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Himeyuri ―魔法嫌いの元学園最強と、幼馴染の約束から始まる魔法学園譚ー  作者: 小鳥遊 千夜
第一章 幽霊少女編

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第44想 夢の最後まで 

 

 中庭を出て、燈也は無意識に拳を握り締めていた。

 踏みしめる地面の感触すら、どこか現実味が薄い。


「……くそ、これは一体……」


 吐き捨てるように(つぶや)いた声が、やけに乾いて聞こえた。


(あの様子……嘘をついているようには思えなかった)


 雄介も、愛紗も。

 本気で“分からない”という顔をしていた。


(そのうえ、見なくなるだけじゃない……)


 ポスターも、写真も。

 消えているのは“姿”だけじゃない。


(これじゃあ……まるで……)


 言葉にしようとした瞬間、背後から声が重なった。


「――『()()()()()()()()()』、かな?」


 ぞくり、と背筋(せすじ)が冷える。


 振り返るまでもなかった。

 その声の主を、燈也は知っている。



 いつの間にか背後に立っていたのは、魔法教師のセレナだった。


「先生……」


 燈也は低く、押し殺した声で言う。

「あんたは、こうなるって……知ってたんだな」


 問いというより、確認だった。


「ふふふ……」


 セレナは口元に薄く笑みを浮かべる。


「だから言ったでしょ? 後悔すると……」


 燈也の胸を焼く焦燥(しょうそう)とは対照的に、彼女は驚くほど落ち着いていた。


「そっ……それは……」


 反論しようとして、言葉が喉で詰まる。

 何をどう言えばいいのか分からなかった。


「あなたの覚悟は……その程度だったのかな?」


 試すような声。

 責めるでもなく、ただ事実を突きつけるだけの冷たい言葉。


「……なんだと」

 燈也は歯を食いしばり、セレナに詰め寄った。

 焦りと、理由の分からない怒りが、胸の内で爆発しそうになる。


(ひいらぎ)ななと、私達とは……」


 セレナは一歩も退かず、淡々と語り始める。


「本来、交わってはいけなかった存在なの」


 その声は、残酷なほど静かだった。


「それが、何の因果からか関わってしまった……ただ、それだけ」


 燈也の視線を真正面から受け止めたまま、続ける。


「でもね、間違った節理(せつり)は正されるのが道理……」


「人間には到底(あらが)えない――()()なの。」


 その言葉は、宣告(せんこく)だった。


「……だから」


 燈也の声が震える。

「ななのことを……忘れろって言うのかよ?」


 怒りが限界に達し、燈也はセレナに(つか)みかかった。


 ――だが。


 指先に触れたはずの感触は、霧のようにすり抜けた。


「っ……!?」


 まるで雲を掴んだかのように、何の抵抗もなく体勢を崩し、燈也は地面に叩きつけられる。


「その方が良いでしょうね。」


 セレナは倒れた燈也の横に(かが)み込み、(ささや)くように言った。


「これから、更に……ななに関する記憶は消えていく」


 笑みを含んだ声が、耳元で響く。


「そして最後には、何も残らない」


 燈也の視界が、わずかに揺れた。


「……まるで」


 セレナは、楽しむように言葉を区切る。


「最初から、何もなかったみたいに……ね」


「……ちくしょ……」


 燈也は地面に拳を叩きつけた。

 土の感触が、やけに冷たい。


「なんとか……ならないのかよ……」


 地面に伏したまま、(しぼ)り出すように呟く。


「……ムリよ」


 セレナはそう告げると、ゆっくりと視線を伏せた。


 その仕草一つで、燈也の胸に冷たい現実が突き刺さる。


「魔法でも、奇跡でも……何でもいいんだ!」


 燈也は思わず一歩前へ出ていた。

 声が震えているのも、必死になっているのも、自分で分かる。


「知っているなら教えてくれ……頼む!」


 縋るような叫び。

 

 だが、セレナは首を振らない。

 ただ、静かに言葉を重ねる。


「分かってるんでしょ?」


 (さと)すようでいて、逃げ道を塞ぐ声音。


「魔法でも……世界の節理を変えるのは簡単じゃない」


 そして、わざとらしく言葉を区切る。


「第一……あなた、魔法嫌いだったでしょう?」


「……それは……」


 反射的に返そうとした言葉が、喉で止まった。



 セレナはそんな燈也の内心を見透(みす)かしたように、続ける。


「それにね……」


 伏せたままの瞳が、どこか哀しげに揺れる。


「奇跡は、起きないから奇跡と呼ぶんだよ……」


 淡々と、しかし残酷な真実を。


「残念だけど……学生のあなた一人の力では、奇跡は起こせない」


 最後に、静かに告げる。


「……諦めなさい」


 その言葉は、優しさを装った断罪だった。


 中庭に、重たい沈黙が落ちる。

 風の音だけが、やけに大きく響いた。


 やがて――


「……いやだ」


 低く、しかしはっきりと。

 燈也が口を開いた。


 拳を、強く握り締める。


「約束したんだ」


 誰に、とは言わない。

 だが、その名前を胸に刻んでいることだけは確かだった。


「それに……」


 顔を上げた燈也の瞳は、まだ(くも)っていない。


「あいつらが……諦めていないのに」


「俺だけが、諦めるわけにはいかないんだ」


 言葉を選びながらも、想いは真っ直ぐだった。


「可能性が……少しでもあるなら……」


 一瞬、迷いがよぎる。

 それでも、次の瞬間には決意へと変わった。


「いや……」

 

 燈也は、はっきりと言い切る。

「可能性が無かったとしても……俺は足掻(あが)いてみせる!」


 解決策は見えない。

 道も、正解も分からない。


 それでも――

 その目の奥には、確かな光が宿っていた。


「……ふふふ」


 セレナは、そんな燈也を見て、微かに笑う。


「なら……最後まで、頑張りなさい」


 どこか満足そうに。


「……()()()()()()


 その言葉を残し、セレナは微笑んだ。


 次の瞬間。

 彼女の姿は、最初から存在していなかったかのように、空気へ溶ける。


(――方法は、きっとある)


 燈也は、消えた空間を(にら)みつける。


(俺が……絶対に見つけてやる)


 拳を、もう一度、強く握り締めた。


 世界がどれほど冷酷でも。

 忘却(ぼうきゃく)が運命だとしても。


 彼の意志だけは、まだ消えていなかった。





次回 『第45想 死者を呼ぶ禁忌――代償と覚悟の夜』


禁じられた魔法――蘇生術。

人が踏み込んではならない領域。


“魂を呼び戻す”その時、誰が生き、誰が失われるのか。

世界の節理に抗う少年の決意は、奇跡を起こせるのか――?

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