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Himeyuri ―魔法嫌いの元学園最強と、幼馴染の約束から始まる魔法学園譚ー  作者: 小鳥遊 千夜
第二章 魔法試験編

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第70想 第四の関門――魔法主任神奈 





「皆さん、次の試練に入る前に……傷を(いや)しておきますね」


 癒水(ゆみ)がそう言って一歩前に出る。

 先ほどまでの戦いを終え、まだ誰の身体にも疲労が残っていた。


 両手を静かに重ね、深く息を吸う。


『恵みの雨よ、静かに降り注ぎ、

 傷ついた心と身体を包んで――』


癒しの雨(ヒール・レイン)



 淡い光を帯びた水滴が、霧雨(きりさめ)のように降り注ぎ、一行の身体を包み込んだ。

 (かす)り傷や打撲(だぼく)の痛みが薄れ、張り詰めていた筋肉がゆっくりと解けていく。


「……助かる」

 燈也(ともや)が短く息を吐いた。


 仲間の表情にも、わずかに安堵(あんど)の色が戻る。


「やっぱ癒水の魔法は助かるわね」


「おかげで、次も全力で行けそうだぜ」


 そんな声が漏れ始めた、その時だった。


 ――コツン。


 どこか余裕を含んだ足音とともに、

 場の空気を切り替えるような、柔らかくも底の知れない声が響く。


「ほう、待っておったぞ。もう少しかかると思っておったがの。」


 柔らかな声とともに視線を向けてきたのは、

 金色の四つ尾をゆったりと揺らす女性――神奈(かんな)だった。



「次の試練はあんたか……神奈先生」


 燈也が低く呟く。

 その声には、これまでの教師たちとは違う種類の緊張が混じっていた。


「あのライブの時はありがとうございました」


 怜花(れいか)が一歩前に出て、丁寧に頭を下げる。

 神奈はその様子を見て、目を細めて微笑んだ。


「なに、わっちはほんの少し背中を押しただけじゃ。

 おぬしらが頑張ったからこそ、今があるのじゃよ」


 その笑みは優しい。


「それに……試験は手を抜かぬぞ?」


 空気が一瞬で引き締まった。


「望むところだ!」


 燈也が迷いなく応える。

 その声には、ここまでの試練を越えてきた確かな自信が宿っていた。


「では試練の内容じゃが……」


 神奈はゆっくりと手を広げ、周囲に魔法陣を展開する。


「おぬしらには、この迷宮を超えてもらう。

 勿論、中には幾重(いくえ)ものトラップを仕掛けておる」


 周囲の石柱(せきちゅう)がわずかに震え、魔力が満ちていくのを全員が感じ取った。


「おぬしたちの知識、そして判断力――

 それを、余すことなく試させてもらうぞ」


「ああ、全力で超えてやる!」


 燈也の言葉に、仲間たちも静かに頷く。


「カッカッカ!!」


 神奈は楽しげに笑うと、印を結び、術式を展開した。



『乾・坤・震・巽・坎・離・艮・兌 八方に理を刻み、陣を巡らせ道は移ろい、壁は蠢き 進む者を惑わし、退く者を拒め 理を知らぬ者、永く彷徨え』

 

≪妖術 石神八陣(せきじんはちじん)!!≫



「では、わっちは迷宮のゴールで待っておるぞ」



 次の瞬間――

 視界が白く染まり、足元の感覚が消える。


 ぐにゃりと空間が歪み、燈也達は強制的に別空間へと転送された。


『さあ!試験も大詰め!第4の試練!』


 洞窟全体に、実況の吉良(きら)の声が響き渡る。


『対するは美しき天狐――魔法主任・神奈!

 彼女が作り出す迷宮、《石神八陣》!

 果たして不知火(しらぬい)チームは脱出できるのか!?』


 続いて、落ち着いた声で愛紗(あいしゃ)が解説を入れる。


『石神八陣――知恵無き者は永遠に出ることが出来ないと言われる、

 極めて高度な結界術です。

 皆さん、どうか慎重に進んでくださいね』


 光が収まると、そこはもはや元の試練場ではなかった。


 無数の分岐、刻まれた古代文字、そして静かに待ち受ける罠の気配。


 ――第四の試練、石神八陣始動。



 足元の感覚が戻ると同時に、不知火たちは石に囲まれた迷宮の中に立っていた。


 天井も壁も、すべてが無機質な石で構成されている。

 しかしただの石ではない。魔力が染み込んだように、表面には淡い紋様が浮かび、空気そのものが重い。


「……ここは異空間みたいね」


 リエラが周囲を見渡しながら、慎重に魔力を探る。

 音が反響し、どこまでが道でどこからが行き止まりなのかも分かりにくい。


「油断するなよ」


 燈也が低く言い、仲間たちに注意を促す。


「大丈夫だって。こういうのはゲームで慣れてる。サクッとクリアしてやるぜ」


 郷夜(ごうや)は相変わらず軽い調子で、迷宮の壁に手を置いた。


 ――ポチ


「……え?」


 一瞬、何かが作動するような(かわ)いた音が響いた。


「あれ、なんか……音しなかったか?」


 次の瞬間――

 奥の通路から、ゴロゴロと地鳴りのような音が近づいてくる。


「うわああああ!! 大岩だああああ!!!!」


 巨大な岩が、猛スピードで転がってきていた。


「何やってんのよ!このバカ!!」


 流水が即座に怒鳴る。


『――蒼海を駆ける一撃』


≪オーシャンアーツ壱の型 藍鯆(あおいるか)!≫


 流水の脚に水が集まり、渦を巻く。

 次の瞬間、鋭い蹴りが放たれ、大岩は粉々に砕け散った。


「助かったぁ~……」


 郷夜は腰を抜かしたように、その場にへたり込む。


「だから言っただろ。慎重に行けって」


 燈也がため息混じりに(しか)る。


「……分かったよ」


 郷夜はさすがに反省した様子で肩を落とした。


「リエラ、何か分かるか?」


 燈也が状況確認を求める。


「それが……まるで何かに妨害されてるみたい。

 感知が上手く出来ないわ」


 リエラは眉を寄せ、首を横に振る。


「対策されてるってわけか……」


 燈也は迷宮の構造を見回しながら考え込む。


「しょうがない。取り敢えず進もう」


 一行は足音を抑え、慎重に迷宮を進んでいく。


 ――だが。


「……完全に迷ったわね」


 しばらく歩いた後、リエラがぽつりと呟いた。


 同じような通路、同じような石壁。

 どこをどう進んだのか分からなくなっている。


「ああ、くそ……こうなったら!!!」


 (ごう)を煮やした郷夜が、苛立ちを込めて魔力を解放する。


『春を告げる青き風よ、その旋律で道を切り拓け。踊れ』

青き春風のワルツ(ブルー・ウィンド)


 鋭い風の刃が放たれ、迷宮の壁を斬り裂いた――はずだった。


「ちょっと!何やってんのよ!」


 流水が慌てて止めに入る。


「いやさ、面倒くさいからさ。この壁、全部ぶっ壊せばいいかなって」


 郷夜は悪びれずに笑う。


「……あれ?」


 しかし、攻撃したはずの壁を見て、郷夜は目を見開いた。


 傷が――消えている。


「壁が瞬時に直ってる……。何らかの魔法か」


 燈也が冷静に分析する。


「だったら……」


 壁が魔法で構成されているなら、無効化できるかもしれない。

 そう考えた燈也は、腕に魔力を集める。


魔断(マギ・ブレイク)!!≫


 魔法無効化の一撃が壁を切り裂き、確かに傷が走った。

 だが、それも数秒後にはゆっくりと塞がれていく。


「燈也さんの魔法でも……ダメみたいですね」


 怜花が残念そうに呟く。


 その時――どこからともなく、楽しげな笑い声が響いた。


「カッカッカ。無駄じゃ」


 神奈の声だ。


「力技では、その石神八陣は敗れぬ」




次回 『第71想 第四の試練 妖術 石神八陣(せきじんはちじん)!!』


動く迷宮――! 数字が導く順路を追い、ついにゴール目前までへ辿り着いた不知火チーム。


だが、安堵の暇もなく、前に立ちはだかるのは――十月花からの刺客。

巨大な体躯、筋骨隆々の拳、そして戦闘狂の笑み。理屈より衝動――その力は、チームの知略と力を試す最後の砦となる。


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