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Himeyuri ―魔法嫌いの元学園最強と、幼馴染の約束から始まる魔法学園譚ー  作者: 小鳥遊 千夜
第二章 魔法試験編

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第30想 魔法試験開幕、そして影

前回までのあらすじ


魔法嫌いな元・学園最強――不知火燈也。魔法執行部に渋々加入した彼は、幽霊調査の任務で未練を抱えた少女・ななと出会う。


彼女の願いを叶えるため、燈也は仲間たちと共に“バンド”を結成し、ライブという挑戦に踏み出す。


衝突、挫折、そして失われていく記憶――


それでも想いは消えず、歌は奇跡を起こした。


次に待ち受けるのは、学園最大の試練――魔法試験。

燈也達の挑戦が始まった。

 

 魔法試験会場


 広大な試験会場には、すでに多くの生徒たちが集まっていた。

 緊張と期待が入り混じったざわめきが、空気を(ふる)わせている。


「いよいよ……試験当日、か」


 燈也(ともや)が周囲を見渡しながら、静かに(つぶや)いた。


「見て。向こうに風紀委員と、生徒会の人たちもいるわ!」


 リエラが指さす先には、凛とした空気を(まと)う風紀委員たちと、威厳ある生徒会メンバーの姿があった。


「それだけじゃねえぞ」


 郷夜(ごうや)が目を細め、さらに奥を指さす。


「あれを見ろ。理事長まで来てやがる」


「……マジか」


 燈也が思わず声を低くする。


「いつ見ても美しいぜ……」


 郷夜は完全に試験のことを忘れたように、うっとりと見惚(みほ)れていた。


「鼻の下、伸びすぎよ」


 流水(るみ)(あき)れたように腕を組む。


「ふふっ…相変わらずね、あなた達」


 不意にかけられた声に、燈也たちは振り返る。


 そこに立っていたのは、魔法執行部部長――帝亜(てぃあ)だった。

 余裕のある微笑みと(たたず)まいは、この場においても一際(ひときわ)目を引く。


「魔法執行部か……それに」


 燈也が視線をずらした、その先。


「やっほー、ともくん、れいちゃん!」


 明るい声とともに手を振る少女――(ひいらぎ)ななみの姿があった。


「うおおお!!」


 郷夜が叫ぶ。


「学園のアイドルだ!!いつ見てもすげぇな!」


「……落ち着け」


 燈也がため息混じりに言う。


「そっか。お前も執行部だったな」


「うん。今日はライバル、だね」


 ななみはそう言って、柔らかく微笑んだ。


「お互い、頑張ろうね」


「ああ」


 短く返す燈也の言葉には、自然と力がこもる。


「ふふ……それじゃあ、また後で」


 帝亜が(きびす)を返しながら振り返る。


「お互い、ベストを尽くしましょう」


 そう言い残し、魔法執行部の面々は人波の中へと消えていった。


 試験開始の時刻が迫る。


「――コホン」


 乾いた咳払(せきばら)いが、ざわついていた会場の空気を切り裂いた。


「諸君。どうやら全員集まっているようだな」


 魔法教師――ドライツェンが一歩前に出て、鋭い視線で生徒たちを見渡す。


「これより、理事長より挨拶がある。心して聞くように」


 その言葉を合図に、会場の視線が一斉に中央へと集まった。


「皆さん」


 静かでありながら、不思議とよく通る声。


「理事長のレイリアスです。今日は、皆さんが日頃積み重ねてきた成果を、存分に見せてください」


 壇上(だんじょう)に立つレイリアスは、竜人(ドラゴネイド)と呼ばれる希少な種族。

 青銀(せいぎん)色の長髪が風に揺れ、その姿はどこか神話の存在を思わせるほど神々しかった。

 圧倒的な存在感に、思わず息を呑む生徒も少なくない。


「では……次に、神奈主任から試験内容の説明がある。」


 ドライツェンの言葉に応じ、一人の女性が前へと進み出る。


 金色(こんじき)の四本の尻尾を持つ天狐(てんこ)――神奈(かんな)

 その尾は柔らかく揺れ、レイリアスに劣らぬ美しさを放っていた。


「今回の魔法試験は、前半のチーム戦と、後半の個人戦に分かれておる」


 ざわ、と小さな緊張が走る。


「評価は両方を踏まえて決定される。故に――最後まで諦めず、全力を尽くすのじゃ」


 神奈は軽く頷くと、手元の魔導装置を操作した。


「さて、まずはチーム戦じゃが……おぬしらには、この先にあるダンジョンに挑戦してもらう」


 会場後方の巨大なゲートが、重低音を立てて開く。


「このダンジョンの最奥にあるゴールの門を潜るまでが、試験内容となる」


「へへ、余裕だぜ」


 郷夜が気楽に笑う。


 だが――


「無論…」


 神奈は口元に、楽しそうな笑みを浮かべた。


「ダンジョン内には、各教師陣が作った試練が待ち受けておる。十分に注意することじゃな」


 その一言に、空気が一変する。


「ま……マジかよ……」


 さっきまでの余裕はどこへやら。

 郷夜の顔は、見る見るうちに青ざめていった。


「それでは――」


 神奈が一歩前に出る。


「これより、魔法試験を開始する。準備が整ったチームから、順に進むがよい」


 合図と同時に、生徒たちがそれぞれのチームで動き出す。

 緊張、不安、闘志――様々な感情が交錯(こうさく)する中、ダンジョンへと吸い込まれていった。


 その時だった。


『――えー、皆さん。聞こえていますか?』


 どこからともなく響く声。

 魔法を介し、会場全体に直接届いてくる。


『これから、魔法執行部部員・如月愛紗(きさらぎあいしゃ)と……』


『放送部の十文字吉良(じゅうもんじきら)が、実況兼解説を担当させていただきます』


「なるほど……十文字吉良か」


 郷夜が反応する。


「アイツを知ってるのか?」


 燈也が(いぶか)しげに尋ねる。


「まぁな。一言で言えば……ダチだ」


 どこか誇らしげに笑う郷夜。


(……こいつのことだ。どうせ、ろくでもない付き合いなんだろうな)


 燈也は内心でそう突っ込みつつ、再び前を見据(みす)える。


『皆さんの様子は、魔導装置によって常時観測されています』


『万が一、危険を感じた場合は、いつでもリタイア可能です。恐れず、全力で挑んでください。皆さんの健闘を祈ります』


(なるほど……安全対策と、不正防止も兼ねてるってわけか)


 燈也は静かに息を整え、迫り来るダンジョンを見据えた。



「それじゃあ……行くぞ」


 燈也の一言に、チームの空気が引き締まる。


「皆さんの足を引っ張らないよう、精一杯頑張ります」


 怜花(れいか)は胸の前で小さく拳を握り、緊張を隠しきれない様子で頷いた。


「大丈夫さ。怜花ちゃんが危なくなったら、オレ様が全力で守るからね!」


 郷夜は親指を立て、いかにも決めポーズといった仕草を取る。


「……あんたが一番心配なのよ」


 即座に流水が冷静なツッコミを入れる。


「ふふ。喧嘩しないで、仲良く行きましょう?」


 癒水(ゆみ)が柔らかな笑みで場を和ませた。


 ◇


 森の中へと足を踏み入れると、空気が一変する。

 木々は鬱蒼(うっそう)と生い茂り、陽光(ようこう)は葉の隙間からわずかに差し込むだけだった。


「何が現れるか分からない。注意して進むぞ。」


 燈也は周囲を警戒しながら呟く。


「ダンジョンの入り口は、どこでしょう……?」


 怜花はきょろきょろと辺りを見渡す。


「リエラ、何か感じるか?」


 燈也は肩に乗る使い魔へ問いかけた。


「……この奥ね」


 リエラは目を閉じ、集中する。


「はっきりした魔力反応があるわ。おそらく、そこが目的の場所よ」


 魔力感知――リエラの得意分野だ。


「よし。まずはそこを目指そう。案内を頼む」


「任せて!」


 リエラは自信満々に先導(せんどう)し、燈也たちは慎重にその後を追う。


 ◇


 しばらく進んだ時だった。


「……何か、聞こえませんか?」


 癒水が足を止め、耳を澄ます。


「皆さん、あれを見てください!」


 怜花が前方を指差す。


「うわああああ!!」


「助けてくれ!!」


 悲鳴と怒号が森に響いていた。


「なっ……!」


 視線の先では、先行していた別チームがモンスターの群れに追い詰められている。

 牙を()き、低く唸る狼型モンスター――ウルフの群れだ。


 野生個体のようだが、これも試験の一環なのだろう。


『あーっと!渡辺先輩チーム、モンスターに囲まれています!』


 上空から響く吉良の実況。


『あのモンスターはウルフですね。一体一体はそこまで強くありませんが、集団で襲ってくるため囲まれると厄介です』


 如月の冷静な解説が続く。


「どうしますか……?」


 癒水が燈也に視線を向ける。


「決まってんだろ」


 郷夜が肩をすくめる。


「これは試験だぜ? 他のチームのことなんて放っといて、先に進もうぜ」


「でも……」


 怜花が言葉を詰まらせる。


「放っておけるわけないでしょ」


 流水が一歩前に出た。


「行くわよ」


「えぇ~。オレ様、面倒くさいんだけどなぁ」


「だったら風間は、そこで引っ込んでなさい」


「えっ、ひどくない!?」


 ◇


「グルルルル……!」


 ウルフが低く唸り、男子生徒に飛びかかる。


「ひいいいい!!」


『蒼海を駆ける一撃!!』

≪オーシャンアーツ壱の技・藍鯆(あおいるか)


 流水の身体が流れるように加速する。

 イルカのようにしなやかな蹴りがウルフを捉え、轟(ごうおん)と共に吹き飛ばした。


「大丈夫?」


「あっ……ありがとう!」


 別のウルフが牙を剥く。


「ガルルルルッ!!」


『吹き荒れよ!』

≪初級風魔法・ヴィント≫


 怜花の詠唱と同時に、魔力を帯びた風が放たれ、横合いからウルフを弾き飛ばす。


「きゃあああ!」


 今度は女子生徒の悲鳴。



『春を告げる青き風よ、その旋律で道を切り拓け。踊れ』


≪|青き春風のワルツ(ブルー・ウィンド)――≫


「大丈夫かい? ハニー?」


 郷夜の魔法が風の刃となり、カマイタチのようにウルフを切り裂く。


「風間! まだいるわ!」


 格好をつけた郷夜に、流水が叫ぶ。


「へっ……? うわああ!」


 死角から、もう一匹のウルフが飛びかかる。


「ったく……出るなら、最後までしっかりやれよ」


 燈也が前に出て、ウルフを蹴り飛ばした。


「キャンキャン!」


 怯えたウルフたちは、尻尾を巻いて森の奥へと逃げ去っていく。


「し……不知火ぃ~。恩に切るぜ……」



『恵みの雨よ、静かに降り注ぎ、傷ついた心と身体を包んで。』

≪ヒール・レイン≫


 柔らかな光を帯びた雨が降り注ぎ、傷ついた生徒たちを包み込む。


「皆さん、お怪我はありませんか?」


 癒水の声に、疲労と痛みが次々と癒えていく。


「すまない……助けてくれてありがとう」


「本当に、ありがとうございました」


 助けられた生徒たちは深く頭を下げる。


「お互い、ベストを尽くしましょ!」


 流水が明るく笑った。


『これは凄い! 不知火チーム、見事ウルフの群れを颯爽と撃退しました!』


 吉良の興奮した実況が響く。



 ◇


 そのまま進んでいくと――

 木々の合間に、ぽっかりと口を開けた洞窟(どうくつ)が姿を現した。


「ここが……ダンジョンか」


 洞窟の前に立ち、燈也は足元を見据えた。

 岩肌は湿り、内部からはひんやりとした空気が流れ出している。


「よし。注意していくぞ」


「へへ、腕が鳴るぜ!」


 郷夜は拳を鳴らし、やる気満々といった様子だが――


「あんた、声が大きいのよ」


 流水が即座に釘を刺す。


 燈也たちは慎重に洞窟の中へ足を踏み入れる。

 

「……静かすぎるな」


「ええ。魔力の流れも、少し(ゆが)んでいます」


 癒水が不安そうに辺りを見回す。


 その時――


「待って」


 リエラが前に出て、片手を上げた。


「……誰かいるわ」


 燈也たちが視線を向けると、少し先の開けた場所に人影があった。


「だっ……駄目だ……ギブアップだ……」


 長髪の男子生徒が、壁にもたれかかるように座り込み、荒い息を吐いている。


「無理もないわ。かなり魔力を消耗してる」


『おーっと! 小林先輩チーム、ここで無念のリタイアです!』


 洞窟内にも響く、吉良の実況。


『リタイアとなっても即追試にはなりませんが、ここで脱落は痛いですね』


「もうちょっとだったのに……惜しかったわね~」


 その声は、洞窟の奥から響いた。


 燈也たちが身構える中、影の中から一人の女性が姿を現す。

 余裕のある笑みを浮かべ、倒れている生徒に近づく。


「ほら、これ飲んで。ちゃんと回復するから」


 そう言って差し出されたのは、小瓶に入った薬。


「……あ、ありがとうございます……」


 生徒は震える手でそれを受け取り、係員に連れられて去っていく。


「またチャレンジしてね~☆」


 軽い口調で手を振り、女性はその背を見送った。


 そして――

 ゆっくりと視線をこちらへ向ける。


「さてと……」


 唇の端をつり上げ、意味深な笑みを浮かべる。


「次の挑戦者は……君たちかな~?」


 その一言に、洞窟の空気が、わずかに張り詰めた。



次回予告 『第31想 「最初の関門 ――魔法教師エリス」』


洞窟の奥、

柔らかな笑みを浮かべて待ち構える一人の女性。


彼女こそ――

最初の試練を司る魔法教師、エリス・セラフィン。


倒れていく挑戦者たち。

優しさの裏に隠された、容赦なき試練。


果たして燈也たちは、

この“第一関門”を突破することができるのか――?

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