第172想 離さない、その手だけは
――燈也×怜花ペア
森の奥、足元の落ち葉が静かに音を立てる。
風は弱いが、妙に肌寒い。
「……静かで少し怖いですね。」
怜花が、小さく呟く。
「まあ、肝試しってそういうもんだろ」
燈也は前を見たまま答える。
軽い口調、だが歩幅はほんの少しだけ緩められていた。
怜花が、それに気づく。
「……ありがとうございます」
「何が?」
「歩く速さ、合わせてくれてるから」
燈也は一瞬だけ黙る。
「気のせいだ」
「そう、ですか?」
くすっと、小さく笑う。
少しだけ、空気が和らぐ。
燈也は足を止め、怜花の方を見る。
「あんま、無理すんなよ。」
「……もしヤバければ戻ってもいいからな。」
「…いえ」
怜花は首を振る。
「行きます。」
「ここで逃げたら、きっと後悔しますから」
「それに……一人じゃないですから。」
怜花は燈也を見て笑う。
「……そっか」
「じゃあ、頑張ろうぜ。」
そう言って、再び歩き出す。
しばらく進むと――
空気が変わり、景色が、歪む。
「……?」
「何かの仕掛けのようだな……」
燈也が低く呟く。
「幻術でしょうか……?」
怜花が周囲を見渡す。
「多分な。視覚と感覚、両方いじられてる。
…気を付けろよ」
一歩、踏み出した――その瞬間。
怜花の姿が、消えた。
「……おい」
燈也が辺りを見渡すが、いない。
気配も、魔力も――。
「ちっ……怜花!」
声を張り怜花を探す。
「聞こえてたら返事しろ!」
一方、怜花側――
「……燈也さん?」
怜花も、同じ状況だった。
さっきまで隣にいたはずの背中が、消えている。
「……どこ……」
心臓が強く鳴る。
「……落ち着いて、燈也さんなら近くにいる……はず、です」
だが――足が、少し震える。
そのとき――
「怜花!」
遠くから、声が届く。
「……!」
「燈也さん!」
声を返しながら、声の聞こえた方角へ進む。
だが――近づいているはずなのに、距離が縮まらない。
「くそ……空間まで歪めてんのか」
燈也が歯を噛む。
「怜花聞こえてるか。止まるんだ!」
「え……?」
「動くな!」
その言葉を受けて怜花は、その場で足を止める。
「……いいか」
燈也の声が、少しだけ近くなる。
「俺がお前を探し出す。だから俺を信じて待っていてくれ!」
「……はい!」
(落ち着け、俺。こういう時は目で判断するんじゃない。
…感覚を頼りにするんだ。)
感覚を頼りに怜花を探す。
(待ってろ…怜花…)
必死に手を伸ばす。
――その瞬間。
何かが触れた。
「……っ」
反射的に掴む。
「……捕まえたぜ。」
燈也の声。
怜花の目の前には――燈也がいた。
「……よかった……」
怜花の身体から力が抜ける。
「離すなよ」
燈也が言う。
「……はい」
しっかりと、手を握る。
その瞬間――
空間の歪みが戻り、景色が元に戻る。
「……解除、されたのでしょうか?」
「多分な」
手は、まだ繋がったまま。
「もう、手を放しても大丈夫だろう。」
燈也の言葉に怜花が、少しだけ視線を落とす。
「……あの」
「ん?」
「もう少しだけ…繋いだままでもいい…でしょうか?」
そう恥ずかしそうに呟く。
燈也は一瞬だけ沈黙するが
「……そっ…そうだな。」
短く答えながら、顔を逸らす。
「また分断されても面倒だしな。」
ぶっきらぼうに。
だが――
その手は、しっかりと支えるように握られていた。
怜花は、少しだけ驚いて、それから静かに頷く。
「……はい」
今度は、ちゃんと同じ歩幅で、歩き出す。
手を繋いだまま――
さっきよりも少しだけ、距離を縮めながら森の奥へ――
次回 『第173想 導きの灯』
森に散らばった仲間たちは、それぞれ異なる恐怖と試練に向き合っていた。
そして、暗闇の奥に現れた青白い“灯”に導かれるように進んだ先で、
一行が辿り着いたのは――古びた廃寺。
これは偶然か、それとも、誰かの意思か。
折り返し地点まであと僅かだ。




