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Himeyuri ―魔法を嫌う元学園最強の主人公ー  作者: 小鳥遊 千夜
第五章 湯けむり大騒動!?魔法旅館編

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第172想 離さない、その手だけは


 ――燈也(ともや)×怜花(れいか)ペア


 森の奥、足元の落ち葉が静かに音を立てる。


 風は弱いが、妙に肌寒い。


「……静かで少し怖いですね。」

 怜花が、小さく呟く。


「まあ、肝試しってそういうもんだろ」

 燈也は前を見たまま答える。


 軽い口調、だが歩幅はほんの少しだけ緩められていた。


 怜花が、それに気づく。


「……ありがとうございます」


「何が?」


「歩く速さ、合わせてくれてるから」

 燈也は一瞬だけ黙る。


「気のせいだ」


「そう、ですか?」

 くすっと、小さく笑う。


 少しだけ、空気が和らぐ。


 

 燈也は足を止め、怜花の方を見る。


「あんま、無理すんなよ。」


「……もしヤバければ戻ってもいいからな。」


「…いえ」


 怜花は首を振る。


「行きます。」


「ここで逃げたら、きっと後悔しますから」


「それに……一人じゃないですから。」

 怜花は燈也を見て笑う。


「……そっか」


「じゃあ、頑張ろうぜ。」


 そう言って、再び歩き出す。


 しばらく進むと――


 空気が変わり、景色が、歪む。

「……?」


「何かの仕掛けのようだな……」

 燈也が低く呟く。


「幻術でしょうか……?」

 怜花が周囲を見渡す。


「多分な。視覚と感覚、両方いじられてる。

 …気を付けろよ」


 一歩、踏み出した――その瞬間。


 怜花の姿が、消えた。


「……おい」


 燈也が辺りを見渡すが、いない。


 気配も、魔力も――。


「ちっ……怜花!」


 声を張り怜花を探す。


「聞こえてたら返事しろ!」



 一方、怜花側――



「……燈也さん?」

 怜花も、同じ状況だった。


 さっきまで隣にいたはずの背中が、消えている。


「……どこ……」


 心臓が強く鳴る。

 

「……落ち着いて、燈也さんなら近くにいる……はず、です」


 だが――足が、少し震える。


 そのとき――


「怜花!」


 遠くから、声が届く。


「……!」


「燈也さん!」


 声を返しながら、声の聞こえた方角へ進む。


 だが――近づいているはずなのに、距離が縮まらない。


「くそ……空間まで歪めてんのか」

 燈也が歯を噛む。



「怜花聞こえてるか。止まるんだ!」


「え……?」


「動くな!」


 その言葉を受けて怜花は、その場で足を止める。


「……いいか」

 燈也の声が、少しだけ近くなる。


「俺がお前を探し出す。だから俺を信じて待っていてくれ!」


「……はい!」


 (落ち着け、俺。こういう時は目で判断するんじゃない。

 …感覚を頼りにするんだ。)


 感覚を頼りに怜花を探す。


  (待ってろ…怜花…)


 必死に手を伸ばす。 


 ――その瞬間。


 何かが触れた。


「……っ」


 反射的に掴む。


「……捕まえたぜ。」

  燈也の声。


 怜花の目の前には――燈也がいた。


「……よかった……」

 怜花の身体から力が抜ける。

 

「離すなよ」

 燈也が言う。


「……はい」

 しっかりと、手を握る。


 その瞬間――

 空間の歪みが戻り、景色が元に戻る。


「……解除、されたのでしょうか?」


「多分な」


 手は、まだ繋がったまま。


「もう、手を放しても大丈夫だろう。」

 燈也の言葉に怜花が、少しだけ視線を落とす。


「……あの」


「ん?」


「もう少しだけ…繋いだままでもいい…でしょうか?」

 

 そう恥ずかしそうに呟く。


 燈也は一瞬だけ沈黙するが


「……そっ…そうだな。」

 

 短く答えながら、顔を逸らす。


「また分断されても面倒だしな。」


 ぶっきらぼうに。


 だが――

 その手は、しっかりと支えるように握られていた。


 怜花は、少しだけ驚いて、それから静かに頷く。


「……はい」


 今度は、ちゃんと同じ歩幅で、歩き出す。


 手を繋いだまま――

 さっきよりも少しだけ、距離を縮めながら森の奥へ――


次回 『第173想 導きの灯』


 森に散らばった仲間たちは、それぞれ異なる恐怖と試練に向き合っていた。


 そして、暗闇の奥に現れた青白い“灯”に導かれるように進んだ先で、

 一行が辿り着いたのは――古びた廃寺。

 

 これは偶然か、それとも、誰かの意思か。

 折り返し地点まであと僅かだ。



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