第2話 元剣聖と、大戦犯の神様 ①
完全に光に呑まれて消失したはずの意識が、浮かび上がってくる。
暗闇でもなく、光でもない。
温度も、風も、音もない。
まあ、例えるならば、虹色の闇、だろうか。
いやそんな色、想像できないだろ——と、自分で突っ込む。
…
虚しい。
それにしても、誰もいないところで自分で言ったことに突っ込むって、
だいぶ変人だよね。大丈夫かな?俺。
というか、死んだんだよな?
…
まあ、死んだんだろうなあ。なんも感じないし。
……なのに、なんで俺こんなに普通に考えてんだ?
死後ってもっと無のはずじゃないのか?
ミリア、泣いてたなぁ…やっぱり、荷が重すぎたか…。
いきなり育ての親を殺せってなぁ…。
あの後、大丈夫だったかなあ?……ミリア、本当に大丈夫だったよな?
……って、俺いま何心配してんだ?死んだんだよな?俺。
……いや、考えてても仕方ないか。こういう時は気を紛らわせるしかない。
あ、どうも皆さんこんにちは。元の世界では剣聖とかやってました。
レイン・アークスです。
あっちではめっちゃいいこと言ってる風な感じでしたけど、
普段は割とコミカルなほうです。はい。よろしく。
……ん?なんか、空気がざわついてきたような。
…というか、こんなこと一人でやってても虚しいだけだし、
だれか来ないかな~と思っていると、空間がぐにゃりと歪み、
色が混ざり合っていく。
お、なんだなんだ!?と叫んだ瞬間、空間がフラッシュみたいに明るくなった。
目の奥がジンと痛むほどの光量だ。
「うおっ、まぶしっ!? ちょ、待って、死後の世界ってもっとこう……静かじゃないの?」
光の中から、のほほんとした声が返ってきた。
「ごめんごめん、照明強すぎた? いやぁ、久しぶりの来客でテンション上がっちゃって」
……テンションで照明変わるって何?
「……誰?」
「えっとね…… 君の世界をうっかりバグらせて消しちゃった、すご~く偉い、創造神様です!まあ、君からしたら、大戦犯の神様…?」
……情報量が多すぎて頭が追いつかねぇんだけど?
あと、胸を張るな。あとタイトル回収はええ。
そしてなんでビーチでバカンスみたいな格好してビーチベットで寝ころびながら謝罪すんだよ。ひき肉にすんぞコラ。
「ひき肉にすんぞコラ」と心の中で呟いた瞬間、 ビーチベッドの上の神様がサングラスを外した。
「いやぁ、怒るのも当然だよねぇ。 だって君の世界、うっかり“アップデート前のバックアップ”に戻しちゃってさ」
「は?」
「つまり、君の世界……一回消えちゃったんだよねぇ」
軽い。
軽すぎる。
この神様、謝罪の重さって概念をどこかに置いてきたのか?
「……お前、マジで大戦犯だな?」
「でしょ? タイトル通りでしょ?」
胸を張るな。(学習しろ)
というかタイトル通りとかメタなこというなよ(切実)
というのは置いといて、今、なんていった?
「いやいや、だから言ったでしょ?君の世界、間違えて初期化しちゃったって」
…は?
……いや、初期化って軽く言うなよ。世界規模の話だぞ?
「俺の世界が……初期化された…?」
神様はココナッツジュースをちゅーっと吸いながら、
「うん」と軽く頷いた。
いやいやいや、軽く頷く内容じゃねぇだろそれ。
世界が“初期化された“って言葉を発する重さじゃない。
「いやいやいやいや、待て待て待て。
世界が“初期化された”ってどういう意味だよ。
俺の住んでたあの世界だぞ? 人も街も国も全部だぞ?」
「そうだよ?」
即答すんな。
「いや、あのねレインくん。
君の世界って、もともと“容量ギリギリ”だったんだよねぇ。
で、ちょっと掃除しようと思って……」
「掃除?」
「うん。“不要データ削除”ってボタン押したら……
隣にあった“初期化”ボタンに指が滑っちゃって」
「おい」
「いやぁ〜、UIが悪いよねぇ。
“掃除”と“初期化”が隣ってさぁ」
「UI改善しろや神様ァ!!」
ザザーンと波の音が響くビーチに俺の叫びが虚しく響いた。
……いや、UIの問題じゃねぇだろ。世界だぞ世界。
神様は「いやぁ〜ほんとごめんごめん」と笑っている。
笑うな。
世界ひとつ初期化しておいて笑うな。
……いや、掃除のついでに世界初期化すんなよ。
「でも安心してよレインくん。
君だけはバックアップ取ってあったから!」
「バックアップ……?」
「うん。君、強すぎて世界の処理落ちの原因だったから、
個別に保存してたんだよねぇ」
「俺、原因扱いされてたの!?」
「うん!あ、あとなんかあった時用に、君の元の世界のバックアップはとっておいたから。世界は削除しても、魂は消えないから。バックアップの世界に魂を吹き込んで、はいおしま~い。だから、君の弟子も心配しなくて大丈夫☆」
……と、神様は満面の笑みで言い放った。
いや、待て。 今の説明、軽く聞き流していい内容じゃなかったよな?
……魂をデータ扱いすんな。怖ぇよ。
「ちょっと待て。 “世界は削除しても魂は消えない”ってどういう理屈だよ。 あと“バックアップの世界に魂を吹き込んでおしまい”って、 お前それ……世界をUSBメモリみたいに扱ってない?」
神様はココナッツジュースをちゅーっと吸いながら、 「うんうん」と頷く。
頷くな。
「いやぁ、便利だよ? 魂データはクラウド保存されてるから、世界が初期化されても安心!」
「クラウドって言うな神様ァ!!」
美しい浜辺のビーチに俺の叫びが吸い込まれていく。
神様は気にした様子もなく、ビーチベッドで寝返りを打った。
「でもねレインくん。 君の弟子ちゃん、すっごく泣いてたよ? だから、元の世界を復元して魂を戻してあげたら、 ほら、問題解決っ!」
「いや、問題解決じゃねぇよ!? 世界の初期化→復元→魂戻しって、 お前それ……神様版“強制再起動”だろ!」
「そうそう、それそれ!」
肯定すんな。
というか、元の世界にも、宮廷魔道具技師開発部とかで、ぱそこんとかいう意味の分からない魔道具作ってたしなあ。剣聖時代に、基礎的な知識はそいつらに教えてもらったけど、ほんとに簡単なことと、単語しか覚えられなかった。あれ理解できるやつ、変人しかいねえだろ。
……と、そこまで思い返したところで、 神様が「うんうん」と妙に満足げに頷いた。
「そうそう、その“ぱそこん”ってやつね。 あれ、僕が昔、他の世界からコピペしてきた技術なんだよねぇ」
「お前かよ!!」
広々としたビーチに俺のツッコミが虚しくこだまする。
神様は悪びれもせず、ビーチベッドで寝そべりながら続けた。
「いやぁ、あの世界の技師たち、すっごく面白かったよ? 僕が適当に投げた技術を勝手に発展させてさ。 “ぱそこん”とか“ねっとわーく”とか、 僕でもよく分かんない方向に進化しててさぁ」
「創造神が理解できない方向に進化してんじゃねぇよ……」
「だからねレインくん。君が覚えられなかったのは普通だよ。あれ理解できるの、ほんとに変人だけだから」
「公式が言うなよ……」
神様はケラケラ笑いながら、ビーチベッドに寝転び直した。
だから寝ころぶなよ…まあこれ以上突っ込んでも意味ねえか。疲れるし。
神様はビーチベッドの上で、相変わらずココナッツジュースを吸っている。
創造神のくせに、緊張感という概念がどこにも存在しない。
そこで、大戦犯《神様》がおもむろに口を開いた。
「ところで話変わるけど、君、転生してみない?」
…
…は?
ビーチの空間が、音もなく揺れた。 レインの思考も、同じように揺れた。
さっきまで世界初期化だのバックアップだの言ってたやつが、 今度は“転生してみない?”である。
いや、話の飛び方おかしくない?
ジャンルの切り替え早すぎるだろお前。
「……は?」
二度目の“は?”が、空間に沈んでいく——…
……いや、沈むな。声が質量持ち始めたら終わりだろ。
駄目神の前で物理法則まで壊すな俺。
あ、目の前が真っ暗に…
え、また死ぬの?
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