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008 Silver and crimson

 


 溢れる優しい歌を聴いて

 苦しみのない生き方を選んで

 心に響くたった一つの歌声をさがして

 晴れた青空(そら)の小鳥を傷つけて

 幻のようなその音色に、ただ祈り続けて……


 全てを心から感じられる?

 涙が出るのは、どうして……?




「な、なんで……だって、皆……」

「死んだはずなのにな。あの大火で」

「うん死んでると思ったよトーヤ。懐かしーから、思ー出話でもしてあげるー」

 ナナという少女の方がケラケラと無邪気に笑いながら言った。

「あるところに-、盗獣一賊の村がありましたー。自然豊かで皆仲良く盗んで殺して助け合っていましたー」

 ナナは語る。

「一賊を治めるのは、もちろん頭領様ー。強くて優しくて厳しくて残酷な頭領サマー。そんな頭領様にはー、そろそろ次期頭領を決めるための日が近づーてきてーましたー。まぁ、一応的なー?」

 ナナは語る。

「次期頭領様になるための資格(おきて)とはー、一賊切っての銀色の髪と深紅の瞳ー、そして、背に美しくも禍々しー紋章(イレズミ)を持って生まれてきた赤子ー。そーんなこーんなで、頭領の第一子が産まれるも、その子供は背に紋章を持って生まれてきませんでしたー。次の次の次の子供にも、背に紋章はありまっせーん。あら困ったー。それでもー、その頭領の元にはー、血は繋がってはいるもののー、色んなところに小さな紋章がある腹違ーの兄弟達が10人も居ましたー。でも皆、子供達も母親達も仲良しー」

 ナナは語る。ワイワイと。歪々(わいわい)と。

「そしてとーとー、それは(・・・)見つかりました(・・・・・・・)ー。産まれてーました。見つかったのです。それ(・・)は、一賊の村の片隅にある一般家庭の家に居ましたー。銀色の髪と深紅の瞳、そーしーてー、美しすぎて禍々しすぎる紋章も、ありましたー。それ(・・)隠匿(かく)してーたそれ(・・)の両親はあっさりと殺されました。それ(・・)はー、ただただ驚いてーるばかりで、頭領様は掟によりそれ(・・)を長の家へ招き入れました。さぁ、次期頭領の誕生でーすひゃっほー。唯一、その家で血の繋がらなー兄弟10番目のそれ(・・)は、楽しく面白ーなたくさんの家族に囲まれて、妬まれ、苛まれ、孤独となりましたー。ただそりだけー。めでたしめでたしー。やぁー、なんてゆうか」

 ダァンッッ!

 地の轟く音が辺りに響いてこだました。

 地面が大きく削られた、いや、抉られている。

 何も見えなかった。いや、見えないのだ。

 見えなくてもそれは肌で感じることが出来た。

 彼の。

 その深紅の瞳がギラギラと輝くトーヤの周りには、荒々しく獰猛な、まるで獣のような巨大な旋風が枯れ葉達のお陰で、渦巻いているのがわかった。

 あぁ、そっか。

 風と共に何かが渦巻くその中で、アスカはその検索結果に辿り着いたようだ。

 獣族の盗賊一族。

 盗獣一賊。

 盗獣一賊は、風使いの一族。

 その中でも、頭領の創り出す風の魔法は世界を揺るがすほどで。

 その盗獣一賊は少し前に絶滅したと。

「おいおいトーヤ君。突然君の十八番を繰り出されては困るよ」

 ナナの隣にいる青年・ロキがのうのうと言う。

「るっせぇな!!」

 今までと全く違う風格のトーヤが勢いよく右手を高く掲げた。

 まさに、風が変わったようだった。

 気流が、大いなる風の元、2人めがけて吹き荒んだ。ナナはそれを見計らい、大きく飛び上がって宙返り、風が過ぎるのを待つ、という言葉を使うほど長い滞空時間空中にいる。

 肌の露出が多すぎるその服から褐色の肌が月夜に光り、そこから獣族の者であるということが一目で分かる銀色の獣の尾が垣間見えた。

 そして、その背格好にはあまり似つかわしくない、金色に輝く(・・・・・)栄耀の者が有(・・・・・・)するような(・・・・・)碧い宝石が(・・・・・)埋め込まれたペ(・・・・・・・)ンダント(・・・・)もその少女の細い首から窺えた。

 ロキはというと、少しも動かずその暴れ風を直に受けた。が、風は彼の後ろの大木を10本ほど倒しただけで、そよ風のような弱々しい風だけ彼を包み、それは彼の右目を覆っていた銀髪を勢いよく靡かせた。その下には、左目と同じ深紅の瞳があるはずだった。

 が、その下には、何もなかった(・・・・・・)

 いや、そこに、有るべきモノがなかった。

 目じゃない。

 目の位置にあるけど、黒い、何か、塊のようなもの。

 それは、漆黒で。

 とても、気持ちの良いものには見えない。

 気持ちが悪いモノだった。

「あ、ほら。俺の紋章(イレズミ)って右目にあったのね。過去形ね。元頭領(おやじ)も背と右目にあったから、ぶっちゃけオレが一番近かったのにね~風の魔法にはやっぱ“凪”の魔法でしょ」

 それでも安穏無事、というように、ロキはニヤニヤニヤニヤのうのうのうのうとしている。

 トーヤから放たれた風はすっかり止んでいた。

 その代わり、紅い眼に囲まれた地上に久しぶりに戻ってきたともいうような彼女、ナナが軽やかに着地し、あの伸び伸びとした発言をする少女とは思えないほどに、

「そーだよ、お前のせーで、ロキ兄は右目を失くした! それに唯一、お前を可愛がってたミキ兄は、狩りの途中、お前をかばって谷底へ落ちて死んじゃったしー! トーヤに近づいたら皆死ぬよね! ていうか、呪いだよ! 村も一賊も一瞬で滅ぼされたし! ……畜生……」

 歪々と、顔を歪め、怒りと妬みと、何かと意趣の心を露わにしていた。そして。


十番目(おまえ)なんか……産まれてこな(・・・・・・)ければ良か(・・・・・)ったんだ(・・・・)……!」


 震撼。

 山に、地に、轟いた。ナナがその巨大な狼牙棒を構え、その鋭鋒たちを光らせ、叫びながら、こちらに突進してきたのだ。

 明らかなる意気地で。

 (ねた)みと、(ねた)みと、嫉妬(ねたみ)と。

 ――殺意。

 あれ?

 さっきは動けたのに。

 風が止んだから?

 何だろう。

 何かで身体が動かない。

 あの大槍をまともに食らったら死んじゃうかもしれない。

 あれ?

 死んじゃうかもって……殺されるの?

 殺したいの?

 邪魔なの?

 足手纏いなの?

 いらないの?

 俺って、死んだ方が良かったの?

 ――俺って、産まれてこなければ良かったの?

「――俺って、産まれてこなければ良かったの?」

「んなわけあるかよ」

 と。

 ナナと目があった瞬間、その視点は急激に外された(・・・・)。そして腹に激痛。

「……っ……!!」

 声にならない叫びを上げる。勢いよく、トーヤがいた方向の大木を何十本か倒しながら、ナナは森の奥深く突っ込んでいった。そして大木に身体を打ちつけた後、目を開いたトーヤの前にいたのは、振り上げていたらしい足を下げながら欠伸をしていたアスカだった。

 …………。

 緊張感の欠片もなさそうだった。

「お兄さん達の話長い、飽きた」

 唐突にあっけらかんと言う。

「そんでもって凄いイラついてきた。お兄さん馬鹿なの? マヌケなの? 無能なの? 一体どれなのこの盆暗」

「……え、えーっと、ぜんぶ、かな……?」

「だよね。うん、ごめんね。僕リタ以外の身内と他人には容赦ないかもしれないから。まあ、お兄さん達は前者の方だけど」

「え……」

 トーヤがぽけっとしている最中、

「おーいトーヤ君。何そんなところでうつつを抜かしてんだい、ねぇナナ」

「そうだね、トーヤは状況判断力がなーのだよ、ロキ兄っ」

 左右から、またも間一髪入れず突進してくるナナといつの間にかすぐそこに立っていたロキが静かに言っていた。

「じゃーね、トーヤ!!」

 そしてナナのかけ声と共に。


「黙れひったくり犯そしてただの盗人」


 と、アスカが舌をペロッと出しながら口を開いたその瞬間だった。

「ぐ」

「ああうううううううあああああああああああああああ!!」

 突然。

 突如として。

 咄嗟の出来事、不意を突かれたかのように。

 その深紅の目を見開いて、ナナが跪き、狼牙棒を落とし自身の耳を押さえ、絶叫していた。胸のペンダントが揺れている。ロキはというと、彼も耳を押さえ、一心不乱に何かに耐えていた。周りのいくつかの紅眼の保持者も、目から涙を口から唾液を、その銀髪を振り乱し、呻き声を上げ、気が狂ったような異常な状態を示している。

 何が起こっているのか分からない。

 何かが起こったわけでもない。

 風さえも吹いていない。

「……ただの、非殺傷兵器(・・・・・)『逆モスキート音』的なもの、低周波音っぽいもの増量バージョン、だよ」

 そう言った。その絶叫達ノイズの中に立っていたアスカはそう言った。

「……もすきーと?」

「お兄さん、耳良いから分かるかもしれないけれど、たまにさぁ、凄く聴きたくない音ってあるでしょ? キリキリするような、頭の中かき混ぜられてるみたいな、地響きみたいな?」

「あー……おう、気持ち、悪いやつな、痛いやつだな」

「うん。それさぁ、僕出せるんだよ」

「え?」

「僕モスキート音的なものを身体から出せるっていうかなんていうんだろう。普通の人は出せないからね、人体構造とか普通に知ってそうなリタが聞いたらそれこそ卒倒するかもね。ちょっと応用してみたら逆も出来るんじゃないかなぁって思って。まぁこれくらい序の口だし。ていうかお兄さんはまだ若い方なんだね、だから聞こえないんだよ」

「え、今も? 喋りながら?」

「うん」

「……おー……アスカ、なんだかわかんねぇけど、強ぇ……」

「唐突に話変わるけれど、あのお姉さんが首から提げていたのリタのペンダントなんだよね。盗まれたんだよね」

「ええぇぇ!?」

「言っておくけど勘違いしないでね、お兄さん。僕はリタの用心棒なだけなんだから」

 淡々とそう言ってのけるアスカ。

「あれはね、あのペンダントはね、リタにとってとてつもなく大切なものらしいから。大幅には僕のせいであちらに渡ってしまったものだから。それくらいで喧嘩してしまったことを忘れるくらいお兄さん達の煽りを食らったわけではないけれど、まぁ、その辺は僕の義務と良心があるからね」

 そして。

「それにお兄さん達は仮とはいえど同胞者(なかま)だから。そして僕は、リタとモヤモヤしたままってのは嫌だから。もう一度言うよ、勘違いしないでね」

 と、左耳の十字架のピアスを揺らし、澄ました顔でそれだけ言い訳を放った。

 その後だった。



 

 to be continued...



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