第68想 第三の試練中半 魔導ギア突破作戦――絶対防御を打ち破れ
圧倒的な威圧感。
重装甲の魔導ギアがそこに立っているだけで、空気が震える。
誰もが攻撃を重ねた。だが――傷一つ、つけられていない。
「攻撃がまるで効かないなんて。こんなヤツ、どうしたら……」
流水が思わずこぼした弱音。
普段は冷静で、どんな相手にも臆しない彼女が、ここまで追い詰められるほどの存在。
その様子を、見下ろす男がいた。
「諸君らの力は、この程度か?」
ドライツェンは口元を歪め、不敵な笑みを浮かべる。
嘲るようでありながら、その目は生徒一人一人を値踏みするかのように鋭い。
「んなこと言ったって、いくら何でも強過ぎなんだろ!」
燈也が声を荒げる。
腕の傷がじくりと疼き、魔力の消耗も隠せない。
「言ったであろう? この個体はSランク用の特別な相手だと……」
ドライツェンは淡々と答える。
まるで当然のことを説明するかのように。
「おいおい!! 不知火はともかく、他はSじゃないんだぜ?」
郷夜が食ってかかる。
額には汗が滲み、呼吸も荒い。
「そうよ! 無茶苦茶よ」
リエラも同意するように声を上げる。
誰一人として、今の状況が“公平な試練”だとは思っていなかった。
「一人では……な」
ぽつりと、ドライツェンが呟く。
「授業でも言ったと思うが、状況に応じて最善を探すのが一流の魔導士なのだ」
その言葉は、挑発であると同時に“ヒント”でもあった。
「状況……?」
燈也は思わず考え込む。何かを見落としているのか?
「少し喋り過ぎたな……やれ!」
考える時間は与えない、と言わんばかりにドライツェンが命じる。
「対象ヲ排除シマス」
無機質な機械音声。
魔導ギアの単眼レンズが赤く輝き、内部で魔力炉が唸りを上げる。
『さあ、再び魔導ギアが起動を始めた! 絶対絶命か!?』
実況席から吉良の緊迫した声が響く。
次の瞬間。
魔導ギアの砲口が展開し、内部に赤い光が凝縮されていく。
魔力が一点に集束する、嫌な音。
≪強化魔弾発射! !≫
解き放たれる魔力弾。
一直線に、不知火チームを狙って迫る。
≪魔法障壁展開!≫
燈也が即座に前へ出る。
だが一人では足りない。
『集え、水よ
流れて壁となり、命を護れ』
≪水護壁≫
癒水の詠唱が重なり、半透明の水の防壁が幾重にも展開される。
魔弾が激突し、水飛沫と衝撃波が視界を白く染めた。
二人がかりで、どうにか防ぎ切る。
「助かりました」
怜花が息を整えながら礼を告げる。
だが――防壁は震え、ひび割れ、今にも崩れそうだった。
「だが、長くは持ちそうにないぞ!?」
郷夜の声には、はっきりと焦りが滲んでいた。
『おおっと!! バリアが削れていく! 不知火チーム、万事休すか……!?』
実況席から吉良の煽るような声が戦場に響く。
「くそっ……!?」
防戦一方に追い込まれた燈也が歯噛みする。
反撃に出る余裕はなく、守るだけで精一杯だ。
「だったら……」
その時、流水が小さく呟いた。
次の瞬間、彼女は地を蹴って走り出す。
魔導ギアが攻撃動作に入った瞬間――
その間だけ、防御バリアが解除される。
先ほどの攻防の中で、彼女はそれに気付いていた。
砲撃後の、ほんの一瞬の隙。
『蒼海を駆ける一撃!!』
≪オーシャンアーツ壱の技 藍鯆≫
流水の身体が水流に包まれ、一直線に魔導ギアへと突き進む。
しなやかで鋭い蹴りが、その装甲を捉え――
「ほう。今度は攻撃の隙を狙ったか……判断は良い。だが……」
ドライツェンが感心したように呟いた、その刹那。
魔導ギアが流水の接近を感知する。
赤いレンズが光り、瞬時に再起動する防御機構。
バリアが再展開され、流水の一撃は弾かれた。
「――っ!」
「その程度では、魔導ギアの防御は抜けぬ……」
ドライツェンの声は冷酷で、淡々としていた。
「対象補足。反撃ヲ開始シマス」
機械音声と同時に、魔導ギアの視線が流水へと固定される。
巨大な鋼鉄の腕が唸りを上げ、振り上げられた。
≪強化鋼鉄衝撃! ≫
「きゃっ!」
衝撃波と共に、流水の身体が吹き飛ばされる。
「大丈夫!? お姉ちゃん!」
癒水が悲鳴に近い声を上げ、すぐさま駆け寄る。
「ええ……大したことないわ。でも、このままじゃ……」
流水は歯を食いしばり、悔しさを押し殺すように言った。
無傷ではない。だがそれ以上に、突破口が見えないことが痛かった。
「何か手段はないんでしょうか?」
怜花が不安を隠せない表情で問いかける。
「そんなこと言ったってよ……不知火の魔法でも、バリアを壊しただけで大して効いてなかったんだぜ?」
郷夜が肩を落として言う。
「そうね……私達で、流水さんや燈也くん以上の攻撃力を持ってる人はいないし……」
リエラもまた、唇を噛みしめる。
現実は残酷だった。
「確かに……俺一人では……」
燈也も視線を伏せる。
仲間を守り、先陣を切ってきた自負があるからこそ、なおさら歯がゆい。
チームに、重苦しい沈黙が流れる。
「どうする? リタイアするかね?」
ドライツェンの声は静かだった。
だがその問いは、刃のように鋭く、不知火チームの胸に突き刺さる。
魔導ギアは今も低い駆動音を響かせ、逃げ場のない圧力を放っていた。
沈黙が落ちる。
その沈黙を破ったのは、怜花だった。
「なら……皆でやったらどうでしょうか?」
控えめながらも、芯のある声。
その言葉に、仲間たちの視線が一斉に集まる。
「どういうこと?」
流水が首を傾げる。
「先生も言ってましたよね。状況に応じて、最善を探すのが一流だって。それに……この試験は、チーム戦じゃないですか?」
そうだ――これは個人の力量を競う場ではない。
“仲間とどう戦うか”を試す試験なのだ。
「チーム……」
燈也が小さく呟く。
その言葉と同時に、胸の奥で何かが噛み合う感覚があった。
「皆で力を合わせれば……きっと」
怜花はそう言って、仲間たちを見渡した。
不安と疲労の中に、それでも信じようとする瞳で。
「……そうだな」
燈也はゆっくりと頷く。
その瞬間、仲間たちの表情が変わった。
曇っていた瞳に、再び光が宿る。
「見せてやろうぜ! オレ様達のチームワークを!」
郷夜がいつもの調子で笑い、拳を握る。
強がりではなく、今度は確かな決意があった。
「いいわね! やってみましょ」
流水もまた、前を見据えて力強く頷く。
「私も精一杯支援するわ」
リエラが胸を張る。
「力を合わせれば、きっと勝てます!」
癒水の声は優しいが、その中に揺るぎない信頼があった。
「皆さん……ありがとうございます」
怜花は深く頭を下げる。
その背中は、もう一人で抱え込む者のものではなかった。
「礼を言うのはまだ早いわよ」
流水が微笑む。
「具体的にどうするの?」
リエラが問いかける。
「俺に一つ作戦がある……皆、耳を貸してくれ」
次回『第69想 第三の試練後半 魔導ギア突破作戦――結束の刃』
チームで結束して見事魔導ギアを倒した燈也達。
強大な敵の圧力、狡猾な仕掛け……仲間の信頼と力を束ね、次なる試練へ挑む!




