表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/8

002 Trust me too



「お疲れ様ー」

「あ、ああー……」

 まだ街の人々は踊っているが、リタは体力の問題で一時休憩となった。アスカの持ってきたジュースで骨を休める。

「はい、動いて暑いかもしれないけど、ちょっと夜は冷えるよ」

 アスカはリタの肩に薄めのローブを掛ける。

「あ、ありがとう」

 意外と優しいんだな。

 って。

「おい! 私が疲れたのは、貴様のせいだろうが……!」

 リタが叫んだ途端、アスカはきょとんとする。そして、にへらっと笑った。

「僕はアスカだよ。でも、凄く楽しそうだったよー。街の人も、伝統の曲に歌が出来て嬉しいってさ」

「う……」

 そんな凄いことしてないのに……。

 アスカは近づいてきた。

「ね。皆の前で歌うの気持ちいいでしょ? コンテストは大舞台だよ、たくさんの観客だよ。……まだ考え直してくれない?」

「うー……それは、なにかやるといいことがあるのか?」

「うん! 優勝すると、何でも3つ、願いを叶えてくれるんだ!」

 アスカの目が輝く。

「願い?」

「そ。知っているでしょう? 第50代目クラン様の治める国――」

「――スイウタマユラトウ?」

「そ。そこでやるんだよ。しかもクラン様が審査員長だから、絶対だよ」

「願いか……君は何か望みが……?」

「うん!」

「三毒の煩悩か」

「そんなんじゃないよ、つかなにそれ! ね、リタ。ダメなの?」

「だーかーらー……」

 やれやれ、そんな風にリタはため息をつく。だが、彼女は、アスカと話していて、なんだかとても楽しそうに見える。

 なぜだろう。

 リタは自分でもよく分からなかったが。

 ……アイツに似てるかな。

 そうとだけ思った。

 もう少しだけ、この心地好さに浸ってみようと思った。

 少しは、良いかなと思った。

 だが、彼女が再びお祭り最中の広場へ目を向けると、そこには(・・・・)奴がいた(・・・・)

「!」

 何か、彼女の何かの変化に気づいた様子のアスカは、問いかける。

「ねぇねぇ、リタ……?」

「黙ってくれないか」

 アスカの言葉を、リタは切った。そして席から立つと、もう一度アスカの方を向いた。

「私にはやるべきことがあると言った。私よりも才のある奴など星の数ほどいる。もう構うな」

「え、でも……」

「迷惑だ」

 歩き出そうとするリタの手を、アスカは引き留め、強く握った。

「じゃあ、なんであのとき、朝――僕の音を聴いて、歌ってくれたの?」

「…………」

「リ……」

「本当にもう付きまとわないでくれ!」

 リタはアスカを突き飛ばし、祭りの方へ紛れ込んでってしまった。

 アスカは呆然とその場に居座っている。

「リタ……」

 アスカはリタの行った方向へと、視線を預けた。




 ――ロジカ、奴は他人がいても何にも躊躇(ためら)わない……。

 ……だから、私から離れなくては。

 ……まだ奴は私がここまで来たのは気づいていない!

 リタは祭りの広場から少しずつ遠ざかり、そして……いつのまにか、あの女店主が行っていたクロユリアの花畑へと来ていた。一面を埋め尽くすその一輪一輪が、月光に反射して、ほのかな光を放つ。白と黒のコントラストが何とも見事な、そんな広い大地に、リタは逃げてきたのだ(・・・・・・・)

 ……とりあえず、街への被害はない。後はこの花畑を越えて……。


「見っけ」


 楽しそうな、だが何かキンと冷たいそんな、突然の聞き慣れた声に、リタの足は踏みを浅くしてしまった。顔が引きつり、リタは足を滑らせる。

「3日ぶりだな。3日前に、殺したと(・・・・)思ったんだけどな(・・・・・・・・)。しぶといなあ相変わらず」

 トン、とリタは流れゆくままにその者の身体へと倒れ込んだ。

 ゆっくりと顔を上げ、目に入ったのは、1人の青年。

 ハネっ毛の茶髪に右目には黒の眼帯、左腕を包帯に包み、細身の身体には黒を基調とした服を纏い、右の頬には、禍々しい刺青が施されている。

「ロジカ……」

「よぉリタ。このロジカル・ロジカ・タルタリア様が、また来てやったんだけどぉ。まだ俺様に、殺され足りねぇのか?」

「……そんな訳ないだろ……!」

 リタはロジカルと名乗る青年から、すぐさま遠ざかった。

「出会ったからには殺す」

 ロジカは、そう静かに言った。左腕には月夜にきらめくナイフ。

「幼馴染みだろうとな」

 ロジカが動いたのが見えた。と同時に、リタは後ろを振り返り走り出す。だが、彼女の体力の問題と戦闘未経験から、ロジカがすでに行く手を阻んでいた。

「相変わらず脳しか働かねえなぁ、お前は」

 距離はあまりない。だが、リタは口元に笑みをこぼす。

「……どうかな……!?」

「……? ……っな、まさかお前……!」

 いつの間にか、リタとロジカの周りは何か、陣で囲まれていた。妖しげな光を放ち、その中を光の粒が駆け巡る。

「私だって、あの子のように魔法くらい使える!」

 彼女が敷いているのは、紛れもなく魔方陣。ゆらゆらと、黒い影が、ロジカを包み込もうとする。ロジカの足は、影で固定されていた。

「っく……!」

「さぁ、元の、お前の居るべき場所へと帰れ! そしてもう、わたしたち(・・・・・)の邪魔をするんじゃない!」

 ロジカの体は、だんだんと魔方陣へ引きずり込まれていく。

 よし……初の試みだったが、上手くいく……!

 リタが深呼吸をし、気持ちを整えたそのとき。

「あのよぉ」

 すぐ後ろから、ロジカの声が響いた。

魔法(それ)、誰が創ったと思ってんだよ」

「!」

 後ろを向いたときには遅かった。

 ロジカは白いチョーカーを付けているリタの細い首を掴み、彼女を地面へと押し倒した。リタの白い両手首も、何か闇色の鎖で繋がれていて、身動きがとれない。

「タルタリア大国国王の、俺の親父が創造主だからな。その息子は全てを悟ってんの」

 そう言いながら、首から手を離しリタのワンピースの胸元へと手を滑り込ませる。

「……ん……っく」

 リタは必死の抵抗を見せるが、身体は動かない。

「ん、あったあった」

 ロジカはお目当てのものが見るかると、すぐに手を出し、そのモノをシャランと揺らした。

 それは、リタが首からさげていたペンダントだった。

「これねえと、お前殺しても意味ねぇからなぁ。じゃ、所在を確認したところで……やりますか」

 左腕には鋭いナイフ。

 ――こんな……こんなところで、私はやられるワケにはいかないのに……!

 しかし、もう策もない。動けない。言葉も出ない。

 ……約束を守らなければ、ここまで来ておいてあの子に申し訳がつかない……。

 誰か、誰でも良いから、助けてくれ!

「どうでも良いけど、村の人間は今夜限りはここは立ち入り禁止らしい。これまでだな、リタ……っ!」

 ロジカがナイフを振りかざす。

 リタの目からは涙が伝いおち、そして彼女は目を瞑った。


 ……すまない、……――アトリエ……!


 ………………。

 ……?

 音色が聞こえた。

 可愛らしい、テンポののった、そんな音。

「あ……?」

 ロジカの声が聞こえる。どうかしたのか、ナイフは振りかざされない。

 リタは目を開けてみた。


「…♪♪……♪」


 またはっきりと、その音色は聞こえた。 

 それは、リタの目の前、ロジカの後ろにあの少年がいた。ローブがはためき、クロユリアの花の光でその姿は一目瞭然だった。

 その音色の持ち主――アスカ・キリミヤはその小さな口で、美しい調べを奏でている。

「あ……」

 リタはやっと声を出した。

「な、なんだ……? なんで動かねぇんだ……?」

 振り向かずとも、気配でロジカは何者かが自分の後ろに居ることを見抜いている。するとその問いかけられた少年はその調べを止めると、にへらと笑って言った。

「軽い音楽」

「あ?」

 その調べが止まっていても、ロジカは動かなかった。動けなかった。

「心もカラダ(・・・)も軽くなる、魔法の調べ『口笛(リルモニカ)』……」

「!」

 初めに驚いたのは、リタだった。

 自分の動きを止めていたロジカの重さが、だんだんと薄れていく。そして、彼女が起き上がれる頃、ロジカはアスカの頭上より高く、かなりの高所に到達していた。

「な、お、降ろせそこのガキ!」

「えぇ-。聴いちゃったから無理だよ、お兄さん。それにこのクロユリアの花には、魔力増幅の効果があるんだよ? こんな初級の音魔法でも、この花畑の量だからねぇ、お兄さんもこの通りっ」

「なっ」

「じゃあお兄さん、元居る場所へとお帰り~」

 アスカが虚空でシュッと手を回し、夜空へその手を伸ばした瞬間、

「え……う、うあああああああ!!! あああああああぁぁぁぁ…………ぁぁ……」

 ロジカは勢いよく上空まで投げ飛ばされ、何か嵐でも来たかのように、西の空の彼方へと飛んで行ってしまった。

「………………」

 リタは、ただただそれを見つめて呆けているばかりだった。

 辛うじて声を出す。

「……あ、お前、魔法使えるのか」

「うん」

「…………」

「大丈夫? リタ」

「…………」

 ……この世界で魔法が使える者は多くない。

 私の魔法が少し成功したのは、この花の加護を受けたからだったのか。

「……あ、あり…がとう。……アスカ」

「どういたしまして」

 そう言って、アスカは手をリタに向かって伸ばす。リタはその手を受け取り、立ち上がった。

「君が来てくれなかったら、私の願いは達成されなかった。ほんとうにありがとう」

 リタのその微笑みは柔らかく、そして歓喜に満ちていた。その顔を見て、アスカも笑う。

「リタにも、願いがあるんだね」

「人は誰でも持つさ」

「じゃあ、その願いを叶えようよ」

 アスカは再度、リタに手の平を向けた。しかしリタは先程のように強ばった。

 確かに、そのコンテストに出れば……。

 でも、もしかしたら他人を巻き込んでしまうかも……。


「あ! じゃあ、僕はリタの“用心棒”になるよ!」


「は?」

 唐突に、そんなことをアスカは言った。

「リタ危なっかしいもん。リタの目的地まで守るよ! それに運動神経切れているんじゃ、またあのお兄さんが来たら今度こそ殺されちゃうよ……僕はリタの歌が消えちゃうのは嫌なんだ。うん、リタにいなくなって欲しくないんだ……一目惚れだったんだ」

「……」

 ……な、なな何をい、い言っているんだ此奴は!

 リタの顔は耳まで紅く染まった。

 リタは自身の顔を両手で覆う。

 なんだ此奴。言っていることが恥ずかしすぎる!

「リタは何処を目指しているの?」

 また唐突な質問が飛びだした。顔を隠しながらも、リタは律儀に答える。

「南の……タルタリア、そしてタリンタタタンだ」

「タルタリア大公国とタリンタタタン小公国ね。地図上で言えば僕の国の斜め真下だ」

「……スメラミノクニか? あの東の国の」

「うん。……あれ、さっきのお兄さんって……」

「タルタリアの王子だよ、あいつは」

 溜め息混じりでリタは答える。アスカは目を見開くが、すぐに目を細める。

「……なんでそんな人にリタは狙われているの?」

「…………」

 その回答には、リタは押し黙ってしまった。沈黙が続く中、アスカが口を切る。

「んー、まぁいいや。答えなくても良いよ」

 そう言って、にへら、と笑った。

 あぁ、あの子に似ているな……。

 リタは、また無意味にそう思った。

「僕、魔法と相手の攻撃を避けるのにはかなり自信があるよ」

「しかし……アスカはそんなことしてて良いのか? 遥々東の国から来て、何か、やることがあるのでは……」

「あぁ、もうそれ終わったから」

 ケロッと即答した。

「うん、終わった終わった、絶対終わった。だから、もう良いんだ。大丈夫。僕のことは心配しないでよ、リタ」

 真剣な瞳だった。綺麗に光る琥珀の瞳。

 リタは顔から手を離し、意を決し、口を開いた。

「君は私の願いを探索しない」

 先程の魔法ではまだ能力は計り知れないが、私の力だけでは他の刺客からも逃れられないだろう。

「君はこの……私の身体を必ず守る」

 それでも私たち(・・・)の願いが達成される日が近くなるのなら。

 リタは首からさげていたペンダントを手からさげ、アスカの前へ突き出した。

 それは、金色(こんじき)に輝く、栄耀(えよう)の者が有するような、埋めこまれるは碧い宝石(あかし)

「君は私に――リタリタ・タリンタタタンに忠誠を誓うとここに約束するのなら、私は君を信じよう。そして、君の――アスカの願いをも叶えよう」

 荘厳に満ち足りた、この上ない声で、眼差しで、その姿勢と態度で、アスカはパァッと目を輝かせ、

「もちろんさ! 僕はスメラミノクニのアスカ・キリミヤ! よろしくね、リタ!」

 その手をさらに伸ばし、彼女の手を取った。

 月光の(もと)での契りだった。

 クロユリアの花びらが、いっそう美しく舞う夜だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ