初めまして、君がこの人達のボス?」

「……だとしたら、なんだ?」

「丁度よかったよ。僕はこの大陸の魔王、ユイガって言うんだ」

「聞いたことが無いな」

「だろうね。僕は最弱の魔王だから」


 如何やら喋ってくれるタイプの魔物だった。とてもありがたい。

 魔物中には口を利く前に仕掛けて来る性格の子達がたくさん居る。


 けれど目の前の魔物は、人格者の雰囲気を纏う。

 正しい騎士の装いに、魔物ならではの強い魔力。

 知性を感じさせてくれると、お互いに腹の探り合いをしていた。


「その、最弱の魔王がなんの用だ?」

「あはは、そうだよね。ここまでしておいて、容易く話は聞いてくれないよね」


 僕とプラシアの視線はラインとザイアに向いた。

 そう呼ばれていた二体の魔物は、膝を突いている。

 攻撃されたから反撃したけれど、プラシアが繰り出した魔法の余波を喰らったせいで、身動きが取れなくなっていた。


「動けるか、ライン、ザイア」

「「ライザァスサマ」」

「ライザァス? それが君の名前だね」


 カッコいい名前だなって思った。

 もしかして、自分の名前を半分にして、二体の魔物に与えたってこと?

 魔物は基本、名前を持っていない。名前持ち(ネームド)の個体は、かなり珍しい。おまけに名前を持っている分強さは際立つんだ。


「貴様達がやったのか?」

「うーん、語弊があるかな。僕達はあくまでも反撃しただけ。そうだよね、プラシア」

「は、はい。ですが……」

「分かっているよ。理解してくれないよね?」


 ライザァスに訊ねると、「フン」と唸った。

 その右手は腰に携えた剣の柄に触れている。

 仕掛けてくるかもしれない。見上げる形になりながら、僕も警戒した。


「ふん、そうか。……お前達、無事か?」

「「ライザァスサマ!!」」


 ラインとザイアは膝を突いていた。

 (こうべ)を垂れると、申し訳なさそうな表情を見せる。

 兜越しだから分からなかったが、恐らく反省しているんだろう。


 とは言えライザァスは責めなかった。

 代わりに「フン」と不敵に唸る。

 笑っているようだが、責めない辺りが、人格者だと思った。


「お前達は動くな。用があるのは俺だろ?」

「そうだね。僕は君に用があるんだ。単刀直入に訊くよ、魔王軍に入ってくれないかな?」


 ラインとザイアには断られてしまった。

 それでもボスであるライザァスは人格者で風格もある。

 僕の誘いに乗ってくれるだろうか? 期待すると、階段の手すりに足を掛けた。


「フン、決まっているだろ」


 ライザァスは階段から飛び降りた。

 腰に携えていた剣を引き抜くと、僕に向かって振り下ろす。

 あまりにも速い。けど……もっと早い剣技を知ってる。


 ガキ―ン!!


 振り下ろされた剣が僕を切り裂くよりも速く、マントをなびかせた。

 流石はリミエナが作ったマントは流石の防御力だ。

 僕が合わせるタイミングを間違えなければ、ライザァスの剣は一切通らない。


「弱い者には興味が無い。俺達を従える気があるなら、その手で示してみろ」

「もしかして、それでジョイを見逃がしたの?」

「ジョイ? 誰だ、お前の仲間か」

「いいや、仲間じゃないよ。ただね……!」


 僕はマントを振り払った。ライザァスは自慢の剣が弾かれて後退する。

 最低限の力を示して見せると、「フン」と唸った。

 さっきから唸ってばかりで、兜を被っているせいもあり、本心が読み辛かった。


「ジョイが君達にケチョンケチョンにされたせいで、冒険者ギルドも動いているみたいだよ。もしかすると、冒険者達が君達を討伐しに来るかもしれない。いいや、確実に来るね」

「ほぉ。それで、貴様達は忠告に来たのか?」

「それもあるけど、僕は君達全員に、魔王軍に入って欲しいんだよ」

「魔王軍……何故、俺達を誘うんだ」


 忠告に来たのも一つの理由だ。

 けれどそれとは裏腹に、ライザァスにも僕の考えている旨を伝えた。

 魔王軍に入って欲しい。戦力の補強を図りたい。


「あはは、そんなの決まっているよ。君達が最低限の強さがあって、なによりも面白いからかな」


 ライザァスは当然飲んではくれない。

 僕の考えを読もうとすると、正直に追加する。

 単に魔王軍の補強が目的ではなく、あくまでも一つに過ぎない。本当は、“最低限の強さ”と“個性豊かな面白さ”に惹かれたんだ。


「最低限の強さ……面白い?」

「「フユカイダ」ネ」


 ラインとザイアも反論した。不愉快に思われたらしい。

 魔物にもそれ相応の尊厳はあるが、“面白い”と表されるのは嫌味に聞こえた。


「うん、とても面白いよ。だからね、僕は君達が倒されるのは惜しんだよ。魔王軍に入ってくれれば、最低限だけど命の保証はしてあげる。もちろん強制力も無いから、魔王城から出て行ってくれても構わない。その辺りは自由性に任せているんだけど、どうかな? 僕に協力してくれない?」


 魔王軍に入って欲しい。だからこそ、最低限だけど命の保証はする。

 そのための魔導具を用意してあるから、仮に冒険者に殺されても復活出来る。

 おまけに冒険者ギルドと提携しているから、冒険者との仲介もある程度はするつもりだ。


 何より、魔王軍に入って貰い戦力の増強が目的だ。

 しばらくは魔王城に滞在して貰うが、それが終われば任は解かれる。

 また急に呼び出しがあるかもしれないけれど、基本的に魔物との連帯を目的にしているから、拘束力は無いようにしてある。だからこそ、僕は甘い。甘すぎる最弱の魔王だから、魔物達から信頼を得ていた。


「どうかな、これ以上の待遇はないと思うけど?」


 ライザァスに促し掛けた。これ以上の要望は、流石に聞き入れられない。

 僕にだって譲れないことはある。それにここで飲んでくれないと、本当に冒険者の討伐体がやって来ちゃうよ。もしかして、“本物の勇者”も……なんて考えていると、ライザァスは剣を床に付けた。


「なるほどな。要するに貴様に下り、力を貸して働けと言う訳だな」

「あー、うん。ザックリ言ったらそんな感じかな?」


 絶妙にズレている気がする。

 でも仕方が無いのかもと割り切ると、スッと腕を出した。

 もし了承してくれるなら、この手を取って欲しいって言う合図だ。


「どうかな、ライザァス。ラインとザイアも一緒に」

「フン、確かに安全がある程度保障されるなら、悪い話ではないかもしれないな」


 ライザァス達にも、悪い話ではないと思う。

 けれど何処となく雰囲気が怪しい……けど気のせいだろうか?

 多分勘違いでは無くて、僕は身構えてしまった。


「だがッ!」


 いい感じの雰囲気が壊された。

 ピキンと殺気が走ると、ライザァスは床を蹴る。

 床に付いていた剣を振り上げると、僕達に飛び掛った。


「汝らに与えしは光の源、悪意の矛を、その身で受け止めよ—シャイン・シールド!」


 プラシアは繰り出された攻撃を、瞬時に魔法で受け止めてくれた。

 目の前に巨大な盾が現れると、ライザァスの攻撃を防ぐ。

 あー、結局こうなっちゃうんだね。好戦的……とは行かないけど、ライザァスは僕達を敵だと認識していて、これは骨が折れそうだった。

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