第21想 幽霊少女の序曲
C班メンバー:高天原帝亜、工藤英明、セフィリア
探索場所:1階 魔法薬学室
夜の校舎一階。
静かすぎる廊下を、C班の三人が足音を忍ばせて進んでいく。
照明は最低限しか点いておらず、廊下は暗いグレーの闇に沈んでいた。
「幽霊なんて本当に存在してるの?」
セフィリアが小さく呟く。その声は、静寂の廊下ではやけに響いた。
横を歩く英明は懐中魔灯を前方に向けたまま、素っ気なく答える。
「さあな……俺も信じていないが、噂がある以上、何かあるかもしれん」
その“何か”という曖昧な言葉が、逆に帝亜の恐怖を煽ったらしい。
ふと気づけば彼女の足がまた遅くなっていた。
「帝亜、遅いぞ」
英明が無表情で促すと、帝亜は慌てて小走りになる。
「ちょっ……待ってよ~!」
彼女の腰にぶら下がった護身具の数々がジャラジャラと鳴り、廊下の沈黙を破った。
英明が振り返り、呆れた声で尋ねる。
「というか……その装備は何なんだよ?」
帝亜は胸を張り――張った拍子に更に鈴がちりんと鳴る。
「こ、こここれは……用心のためよ!」
そう言って、護符、鈴、塩袋などの“フル装備”をみせた。
彼女自身は真剣なのだろうが、どう見ても滑稽だ。
「何かあったら大変だからね。安心して。私の仲間には指一本触れさせないわ」
左手にはめた黒いグローブを見せて自信たっぷりに言う帝亜に、英明は半眼でため息をつく。
「ああ、まあ……期待してるぞ。
……あとそれは邪魔だから外せ」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って!これが心の支えなの!!」
セフィリアは、ドアの横についているプレートを指差した。
「目的地、ここだね。魔法薬学室」
「……あぁ、みたいだな」
「そもそもなんでこんなに暗いのよ……!」
帝亜が周囲を見回しながら小声で言う。
英明は懐中魔灯を持ち上げて帝亜の顔を照らし、冷静に返す。
「……お前が言ったんだろ。明るいと幽霊が逃げるかもって」
「――っ! あれはノリで言っただけで!!」
帝亜が慌てて否定したそのとき、
扉の向こうから、微かな“カサ”という音がした。
三人の動きがぴたりと止まる。
英明は表情を変えずに、静かに扉へ手を伸ばした。
セフィリアはその後ろで、音がした方向をじっと見据える。
帝亜は……英明の袖を思い切り掴んで震えていた。
「……入るぞ」
英明が扉を押し開けた瞬間、わずかな風が廊下に吹き出し、
薬草と古びた机の匂いが鼻を掠めた。
魔法薬学室の内部は、廊下よりさらに暗かった。
棚に並ぶ瓶の中で、透明な液体が光を受けて揺らめいている。
帝亜は足を踏み入れた途端、肩をビクッと震わせた。
「ひぃ……本当に、なんか出そう……」
「出ないように祈っておけ。ほら、手分けして調べるぞ」
B班メンバー:日向雄介、如月愛紗、立花セレナ
探索場所:2階 魔法薬学室
階段を上がった二階の廊下は、夜の静けさが一段と濃かった。
美術室前に続く廊下は特に薄暗く、廊下の端に飾られた石膏像の影が長く床に伸びている。
その不気味さに、愛紗は肩をぎゅっとすぼめた。
「ふえぇぇ……夜の学校は怖いですね〜……」
その情けない声に、隣の雄介は額をかきながらも苦笑した。
「ああ……雰囲気あるな。
普段見慣れてる場所なのに、なんか別物に感じる……」
廊下の先に並ぶ美術作品――静物画や、人の顔だけが描かれた練習用のデッサンが、夜の闇の中で微かに浮かぶ。
ちょっとした影でも人が立っているように見えて心臓に悪い。
そこへセレナが、ひょいと雄介の背中を軽く叩きながら笑った。
「もし幽霊が出たら頼りにしてるからね、日向君」
「いや……俺なんかより、先生のほうが強いんですから……
そもそも守る必要なんてないと思うんですが……」
雄介が現実的なツッコミを入れると、セレナは口を尖らせた。
「あらら、残念……」
その小さく落胆した声が、子供みたいで愛らしい。
が、すぐに彼女はニコッと笑い、くるりと愛紗のほうへ向き直った。
「じゃあ愛紗ちゃんに守ってもらおうーっと」
「はわわわわわっ!? わ、私ですかぁ!?」
愛紗の耳まで真っ赤になり、両手を胸の前でわたわたと振る。
「え、えっと……が、頑張りますっ!」
「ふふふっ……頼りにしてるね」
セレナの言葉に愛紗はますます顔を赤らめ、挙動不審になりながらもこくこく頷いた。
「い、いいのか……? ……それ」
雄介がぽつりと呟く。
セレナは肩をすくめてウインクした。
「だって〜、愛紗ちゃん可愛いし。守ってもらえたら嬉しいじゃない?」
「理由が雑すぎる……」
そんなやり取りをしながら、美術室の扉が視界に入る。
雄介は深呼吸し、取っ手に手を伸ばした。
「……よし、入るぞ」
扉を引くと、夜の冷たい空気と共に、
うっすらと漂う油絵の具の甘い香りが三人を包む。
室内は、廊下よりさらに静かだった。
月明かりがカーテンの隙間から入り、石膏像たちの影が不気味に揺れている。
「ひっ……っ」
愛紗が小さく悲鳴を漏らして雄介の袖を掴む。
セレナは「わぁ、雰囲気あるねぇ」と呑気に絵を眺めている。
油絵のキャンバスが並び、
壁には数十枚の人物画の“目”が横一列に並んでいるせいで……
誰かに見られているような錯覚すら覚える。
雄介は懐中灯を構えつつ、奥へ一歩踏み込んだ。
「……とりあえず、手分けして調べよう。
変な気配があったらすぐ声を出せよ」
「りょ、了解ですっ!」
「はいはーい。じゃ、張り切って行こっか!」
三人はそれぞれ別方向へ散り手掛かりを探す
次回 『第22想 幽霊との邂逅〈プレリュード〉』
静まり返った旧音楽室。
白布が落ちたその瞬間、夜は静寂をやめた。
それは恐怖か、それとも運命の出逢いか。
追い詰めたはずの“幽霊”は、鋭い眼差しで彼らを見返す。
邂逅は偶然ではない。
この出逢いこそが、次なる旋律の始まり。




