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Himeyuri ―魔法嫌いの元学園最強と、幼馴染の約束から始まる魔法学園譚ー  作者: 小鳥遊 千夜
第一章 幽霊少女編

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第39想 旧校舎の旋律――見えぬ想い、すれ違う心


 夕焼けが紫へと溶けていく次の日の放課後。

 校門へ続く道を、燈也・怜花・ななの三人は談笑しながら歩いていた。

 しかし、その空気を断ち切るように――


「上手くいってるみたいね」

 石畳(いしだたみ)の影から、唐突(とうとつ)に女の声が響いた。


「立花先生……!?」


 先に反応したのは怜花だった。

 いつの間にか、セレナが三人の帰り道をふさぐように立っていた。

 夕暮れの光が桃色と紫のツートンの髪を照らし、妖しい光を帯びている。


「あんたは……。俺達になんの用だ?」


 燈也が一歩前に出る。

 ななを庇うように、肩で風を切る気迫(きはく)をまとって。


「まあ……ちょっと聞きたいことがあってね」


 セレナはわざとらしく肩をすくめた。

 その目は笑っているが、奥に冷たい光が潜んでいる。


「二人はどうして、会ったばかりのその子のためにそんな一生懸命なの?

 何のメリットもないと思うけど……」


 声は柔らかく、しかし刃のような鋭さがあった。

 ななはびくりと肩を震わせ、燈也の袖をそっと掴む。


「別に……損得だけがすべてじゃねぇだろ?」


 燈也は動じず、きっぱりと言い返した。


「そうです! それに友達を助けるのに理由なんて必要ないと思います!」


 怜花もななの前へ出て、強く宣言する。

 

「ふふ……泣かせてくれる話ね」


 セレナは唇に指を当て、まるで予想通りと言わんばかりに笑う。

 けれど次の瞬間、その笑みは影を帯びた。


「――だが、厄介事に首を突っ込むのは程々にしておいた方がいいと思うな」


 低い声に、空気が一変する。

 さっきまでの柔らかさが嘘のように、周囲の温度さえ下がる気がした。


「余計なお世話だ。俺達は自分のやりたいようにやる」


 燈也はその威圧を跳ね返すように、真っ直ぐ睨み返す。


「……後悔することになるとしても?」


 セレナの瞳が細められる。

 まるで、未来のどこかをすでに見てきた者のような、底の見えない視線。


「そんなのやってみないとわからないだろ!

 それに、例え後悔するとしても……やらずに後悔するよりはずっといい!」


 燈也は声を荒げながらも、怯えるななに一瞬だけ優しい目を向けた。

 その一瞬に、セレナの目がわずかに揺れる。


「私もそう思います!

 ここで諦めるなんて……出来ませんから!」


 怜花も胸に手を当て、強く強く言葉を重ねた。


 セレナはそんな二人をしばらく見つめ……小さく息を吐く。


「……なるほど。

 それが、キミ達の“()()”というわけか」


 人を試すような、教師というより観察者の目。

 そして――ゆっくりと、言葉を落とす。


「旧校舎の音楽室に行ってみなさい。

 ――運命を知る勇気があるならね」


 その言葉が空気を震わせた直後、セレナの身体が淡い魔法光に溶けるように消えた。


「運命……だと……?」


 セレナが消えた暗がりを見つめながら、燈也は拳を握りしめる。

 ななは不安げに怜花の袖を掴み、怜花はそっとその手を握り返す。


「どういうことでしょうか……?」

 怜花は眉を寄せ、不安を隠しきれず呟く。

 旧校舎の音楽室――その言葉に心当たりはない。けれど、ただの好奇心ではない何かを感じていた。


「分からない」

 燈也は小さく息を吐き、風を切るように前を見る。

「だが……行くしかないだろ」


 決意は重くも清々しく。

 答えのない闇の方へ、それでも歩みを止めない強さが滲んでいた。


「ななは……」

 ふと横を見ると、ななは小さく唇をかみしめていた。


 燈也は優しく、しかし逃げ道を与えない声で言う。

「お前も来い。逃げてばかりじゃ前には進めないんだ」


「でも……」

 ななが揺れる瞳で答える。

 小さな肩が震えていた。


 その隣に怜花がすっと立つ。

「私達が一緒にいます」


 まるで光を灯すような穏やかな声だった。

「絶対に一人にはさせませんから……」


 ななの瞳に映った迷いが、少しずつ溶けていく。


「……分かったのだ」

 小さな声で、それでも確かな意志を込めて頷く。


 風が三人の前髪をそっと揺らす。

 未知の“運命”が待つ旧校舎へ――彼らは歩き始めた。


 ***


 旧校舎の奥へ進むにつれ、空気が目に見えて変わっていく。

 時間から切り離されたような静寂――その中に、かすかに混じる音。


 ――ポロン……ポロン……


「……これは……」

 燈也が足を止め、耳を澄ませた。


「ピアノの音?」

 怜花も同時に気づき、思わず声を落とす。


 鍵盤(けんばん)を叩く澄んだ旋律。

 古びた校舎には不釣(ふつ)り合いなほど、丁寧で、どこか懐かしい音色だった。


「でも……ここ、今は使われていないはずですが……」

 怜花は不安そうに周囲を見回す。


 答えは返ってこない。

 ただ、音だけが彼らを奥へ、奥へと誘っていく。


「……入るぞ」

 燈也は短く言い、音楽室の扉に手をかけた。


 ――ギィ……。


 重たい音を立てて扉が開く。


 埃の匂い、薄暗い室内。

 月明かりに照らされる古いグランドピアノの前に、一人の少女が座っていた。


 長いウェーブのかかった桃色の髪。

 指先で鍵盤を撫でるように弾くその姿。


「……っ!」


 ななが息を呑む。


「……お姉ちゃん!?」


 その声に、燈也と怜花もはっきりと彼女の顔を認識する。


「えっ……こいつが!?」

 燈也は思わず声を上げた。


 ――柊ななみ。


(ななみが……ななの、仲直りしたい相手だったのか……)

(だったら話は早い。ここで二人が話して、仲直りすれば……)


 そう思いかけた、その瞬間。


「……あっ」

 ピアノを弾いていたななみが、こちらに気づいたように顔を上げた。


 そして、にこりと柔らかく笑う。


「ともくんに、れいちゃん。

 集中してたから、()()が来たことに気づかなかったよ」


 ピアノ椅子から立ち上がり、ゆっくりこちらへ歩いてくる。


「…………えっ……二人?」


 その言葉に、燈也の背筋が凍りついた。


(待て……)

(“二人”……?)


 無意識に、燈也は横を見る。


 そこには、確かになながいる。

 少し怯えた顔で、震える手を握りしめながら――。


 だが。


 ななみの視線は、一度もななを捉えていなかった。


(……どういうことだ……)

(まさか……)


 燈也の胸に、嫌な予感がじわじわと広がっていく。


 ――ななが、見えていない。


 静かな音楽室に、言葉にならない違和感だけが残されていた。








次回 『第40想 揺れる哀歌』


ライブ本番まで残された時間は、あとわずか。

そんな中、セレナ先生から、ななの“真実”に迫る重要なヒントが与えられる。


導かれるように辿り着いた場所で、燈也たちはななの姉と再会する。

だが――姉の瞳に、ななの姿は映っていなかった。


届かない想い、すれ違う姉妹。

残された時間の中で、彼らは奇跡を起こすことができるのか。





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