第4想 Sランクを持つ者
「夜道は危ないからな、途中まで送るよ」
放課後の空はすでに濃い紺色へと沈み、通学路は昼とは違う静けさに包まれている。
怜花は肩にかかる髪を軽く押さえながら微笑んだ。
「ありがとうございます。……こうして歩くの、なんだか久しぶりですね」
二人が昔話に花を咲かせつつ、通学路を歩いていると少女の悲鳴が聞こえる。
「やっ……やめてください!」
ただの悲鳴ではない。助けを求める切迫した声だった。
「今の……」
怜花も険しい顔をし、燈也が頷く。
二人は周囲に気を配りながら、声のする路地へ慎重に近づく。
街灯の届かない薄暗い路地裏で見知らぬ少女が、十数人の男達に囲まれていた。
「……あれだな。」
男達は揃いも揃っていかにも素行が悪そうな連中ばかりだ。派手な柄のシャツに無数のピアス。
袖から覗くタトゥーは腕だけでなく身体中に入っている。
「へっ、いいじゃん。ちょっとくらい付き合えよ?」
ニヤニヤと笑いながら少女を取り囲み、行く手を塞ぐように路地に広がっている。
少女は必死に距離を取ろうと後ずさりし、肩をすくめて震えていた。
制服姿から見て、同じ学校の生徒だろう。
(くそ……人数が多すぎる)
怜花を連れて正面から突っ込むのは明らかに危険だ。
「あわわ…燈也さんどうしましょう?」
「少し落ち着け……」
燈也は小声で制しながら、路地の暗がりから状況を見据える。
「あの人数だ。下手に突っ込んでも、こっちがやられるだけ……今はチャンスを待つんだ。」
「で、でも……!」
焦りの表情を浮かべる怜花の肩にそっと手を置き、首を横に振った。
焦りは喉の奥までせり上がってくる。しかし考えなしに突っ込んで怜花を巻き込むわけにはいかない。
一方、チンピラ達は少女が首を縦に振らないことに若干の苛立ちを覚え始めていた。
「あ~もう……面倒くせーな。無理やり連れてくかぁ?」
ニワトリを思わせる赤いトサカのような髪型の派手な男が、舌打ちしながら他の男たちをけしかけた。
「これ以上騒がれたら厄介だし、さっさとヤっちまおうぜ!」
そう合いの手を入れたのは、小柄で目つきの悪い男。手には折り畳みナイフを弄ぶように持っている。
「決まりだな……」
ニワトリヘッドの男は舐め回すように少女を見ると唇をいやらしく舌で舐める。
「へへへ……たっぷり可愛がってやるぜ」
下卑びた笑みを浮かべながらニワトリヘッドの男が少女の手を乱暴に掴み上げる。
「きゃっ!離して!」
「やっぱり……待ってなんかいられません!」
怜花は堪えきれず、ぎゅっと拳を握りしめ路地へ飛び出した。
「おいっ! 待てよ!」
燈也の制止も耳に届かない。
「ったく……!」
燈也は舌打ちしながらもすぐに駆け出す。
怜花を一人で危険な場所へ行かせるわけにはいかない。
策はまだ固まっていないが、それでも行くしかなかった。
「さぁ……まずはどこ行くか?へへへ…夜は長いからな~……」
「―あのっ! そういうのは……良くないと思います!」
震えを押し殺し怜花がチンピラ達に向かって声を上げた。
その小さな肩は目に見えて震えている。
だがチンピラ達は怜花の勇気など毛ほども意に介さず、
舐めきった視線を向けるだけだった。
「なんだ……お前?こっちは忙しいんだ、邪魔すんじゃねえよ」
「おい、ちょっと待て……よく見たらコイツも結構可愛いじゃん、なんならお前も俺たちと遊んでくれや。へへへ……」
周りのチンピラは新しい獲物が来たとばかりに下卑た笑みを浮かべながら怜花を取り囲む。
まさにミイラ取りがミイラになってしまった状況だ。
スキンヘッドのチンピラの一人が怜花の手を無理やり掴む。
「へへ……もう一人ゲットだ!今日はツイてるぜ!上物の獲物が二人も手に入るなんてよッ!!」
「きゃ!離してー!!」
怜花が痛みに顔を歪めたその瞬間。
「……いいかげんにしろよ。お前ら」
燈也が一歩踏み込み、怜花の手首を掴んでいるスキンヘッドの腕をがっちりと掴む。
「はぁ?誰だてめぇは?」
「嫌がってるだろ?その汚い手を離せ。」
返答を待つ気などない。
燈也はスキンヘッドの腕をひねり上げ骨がきしむ鈍い音が響いた。
「ぎッ……いでででッ!! や、やめろ!!」
腕を押さえてうずくまる隙に怜花は解放される。だが燈也は止まらない。
「っ……!」
次の瞬間、少女の肩を掴んでいたニワトリヘッドの顔面に拳が吸い込まれた。
殴られた男は目をひんむいたまま後方へ吹き飛び、少女は無事に解放される。
「ったく……!無茶しやがって!」
怜花と先程の少女を庇うような態勢で前に立つ燈也をチンピラ達が取り囲む。
「おめぇら、絶対に逃がすんじゃねぇぞ!」
まるで獲物を囲んだハイエナの群れのように、十数人の影がじわじわと距離を詰めてくる。
「てめぇ……良くもやりやがったな!」
さきほど殴られた男が血走った目をむき出しながら前へ出る。
口元からは血を流し、怒りで顔が歪んでいた。
「悪いことは言わない。大人しく立ち去れ」
「女の前だからってカッコつけてんじゃねぇぞ!!クソガキがァ!!!」
怒号が路地に響き渡る。チンピラ達の殺気が肌を刺すように伝わる。
(……まぁ、分かってたけどな。簡単には引き下がるわけねぇか)
「この俺の必殺の魔法で跡形もなくぶっ飛ばしてやる!!!」
男の手に魔力が集まり、紫色の光が膨れ上がっていく。
燈也は一歩前へ出て、二人を庇うように腕を広げた。
「……二人とも下がってろ」
『深淵よ、我が魂の誓約に応えよ。漆黒を凝縮し、影を纏いし断罪の槍となれ。我が敵を穿ち、闇の名のもとに滅し去れ!』
≪中級闇魔法 血塗られた魔槍!!≫
異空間より現れた無数の漆黒の槍が主人公達に向かって一斉に降り注ぐ。地面は割れ舞い上がった砂埃と瓦礫の破片が視界を覆い隠す。
「ハハハッ!!!!どうだ?このBランカー、雄大様の魔法の味はよォ!?」
チンピラは自分の勝利を確信し余裕の笑みを浮かべている。だが砂埃が晴れるとそこには無傷で立つ燈也達の姿があった。
放たれた漆黒の槍は、燈也たちへと降り注ぐ寸前——
まるで初めから存在しなかったかのように、一つ残さず残さず霧散した。
砕け散る気配すらない。ただ大地に刻まれた破壊の痕跡だけが、つい先ほど確かに攻撃が放たれたことを物語っている。
それこそが、不知火燈也の魔法——
“魔法そのものを消す” という特別な力。
それは防御の概念に収まるものではない。
あらゆる魔法の因果を断ち切り、術式を根こそぎ消滅させる絶対の否定。
魔法社会において最も忌避され恐れられており、
魔法使いにとって“天敵”と呼ぶにふさわしい魔法なのである。
「なんて凄い魔法なの……」
「二人とも、ケガはなさそうだな」
次回 『第5想 柊ななみと主人公を不穏な影』
不良達を圧倒的な力で追い払った主人公に感謝の言葉で答えるのは、
笑顔が弾ける明るい少女――柊ななみ。
だがその様子を見つめる不穏な影が主人公に興味を持つ。この人物の正体は?




