第69想 第三の試練後半 魔導ギア突破作戦――結束の刃
燈也は仲間を集め、短く、しかし的確に指示を伝える。
それぞれの役割。それぞれの動き。
個々の力を、一本の刃に束ねるための作戦。
「よし……それじゃあ、手筈通りに頼むぞ。皆!!」
燈也の号令と共に、仲間たちは一斉に駆け出した。
迷いはない。互いを信じる覚悟が、足取りを軽くしていた。
「試合続行か……実に面白い」
ドライツェンは不敵に笑う。
その視線の先で、魔導ギアが再び重々しく動き出した。
「対象ヲ排除シマス」
無機質な宣告。
胸部の砲口が展開し、赤い光が急速に収束していく。
≪強化魔弾発射!≫
轟音と共に放たれる魔力弾。
先ほどよりも威力が上がっているのが、空気の震えだけで分かる。
「頼むぞ! 癒水!」
燈也の叫びに、癒水は一瞬の迷いもなく前へ出た。
「はい!」
『集え、水よ
流れて壁となり、命を護れ』
≪水護壁≫
瞬時に展開された水の防壁が、迫り来る魔力弾を正面から受け止める。
激しい衝突音。水が蒸発し、視界が白く揺らぐ。
だが、防壁は崩れない。
「更に……!」
癒水は続けて魔法を唱える。
『泡となり、霞となり 争いの目を曇らせよ』
≪幻泡霧!!≫
無数の魔法の泡が生み出され、魔導ギアの周囲を包み込む。
泡は割れながら霧状に広がり、視界を徹底的に奪っていく。
――今だ。
≪魔斬!≫
霧の中を切り裂くように、燈也が踏み込む。
腕に纏った魔力無効化の刃が、魔導ギアの展開したバリアを正確に捉えた。
パキィッ――!
硝子のような破砕音と共に、バリアが砕け散る。
「よし! 今だ! 怜花!」
燈也の叫びに、怜花は一歩前へ出る。
『光よ、束ね 逃げ場なき輪となれ』
≪縛光結界≫
光の紋章が展開し、幾重もの光の鎖となって魔導ギアを絡め取る。
強大な出力を持つ魔導ギア相手では、拘束時間はごく僅か。
それでも――動きを止めるには十分だった。
「今のうちに、皆さんお願いします!」
怜花の声が響く。
「合わせて! 二人とも!」
流水が即座に指示を飛ばす。
「ええ!」
「任せろ!」
リエラと郷夜が同時に応える。
『光はここに』
『水は流れを与え』
『風は加速する!』
『今ここに交わり、奇跡となれ――』
≪三源共鳴魔法!!≫
水、光、風、三つの属性の魔法が完全に同期し、ひとつの巨大なエネルギー塊となって魔導ギアへ叩き込まれる。
爆発的な衝撃波が広がり、魔導ギアの装甲に無数の亀裂が走った。
「よっしゃあ!魔導ギアのボディにヒビが入ったぜ!」
郷夜が叫ぶ。
「燈也くん! チャンスよ!」
リエラが声を張り上げる。
「ああ!」
≪補助魔法! 魔力強化!≫
燈也は魔力を一気に腕へ集中させ、地を蹴った。
一瞬で間合いを詰め、魔導ギアの懐へ飛び込む。
「これで……終わりだ!!!」
≪魔斬!!≫
振り下ろされた魔力の刃が、魔導ギアの中枢を正確に捉える。
断ち切られた装甲。内部から噴き出す魔力の光。
次の瞬間、魔導ギアのレンズは赤い輝きを失い――
重々しい音を立てて、その場に崩れ落ちた。
完全停止。
「やったぜ!」
郷夜が拳を突き上げる。
「皆のおかげだ……ありがとう」
燈也は仲間たちを見渡し、心からの感謝を口にした。
疲労はあった。
だが、それ以上に確かな達成感が、全員の胸に満ちていた。
『凄い!! 不知火チームが、あの魔導ギアを撃破しました!! 実に見事です!』
実況である吉良の歓喜の声が、試練の場に高らかに響き渡った。
「さあ、これで文句はないだろ?」
燈也は肩で息をしながらも、まっすぐドライツェンを見据えて問いかけた。
「ああ……次に進むと良い。」
ドライツェンは腕を組んだまま、表情一つ変えずに淡々と答えた。
まるで当然の結果だと言わんばかりの、冷えた声。
「それだけかよ。もっと褒めてくれてもいいんじゃねぇのか?」
郷夜が調子に乗ったように、ニヤつきながら口を挟む。
次の瞬間――
ドライツェンの蛇のように細い目が、鋭く光った。
「甘えるな。」
低く、重い声。
「試練はまだ終わってはいないのである。
その程度で満足するようでは、いずれ必ず死ぬぞ……」
言葉そのものよりも、その“確信”が込められた視線が恐ろしかった。
郷夜は一瞬で背筋が凍りつく。
「ひぃぃいい……」
情けない声を上げ、反射的に燈也の背中へと隠れる。
「せいぜい、気を抜かぬようにやるのだな。」
それ以上は何も言わず、ドライツェンは顎で通路の先を示した。
不知火たちは一礼もそこそこに、第四の試練へと続く道を進んでいく。
足音が次第に遠ざかり、やがて完全に聞こえなくなった、その時――
誰にも届かぬほど小さな声で、ドライツェンはぽつりと呟いた。
「……くくく……」
その口元が、わずかに歪む。
「まさか、あれを倒すとはな。
実に見事であったぞ。」
先ほどまでの冷酷な教師の顔ではない。
そこにあったのは、期待を裏切られなかった者だけが浮かべる、満足げな笑みだった。
黒いローブの裾が静かに揺れる中、
ドライツェン・エクレールは一人、壊れた魔導ギアを見下ろしながら、そっと笑みを深めていた。
――次の試練が、彼らをどこまで成長させるのか。
それを思うこと自体が、彼にとっては何よりの愉悦だった。
次回 『第70想 第四の関門――魔法主任神奈』
魔導ギアとの死闘を制し、辛くも第三の試練を突破した不知火チーム。
しかし、安堵する暇もなく立ちはだかる――第四の試練。
待ち受けるのは、
青龍魔術学園が誇る魔法主任――神奈。
力も、速さも、根性も通じない。
求められるのは、知識と判断、そして一瞬の選択。
無数の石柱が組み上げる、理を持った迷宮。
踏み違えれば即座に罠が発動し、進路は完全に封じられる。
――知識に無き者は、決して抜けられない。




