At night to freeze (凍てつく夜に)
「お前、怖くないんか」
と唐突に功は、言った
「怖くないと言ったら、嘘かもな」
と博史は釣り糸のリールを巻きながら言った。
正月用の、酒の肴を釣りに、功とイカ引きに来ていた。
2杯は揚げたので、あと一杯で完了だ。
この時期のイカは、すごく甘みがあって、刺身でうまいし、一夜干しにしてもうまい。
正月用に、寒い中かれこれ3時間も粘っている。
最近、流行りのルアーで釣ればいいのだが、イカすれてしまってなかなかつれない。
博史と功の仕掛けは、昔ながらのものだ。
アジのしっぽに釣り糸を括り付けて、潮の流れに任せている。
時々を糸を巻いて、弛みを取る。
イカが食いついて、アジの頭を食いついたら近くまで寄せて、針の返しのついたガゼを糸に絡ませて
イカをひき揚げる手法だ。
ほとんど、化石みたいな手法で、めったにやる人間はいない。
「まさか、こうして お前とイカ引きをやるなんぞ。思いもしなかったぞ」
と功は煙草に火をつけながら言った。
「さっさそ釣らないと、正月の酒の肴はなしだぞ」
と博史は缶コーヒーを飲みながら言った。
星が瞬いていて、放射冷却だろうか冷えていた。
妻を亡くした男と、妻のかつての恋人で親友の男が、並んで釣りをしているのは結構シュールなのだが
互いに、何か言わなくても分かり合えるという不思議な呼吸があった。
「さっきの話な、最初は他人事みたいに思っていたよ。今すぐにどうという話ではないことも分かっていたし、実感がないんだな。自分が病気だなんて、癌だなんてな」
と博史はぽつりと言った。
「寿命まで20年くらいあるといわれても、どうなのかな。あくまで平均だよな。覚えてるか、中学の同級生。田中だったけ、中3の時に死んだろう病気で、死ぬ前の晩に俺はあったんだ。普通に過ごしてた。
病気で死ぬなんて思わなかった。けっこう、人間てあっけないと思ったよ」
大きなため息をついて、夜空を見上げながら博史は続けた
「あの日に地獄を見た。人が大勢死んでいく地獄を。何か悪いことでもしたのだろうか。戦争でも起きたのかとも思ったよ。だから、人間はあっけなく死ぬんだよ。躓いても死ぬし、風呂で溺れても死ぬんだよ
だから、覚悟して死ねるしたら、ジタバタせずに逝きたいだけさ」
功は、白い息なのかタバコの煙なのかわからない吐息をはいて
「俺は、奈央の花嫁姿を見たい。孫の顔も見たい。だから、生きていたいと思う。それは贅沢か」
「いや、贅沢じゃないよ。至極当たり前のことだろ。人は次の瞬間も自分の意志に関係なく生き続ける
生命活動は本質だよ。だから、人間の青年期の代謝は今の俺たちより3倍以上はあるんだよ。
年取るにしたがって、落ちて行って。、老人のなるとやっと等しくなるんだよ。
つまりは、じーさんば~さんの代謝が本来の持つ能力だから、生きていけるんだよ。」
と博史は笑いながら言った。
「そっか、ならジジイね長生きしてもいいということだな。」
と功も笑っていた。
リールトルグがなった。
「来たぞ」
功がささやいた。
「いや、エイかもしれんし、アナゴかウツボかもしれん。」
リールの音は、しばらくしてやんだ。
糸は張ったままだ。
「間違いないイカだぞ。アジの頭を抱くまで待てよ」
と功は言って、細長い筒から、ガゼを取り出した。
しばらくたって、よくっりと糸を巻いてくると頭に付けたLEDライトに照らされて白いイカが波間に見えた
博史は、糸にガゼのガイドを通して頭より上で離した。
スーと海に吸い込まれてガツンと衝撃が糸に伝わった。
糸を強く引くとリールがなって糸が引っ張られた。
ガゼにイカが引っかかったらしい。
博史はリールを巻いた。
竿がしなっている。
かなり大物らしい。
キロは超えているなと感じた。
功は、タモを持って上がってきたイカの周り入れた。
墨を吐かれると、ほかのイカに警戒されるのでサクッとタモで引き揚げた。
防波堤に盛大に墨を吐き散らしたイカの目の上に空手チョップで一撃を加えるとスーと透明になった。
水イカと言われるゆえんだ。
目標を釣り終えて、撤収となり、軽トラの荷台に道具を積み込むと、功と博史は車に乗り込んだ。
ギアをローに入れて功は車を発進させた。
「正月すぎたら、俺 あの街に行ってくる」
と博史は言った。
「大丈夫か、奈央も一緒に行かせようか」
と心配そうに功は言った。
「いや、これはこれのけじめだから、独りでいい」
「そっか、わかったよ。好きなだけ行ってきたらいい。休みにしとく」
「すまん、戻ったら埋め合わせするから」
「ああ、欠勤にして給料から差っ引いとく」
と功は笑った。
寒さが少し堪えたのか、無いはずの左足が痛んだ。
それでも、向かい合わなければ時だと分かっていた。
そりために、あの街にいかなければならないと・・・
あの日と同じ時間に・・・
もうすく、終わりとなります。




