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Himeyuri ―魔法を嫌う元学園最強の主人公ー  作者: 小鳥遊 千夜
第一章 幽霊少女編

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第29話 問題発生――虹のカケラ 前編

 

 陽光(ようこう)がゆるく差し込む教室。

 そこへ、カッカッカと下駄(げた)を鳴らしながら

 天狐(てんこ)神奈(かんな)先生がやって来た。


「今日は16年前の第二次魔法大戦についての授業じゃ」


 いつも通り古風な口調で時折4本の尻尾をゆらしながら黒板に図を描いていく。


「わっち達が住む王国『ルーンレイア』は小さい国ながら、精霊と魔法によって豊かで平和な日々を過ごしておった。しかし東の強国である帝国軍が魔王軍と組んだことにより戦火に巻き込まれてしまうのじゃ」


 教室の空気が少しだけ重くなる。

 皆、魔法大戦の話は知っている。けれど、神奈先生の語り口はどこか生々しくて、耳を傾けずにはいられなかった。


「この戦いは更にエルフや人魚、竜、天使といった種族までも巻き込む前代未聞の大きな戦いじゃった」


 窓の外の風さえ止まったような静けさ。

 …ただし、ひとりを除いて。


(おっ、レア装備じゃねえか…!)

 燈也(ともや)は机の下でこっそりゲーム。完全に授業の内容が頭に入っていない。


「圧倒的な軍事力と科学の力を持つ帝国連合軍は破竹(はちく)の勢いで次々と国を滅ぼし、王国もまた窮地(きゅうち)に追い込まれていった。」


 神奈がチラ、と視線を流したとき——

(よし!必殺スキル発動ッ!)

 ゲーム機を激しく連打する。


「この絶体絶命(ぜったいぜつめい)の状況下で王国を勝利に導いた者達を――“七英雄(ななえいゆう)”と呼び…っと、何を遊んでおるのじゃ!!不知火!!」


「うぉっ!?——あちちちっ!!」


 バシュッ!!!


 机の下から赤い狐火(きつねび)が勢いよく()き上がり、

 燈也は慌てて椅子ごとひっくり返った。


「まったく…おぬしときたら……。授業中くらい真面目に聞かんか」


 神奈は深くため息をつく。

 狐の尻尾が呆れを体現するように、ふにゃりと()れた。


 ちょうどそのとき——チャイムの鐘が鳴る。


「おや……?そろそろ時間じゃの。今日はここまでじゃ」


 先生は4本の尻尾を優雅に振りながら教室をあとにした。


 ***


 中庭。

 木漏(こも)れ日の中、燈也はベンチに倒れこむように座る。


「くそ~ひどい目に遭ったぜ…あの狐ババア……」


「もう!授業中にゲームなんてしてるからでしょ!」

 リエラが腰に手を当てて叱る。


「だってよー、歴史の話とか眠くなんだよなぁ…」


「言い訳しない!」


 その横で、なながケタケタ笑いながら跳ねる。


「燈也は子供なのだ~」


「うるせ!お前にだけは言われたくねーよ!」


「なんだとー!?」


 ななは頬を膨らませ、ちっちゃな体で精一杯威嚇(いかく)してくるのがなんとも愛らしい。


 そんな騒ぎの最中、リエラがふと耳をそばだてた。


「ねぇちょっと待って。なんか向こうが騒がしくない?」


 三人が顔を向けると、校舎の奥のほうから人だかりとざわめきが聞こえる。


(…なんだ?嫌な予感がする)



 校舎の奥——魔法実験室前。

 普段は静かなこの場所が、今日は異様なほど騒がしい。


「きゃあああ!」「やめろおお!」


 生徒たちが雪崩(ゆきなだれ)のように廊下へ飛び出し、右往左往(うおうさおう)していた。

 その中心で白衣姿の少女——如月愛紗(きさらぎあいしゃ)が半泣きになりながら走り回っていた。


「わわわわわっ、大変、大変です!! 本当に想定外の事態なんですーーーっ!!」


 いつもは冷静な彼女が、ツインテールを振り乱し悲鳴を上げている。


「おい、どうなってんだあれ…」

 燈也が眉を寄せて近づこうとすると——


「うわー助けてくれ!!」


 実験室の扉をぶち破り、獣型のモンスターが何十体と姿を現した。

 赤い目を光らせ、地面を爪で引っかきながら生徒を追い回している。


「モ、モンスターがいっぱいなのだっ!?」

 ななが燈也の腕にしがみついた。


 リエラが険しい表情で前に出る。

「どうするの?このままじゃ怪我人が出るわ」


「厄介事はごめんなんだがな……」

 燈也はため息をつきながらも、前に歩き出した。


 それは、彼が結局いつも人を見捨てられない性分だからだ。


「グルルル……」


 一体のモンスターが怯える女子生徒を角へ追い詰め、牙をむいた。


「きゃああああ!!」


 次の瞬間——

 ズバァッ!!


 燈也の魔法で強化された蹴りがモンスターの側頭部(そくとうぶ)炸裂(さくれつ)し、壁へ叩きつけた。


「大丈夫か?」


「は、はいっ……!ありがとうございます……!」


 女子生徒は涙ぐんでお礼を言った。


 だがモンスターは息をつく間もなく、次々に実験室から湧き出してくる。


「くそっ……増えてきやがった……!」


「仕方ないな…」

 燈也は振り返り、二人に言った。


「お前らは下がってろ。危ねぇから」


「ななも戦えるのだ!」

 胸を張って答える。



「この数は一人じゃ危ないわ。皆で力を合わせましょう」

 リエラも魔導書を構え、燈也の隣へ。


 燈也は小さく笑った。

「……しょうがねえな。けど無茶だけはすんなよ」


 三人は息を合わせて前へ出た。


強化魔法(マジック・ブースト)


 燈也の周りに淡い青の光が集まり、筋肉の感覚が一段階跳ね上がる。

 身体が軽くなり、視界が鮮明になる。


「行くぞ……!」

 強化された蹴りと拳でモンスターを()ぎ払う。


『照らせ!』

≪初級光魔法 ルクス!≫

 なながひらりと手を振ると、指先から光の矢が連射されモンスターの足を貫いた。


『揺るぎなき誓いよ、雷光(らいこう)となって降り注げ。

 我が前に聖域を築き、悪しきものを退けよ。!』

幻雷の聖盾(ファントム・ヴェール)

 リエラの前に巨大な盾が生まれ、突っ込んできたモンスターを一気にはじき飛ばす。


 三人の攻撃がリズムのように交互に重なる。


「よし……雑魚は大体倒せたな」

 燈也がモンスターを殴り飛ばしながら息を整える。


「後は……あれだけね」


 リエラの視線の先。

 黒い瘴気(しょうき)をまとった、教室の天井に届くほど巨大な獣——

 おそらく実験の“核”となったボスモンスターがゆっくり姿を現した。


「ええいっ!!いくわよ!」


 リエラが魔導書を構え叫ぶ。


『祈りは光、誓いは刃。

 私の願いよ、その姿を槍として結べ。穿て――!』

神魔の(ディヴァイン・)幻槍(ミラージュスピア)

 光と雷が融合した巨大な槍が発現し、一直線にモンスターへ突き刺さる。


「行くのだぁっ!!白金(しろがね)先輩直伝…」

 ななは小さな体で地を蹴り、拳に光を集める。


≪白金流格闘術 伊吹(いぶき)!!≫

 光の爆発を伴う打撃がモンスターの腹をえぐった。


「トドメだっ……≪魔斬(マギ・ブレイク)≫!!」


 燈也が両手で魔力の刃を作り、一気に斬り上げる。『夢幻の断斬(マギア・ブレイカ―)』の簡易版だがその威力は十分だ。黒い巨体が悲鳴を上げて崩れ落ちた。


「やったわね!」

 リエラがほっと息をつく。


「これが修行の成果なのだ!!」

 ななが胸を張ってピョンと跳ねる。


「白金の技か……。流石、良い技だ」

 燈也が少し笑い返す。


「えっへん!なのだ!」

 ななのドヤ顔。可愛さで場の空気が緩む。


「さて、引き上げるかな」


 そう言って背を向けた——その瞬間。


「気を付けて!まだ終わっていないわ!」

 リエラの叫び。


 振り返ると、倒れたモンスターたちの黒い体が溶け合い、

 粘りつくような胎動(たいどう)をしながら巨大な異形へと合体を始める。


「こいつら……合体しやがった……」


 そして、新たな巨体の触手がうねり——


「ななぁ!!避けろ!!」

 燈也が叫ぶ。


 だが一瞬遅かった。


 《ズバッ!!》


 触手の渦がななの小さな体を吸い込むように巻き取ろうとする。


「燈也くん!!」

 リエラが手を伸ばす。


「くそっ……! うわああああっ!!」


 燈也とリエラも、ななを助けようと同時に飛び込んだ——

 だがその瞬間、怪物の中心に開いた渦のような歪みが三人を飲み込んでいく。


 残されたのは、破壊された廊下と、呆然(ぼうぜん)と立ち尽くす愛紗だけだった。





次回 『第30想 問題発生――虹のカケラ 後編』


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