第37想 友を守る一歩が笑顔と絆を紡ぐ友情曲
騒ぎの幕が完全に閉じると、燈也は肩の力を抜き、やれやれと手を後頭部にやる。
「ふう……ヒヤヒヤさせやがって。気を取り直して練習するぞ」
「なのだ!」
ななもすぐに笑顔を取り戻し、元気よく返事をする。
そこへ、凛とした声が響いた。
「先程は見事だったぞ、なな」
白金凛が静かに歩み寄ってくる。ポニーテールの長い髪が揺れ、風紀委員長としての威厳が自然と滲む。
「アンタは白金……見ていたのか」
「ああ。もっとも、騒ぎを聞き駆けつけたときにはほとんど終わっていたが……
先生相手に堂々としていたな。風紀委員として礼を言いたい」
凛は深々と頭を下げた。
「て、照れるのだ……」
ななは頬を赤らめ、もじもじと視線を泳がせる。
「我々風紀委員も応援している。ライブ、頑張ってくれ」
「ありがとうなのだ!」
ななの声は弾んでいた。
「それと──」
白金は小さく微笑む。
「風紀委員は、君のような勇気ある者をいつでも歓迎している。興味があれば待っているぞ」
そう言い残し、さっそうと去っていく凛。
残された燈也は、ぽん、とななの頭に手を置き、優しく笑った。
「良かったな、なな」
「……うん、なのだ!」
嬉しさが隠しきれない声で、ななは胸を張る。
放課後の廊下に、部活帰りの喧騒と夕日が混じり合っていた。
燈也とななはライブ練習へ向かうため、音楽室の方へ歩いていたが──
「あの野郎……また遊んでやがるな」
燈也が呆れた声を漏らす。
「……どうだい? ハニー達、これからオレサマとデートでも……?」
悪友の郷夜が相も変わらずチャラついた笑顔を振りまいていた。女子たちは困惑しつつも、やや引き気味に距離を取る。
「ビビビッ!!」
その瞬間、小さな影が飛び出し、郷夜の足首にガブッと噛みついた。ビビデバビルだ。
「えっ……!? うぎゃあああああああああっ!!」
郷夜はその場で飛び跳ね、廊下に響くほどの悲鳴を上げて暴れる。
「ハァ……ハァ……こいつ……またやりやがったな……!」
ようやくビビデバビルを引き剥がし、郷夜は荒い息を吐きながら捕まえた。
「ビビー!?」
「 ビビちゃんを返すのだ!」
ななが慌てて走ってくる。
「うるせえ! こうしてやるぜ!」
郷夜がビビデバビルを投げ捨てようと腕を振りかぶった──そのとき。
「行くぞ!突撃だぁぁぁ!!」
廊下の奥から、旗とメガホンを持った生徒の集団が“ドドドッ”という効果音が似合う勢いで迫ってきた。
「ええ!!? う、うわああああああッ!!」
郷夜はその迫力に完全に飲まれ、固まる間もなく生徒たちの波にのまれる。
「ななちゃんを守れーーーー!!」
「ぶっ……ぶぎゃあああああああああ!!」
郷夜は想像以上のパワーで吹っ飛ばされ、廊下の端まで転がっていった。
なながビックリして目を丸くしていると、一人のメガネをかけた男子生徒が前に出てきた。
「怪我はありませんか?」
「お、お前達は?」
ななの問いに、彼らは一斉に胸を張って叫んだ。
「ボク達は──ななちゃん親衛隊!!」
生徒たちはみなピンクの法被を羽織り、鉢巻には“なな推し”の文字。
統一感のある異様な光景に、燈也は思わず後ずさる。
「親衛隊……?」
なながぽつりとつぶやく。
「ボク達、ななちゃんの頑張る姿に深く感動しました!!」
ぽっちゃりした男子生徒が涙目になりながら語る。
「まぁ、そういうわけだ」
その後ろから、見覚えのある二人が姿を現した。
「お前らは……魔法執行部の、日向と如月?」
雄介は頭を掻きながら、バツが悪そうに笑う。
「いや〜……お前たちの練習姿を見てたら、好きになっちまってな……」
照れ隠しのように視線をそらす。
「あ、あの……愛紗も応援してます。頑張ってください」
愛紗は少し恥ずかしそうに笑い、ななの手をぎゅっと握る。
「部長には秘密だからな?」
雄介がいたずらっぽいウィンクを投げる。
「俺達はお前らの味方だ! ライブが上手くいくように全力で応援するぜ!!」
ファンクラブメンバーたちも声を揃えて笑顔を向ける。
「良かったな、なな」
燈也が柔らかく声をかける。
「ありがとうなのだ!!」
ななは嬉しさで身体ごと弾んでいた。
そして、廊下の隅からかすかな声が。
「……あの〜? オレ様も……メンバーなんですけど……」
さっき吹っ飛ばされた郷夜が、倒れたまま手を震わせながら呟いている。
誰からも気づかれず、哀愁だけが漂っていた。
──一方その頃。
離れた場所にある魔法執行部室では、コウモリ型の通信機がその光景を静かに映し出していた。
「……いいのか? 帝亜」
映像を覗き込みながら、英明が問う。
「……好きにやらせておけばいいわ」
帝亜は背中を向けたまま、腕を組んで答えた。
次回予告 『第38想 二人の共鳴曲』
練習も終盤を迎え、ななたちのひたむきな姿は、ついに帝亜たちの心を動かす。
反対されていたライブは、静かに認められていった。
だが、怜花には何やら迷いを感じていた。




