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第1話 最強の剣聖、死す

初投稿です。

よろしくお願いいたします。


「……これで、よかったんだ」


夜風に溶けるほど静かな声だった。 かつて“剣聖”と呼ばれた男——レイン・アークスは、 “忘れられた竜の都”の月明かりの下で、膝をついていた。


そこは、かつて竜と人が共に栄えたと伝わる古代都市。

今は誰にも語られず、地図からも消え、

巨大な竜の彫像だけが朽ちた姿で並ぶ、静寂の廃都だった。


風が吹くたび、砕けた石片がかすかに転がる音だけが響く。

ミリアは震える手で剣を握りしめ、目の前の“先生”を見つめていた。

胸元には深々と刻まれた一閃—— そこから赤い雫が静かに落ち続けていた。


「先生……どうして……どうして私なんですか……」


涙で濡れた声が震える。 レインは、痛みを押し殺すように、しかし穏やかに微笑んだ。


「俺は……この世には存在してはいけない存在になってしまった。

世界を崩壊させてしまう存在に……。だから……最愛の娘であり、唯一の弟子であるお前に……

この世界の命運を、頼んだんだ……」


ミリアの手が震え、握る剣がかすかに揺れる。 だが、もう振り下ろす気配はない。 レインの身体はすでに限界を迎えていた。

そのとき—— 胸元の傷が、赤い光を帯びて静かに広がった。 蜘蛛の巣のようなヒビが全身へと走り、赤黒い魔力が砂のようにこぼれ落ちていく。


「……っ、先生……!」


ミリアの叫びに、レインは優しく首を振った。


「大丈夫だ、ミリア。お前の剣は……迷いがある。  だからこそ……美しい。

俺のように、人を傷つけることを、何のためらいもなく行えるような人間に……なるなよ……」


ヒビはさらに広がり、レインの身体は淡い光に包まれていく。 崩れ落ちそうな身体を、彼は最後の意志だけで支えていた。

震えるミリアの手に、レインはそっと触れた。


「ミリア……泣くな。お前は……俺の誇りだ。

どんな未来でも……胸を張って、生きろ。

そして……俺みたいに、たくさんの人を……泣かせないように……」


ミリアの瞳から涙がこぼれ落ちる。 レインの身体を走るヒビが光を帯び、音もなく砕けていった。

世界が息を潜めたような静寂。

崩れゆく身体の奥から、かすかな声が漏れる。


「……ミリア。最後に……ありがとう。

お前がいてくれたから……俺は……独りじゃなかった……」


光が強まり、輪郭が淡く揺らぐ。 レインはどこか遠くを見るように微笑んだ。


「……さようなら……ミリア……」


その声は、光とともに静かに消えていった。

—————————————————————————————————————

Side:ミリア


光が消えたあと、そこには何も残っていなかった。 レインの姿も、声も、温もりも。

ただ、竜の彫像が見下ろす廃都に、夜風が吹き抜けるだけ。

ミリアは、しばらく動けなかった。 握りしめた剣はまだ微かに震えている。

それが自分の手の震えなのか、

それとも、さっきまでそこにいた“先生”の余韻なのか、わからなかった。


「……先生……」


呼んでも返事はない。 わかっている。 それでも、声に出さずにはいられなかった。

胸の奥がひどく痛む。

剣を握る指先が白くなるほど力を込めても、その痛みは消えない。


——もっと強ければ。

——もっと早く気づけていれば。

——先生を救える未来が、どこかにあったのではないか。


レインが消えた場所に、ミリアはそっと手を伸ばす。 そこには、ただ冷たい空気があるだけだった。


「どうして……どうして私なんかに……」


涙が頬を伝い、石畳に落ちる。 その雫が触れた場所が、一瞬だけ淡く光った気がした。

レインの魔力の残滓。

彼がこの世界に存在していたという、確かな証。


ミリアは涙を拭い、そっと拳を握った。 先生が託した未来を、必ず守り抜くと胸の奥で固く誓う。

けれど、胸の奥に残る震えはまだ消えない。 それでも——

ミリアは小さく息を吸い、震えを押し殺した。 先生の残した想いを、今度は自分が繋いでいくのだと。


そして、足元の石畳に落ちた光を見つめる。

その淡い輝きは、まるでレインの手の温もりのようだった。

ミリアはそっと目を閉じた。 もう迷わない。先生の願いを背負って、生きていく。


「……先生。私……強くなります。  あなたが誇れる弟子でいられるように……」


夜空を見上げる。 雲の切れ間から、星がひとつだけ瞬いていた。

ミリアは涙を拭い、ゆっくりと立ち上がる。 剣を鞘に収める音が、静寂の中に小さく響いた。


「さようなら……先生」


その言葉は、夜に溶けていった。


————ミリアの物語は、ここから始まる。

    だが、それは彼女だけが歩む静かな道であり、  

    世界はもう、別の未来へと動き出していた。


「面白かった!」「続きが気になる!」という方は、ぜひ、ブックマークやコメントなどもよろしくお願いいたします!

ちなみに、次回はコミカル回です

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