第57想 チーム結成――それぞれの思惑(前編)
「チームか……めんどくせーな」
朝のざわめきが満ちる校舎の廊下で、燈也は小さく呟いた。
魔法試験――それもチーム制。
協力だの連携だの、正直気が重い。
「……あっ、燈也さん」
聞き慣れた声に振り返ると、そこには怜花が立っていた。
控えめに手を胸元で揃え、少し緊張した様子だ。
「怜花か。そういやお前、チームはもう決まったのか?」
何気なく尋ねると、彼女は一瞬視線を泳がせ、困ったように笑った。
「いえ……全然です。私、弱いですし……皆さんの足手纏いになっちゃいますから……あっ、はは……」
自嘲気味なその笑みに、燈也は小さく息を吐く。
「そっか……実は俺もまだ決まってないんだ」
一拍置いてから、続ける。
「良ければ、一緒に組むか?」
「……え?」
怜花は目を丸くし、信じられないといった様子で燈也を見上げた。
「ほ、本当によろしいんですか……?」
「ああ。お前が良ければな。気の合うヤツの方が、やりやすいから」
その言葉に、怜花の表情がぱっと明るくなる。
「ありがとうございます。よろしくお願いしますね」
「こっちこそ、よろしくな」
こうして、怜花がチームに加わった。
「さて……これで残りは三人か」
燈也は腕を組み、周囲を見回す。
「誰か良いヤツいないか……せめて、うるさくないといいんだが」
二人で廊下を歩きながら、目ぼしい生徒に声をかけていく。
「おーい。おーい」
「……すみません、私は特に……」
「おーい!!」
「怜花もか……まぁ、しょうがないか」
燈也は肩をすくめる。
「とりあえず、片っ端から当たってみるか」
その瞬間。
「二人とも無視しないでくれよぉぉ!!」
突如、背中に強い衝撃。
次の瞬間、何かが燈也にしがみついた。
「だあああ!! 分かったから! とりあえずくっつくのはやめろ!」
「郷夜さん……?」
怜花が声をかけると、郷夜は即座に切り替わり、爽やかな笑顔を浮かべた。
「やぁ怜花ちゃん。今日も綺麗だねぇ」
「……そういうのはいいから、本題を言えよ」
燈也が面倒くさそうに睨む。
「なああ~頼む!不知火!オレサマもチームに入れてくれよ!」
「おわっ! だからくっつくなって言ってんだろ!」
無理やり振りほどこうとするが、郷夜は離れない。
「頼むよぉ~!追試なんて絶対嫌なんだよぉ!」
切羽詰まったその声に、周囲の視線が集まり始める。
燈也は耐えきれず、こめかみに指を当てた。
「ああ……それでか」
事情を察し、深いため息をひとつ。
「悪いな。他のヤツ選ぶから」
はっきりと言い放つ。
「そんなぁ~!不知火!オレ様達、親友だろぉ?」
涙目で訴えてくる郷夜に、燈也は冷めた視線を向けた。
「いや。だってお前、弱いじゃん……それにうるせーし。他を当たってくれ」
容赦のない言葉だったが、それでも郷夜は引き下がらない。
「そ、そんな!頼むよ!オレ様にはお前しかいないんだ!」
燈也の腕にしがみつき、必死に食い下がる。
「人助けだと思ってさ! なあ……」
「……ったく」
これ以上拒めば、さらに面倒なことになる。
燈也は天井を仰ぎ、観念したように息を吐いた。
「分かったよ」
「不知火、恩に切るぜ!! 流石はオレ様の親友だぜ!」
ぱっと表情を輝かせ、勢いよく親指を立てる郷夜。
「いや、別に親友じゃねぇし……」
燈也は即座に否定し、睨みを利かせる。
「試験で足手纏いになるようだったら、見捨てるからな?」
「おう!ありがとうよ!!へへっ……大丈夫!タイ〇ニックに乗ったつもりでいてくれ!」
「……それ、余計不安になる例えだろ」
ぼそりと呟く燈也に、怜花が慌てて間に入る。
「だ、大丈夫ですよ。郷夜さんも……仲間なんですから」
その優しい言葉を聞いた瞬間、郷夜のテンションは一気に最高潮へ達した。
「やっほー!今日も元気?」
スキップしながら、次々と女子生徒に声をかけていく。
「……あれでも、か?」
遠い目で呟く燈也。
「た……多分」
怜花も苦笑しつつ頷いた。
「……とりあえず、これで三人だな」
燈也は頭を掻き、改めて状況を整理する。
「あと二人か……残りは、せめて静かな子が欲し――」
「コラァァ!!!! 風間ァァ!!!!!」
廊下に雷鳴のような怒声が響き渡った。
次の瞬間、――郷夜の体が宙を舞い、情けない悲鳴とともに床へと転がる。
「もう……すぐに騒ぎを起こすんだから!」
腕を組んで仁王立ちしているのは流水だった。
その背後には、呆れ顔の生徒たちと妹の癒水が集まっている。
「ぐへっ……」
床にうつ伏せになったまま、郷夜が情けない声を漏らす。
「流水姉、今日も流石だな」
燈也は半ば感心、半ば諦めたように呟いた。
「燈也、アンタはもうチームは決まったの?」
鋭い視線を向けられ、燈也は肩をすくめる。
「全員じゃないけどな……ここにいる怜花と俺、それと……そこの風間だ」
その名前を聞いた瞬間、流水の眉がぴくりと動いた。
「なっ! ちょっと、こんなヤツと組んでるの?」
「バカだし、今からでも考え直した方がいいわよ」
容赦のない言葉が、郷夜に突き刺さる。
「いや……俺も最初はそう思ってたんだが」
燈也は苦笑しながら後頭部を掻く。
「必死に頼み込まれてな……」
「もう、甘いんだから!」
流水は大きく息を吐き、呆れたように首を振る。
「……でも、そこがアンタの良い所でもあるのよね。」
周りに聞こえないぐらいの小さな声でそう付け足す。
「なら、アタシと癒水も一緒に入ってあげる」
その言葉に、場の空気が一変する。
「癒水も、それで良いでしょ?」
問いかけられた癒水は、控えめに頷いた。
「はい。私もまだ決まっていませんでしたし……」
「二人とも……ありがとう」
燈也は素直に礼を言った。
「決まりね」
流水は腕を組み直し、倒れたままの郷夜を一瞥する。
「風間がヘマしないように、アタシがしっかり見てるわ」
「ひっ……!」
郷夜の体が小さく震えた。
「私も戦闘は苦手ですが、回復ならお任せ下さい」
癒水が穏やかな笑みで続ける。
「お二人がいれば、心強いですね!」
怜花も嬉しそうに声を上げた。
「そうだな」
燈也は集まった仲間たちを見渡し、静かに、しかし力強く言う。
「皆で頑張ろう!」
こうして、魔法試験に挑むためのチームは――
少し騒がしく、だが確かな絆を持って、揃ったのだった。
次回 『第58想 チーム結成――それぞれの思惑(後編)』
「新たな仲間、帰還――!
魔法執行部に復帰したななみ、そして朱雀学院から戻った・鏡膤斗。
かつてのライバルも、支える友も、すべてがこのチームの力になる――。
揺れる想い、交錯する絆、胸を熱くする試験の幕開け。
彼らの覚悟が試される時が来た。




