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Himeyuri ―魔法嫌いの元学園最強と、幼馴染の約束から始まる魔法学園譚ー  作者: 小鳥遊 千夜
第一章 幽霊少女編

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第17想 Resonansce

前回のあらすじ

ななの願いを叶える為にバンドを結成した燈也達。バンドの練習へ向かう途中、不知火燈也たちは学校の騒ぎに遭遇する。破壊された校舎、暴れる魔物、逃げ惑う生徒、――原因は、違法な魔法実験の失敗だった。


目の前の問題を放っておくことは出来ず、燈也たちは即座に立ち上がる。


即席の連携、ぶつかり合う力、そして燈也の一撃が暴走する魔物を断ち切る。

元凶を討ち倒し、騒ぎは終息へと向かった。


だがこの事件は、彼らが踏み込んだ世界の一端に過ぎなかった。


 

 旧校舎の空き教室――。

 夕陽が差し込む窓は少しだけ開いており、そこから吹き込む風が、薄く積もった(ほこり)をふわりと揺らしていた。

 赤い帯のように伸びる光が床を横切(よこぎ)り、使われなくなった備品、椅子と机が長い影を落とす。

 どこか懐かしいのに、少しだけ心がざわつく……そんな(すた)れた空間だ。


 その真ん中で、バンドメンバーたちが集まっていた。


「ビッ!!」


 ななの腕の中で、白いもこもこした生物――ビビデ・バビルちゃんが、今日も元気に鳴いた。

 丸い瞳は宝石のようにキラキラしていて、口は三日月型ににょきっと広がっている。

 まるで“ここが自分の居場所!”と言わんばかりに、無邪気(むじゃき)に手をぱたぱた振っていた。


「ビッ!」


 ななも同じテンションで復唱する。嬉しそうに、声まで(はず)んでいる。


「な、なんなのよアレ!? 謎生物にもほどがあるんだけど!?」


 漣流水(さざなみるみ)が思い切り指差して叫んだ。

 その顔には驚きと困惑(こんわく)と、若干の悲鳴成分が混ざっている。


「ビビデバビルちゃんなのだ!」

 ななが胸を張って答えるが流水が今聞きたいのは名前では無い…


「いや、その……実はな」

 見かねた不知火燈也(しらぬいともや)は後頭部をかきながら、ななに代わり説明をする。


 ――少し時間は(さかのぼ)る。

 異空間での石像との戦い、その直後。


「ビッ!!」


 巨大な敵が砕け散り、空間が静寂(せいじゃく)を取り戻した瞬間。

 子悪魔のぬいぐるみのような生き物が、瓦礫(がれき)隙間(すきま)からぴょこんと飛び出してきた。


「まだ残ってたのか?」

 燈也が反射的に構える。


「あれ……どうするの?」

 リエラは一歩下がりつつ、警戒(けいかい)しながら目を()らした。


 しかし様子が変だ。

 ぬいぐるみのような生物は両手をお腹を押さえ、


「ぐぅ……」


 と弱々しく鳴いた。

 戦意なんてまるで感じられない。むしろ、お腹を空かせた子犬のようだ。


「もしかして……お腹、空いてるのだ?」

 ななが首をかしげる。妙に確信めいた声だった。


煎餅(せんべい)……まだ持ってるか?」

 ななに問われ、燈也はポケットに手を突っ込む。


「あるにはあるけど……」

 取り出したのは、例の煎餅。前にななにあげたのと同じものだ。


「食べるか?」

 ためらいながら差し出すと――


「ビビビッ!!」


 ぬいぐるみのような生物は歓喜(かんき)に震え、ザクッ!ザクッ!と夢中でかじり始めた。


「ふふ~。たくさん食べるのだぁ」

 ななが嬉しそうに撫でてやると、ますます機嫌が良くなる白い生物。


「このあと、どうするの?」

 困惑気味(こんわくぎみ)にリエラが問いかける。


「まぁ……敵意は無さそうだしな」

 燈也は腕を組み、ため息をついた。


 ふと横を見ると、ななはこの謎生物をぎゅっと抱きしめて離さない。

 その顔は、完全に“新しいペットができた子ども”のそれだった。


「……こいつ、ななの友達になりそうだな」

 燈也は苦笑(くしょう)混じりに(つぶや)いた。


 ――そして、現在。


「……という経緯(けいい)があって、こうなったわけだな」

 燈也が()める。


「……あんたたちねぇ……」

 流水はこめかみを押さえながら、深いため息をついた。


 しかし、ビビデ・バビルと名付けられた生物は「ビッ」と愛嬌(あいきょう)たっぷりに挨拶をする。

 その姿に、流水もつい(ほほ)をゆるめてしまう。


「まあ、害がないなら別にいいけど……みんな喜んでるし。ほら、新しい仲間も増えたことだし、練習始めるわよ!」


 そう言って笑う流水。

 その声音には、どこか優しさが混ざっていた。


 ――だが。


「ちょっと待ったぁぁ!!」

 突然、風間郷夜(かざまごうや)が勢いよく立ち上がった。


「まだ大事なことが残ってるだろ!?」


「大事なこと?」

 燈也が眉をひそめる。


 郷夜はニヤッと口角(こうかく)を上げ、胸を張って言い放つ。


「バンド名だよ、バンド名!」


「お前がまともなことを言ってる……だと?」

 燈也の目が丸くなる。


「これは……ニセモノでしょうか?」

 加ヶ瀬怜花(かがせれいか)が真顔でつぶやく。


「台風でも来るんじゃない?」

 流水がじと目で郷夜を見た。


「みなさん、あまりに失礼ですよ……」

 漣癒水(さざなみゆみ)が苦笑しながらフォローする。


「で、案はあるの?」

 流水が腕を組んで郷夜を見た。


「へへへッ……あるに決まってるだろ!」

 胸を張って、得意げに叫ぶ。


「『ビューティフル神風サイクロンズ』!!」


「ダサい……却下なのだ」

 ななが即答した。


「うぐっ……」

 郷夜が撃沈する。



「他に案ある奴いるか?」

 燈也が皆を見る。


「ふふ、私はもっと素敵なのがあるわ!

 『シャイニングトリニティ―トワイライトミラクルズ』!!」

 リエラは胸を張る。


「長ぇよ!! どこで息継ぎすんだよ!!」

 燈也が叫ぶ。


「『ホヤウカムイ』なんてどうでしょうか?」

 癒水が控えめに手を挙げた。


「なぜ水神……」

 燈也が即ツッコミ。


「ビビビビッ!!」

 ビビデ・バビルも叫ぶ。


「意味不明すぎるって!」

 燈也は頭を抱えた。


「うぅ……しっくりこないのだ……」

 ななが少し困ったように頬を膨らませる。


「流水姉は?」

 燈也が振る。


「え、アタシ!? え、えっと……

 『ぷかぷか☆クリオネさん’s』とか……?」


「ぷっ……似合わねぇ」

 燈也が吹いた。


「はぁ!? 殴るわよ!?」

 流水がマジギレする。


 慌てて燈也は話題を変える。


「そ、そうだ! ななは何かないのか?」


「バンド名……」

 ななは胸に手を当て、ゆっくり目を閉じた。


「難しく考えんな。お前がバンドをやりたい“理由”を込めればいい」


「……理由……」


 ななは胸に手を当て、静かに語った。


「ななは……お姉ちゃんに届けたいのだ。

 本当の気持ちを伝えたいのだ。

 あやまりたい……仲直りしたいのだ。

 だから……力を貸してほしいのだ……!」


 陽の光の中で、彼女の瞳はまっすぐで、どこまでも真剣だった。


「……いい理由じゃねえか」

 燈也が優しく微笑む。


「だな」

 郷夜が深く頷く。


「素敵です……!」

 癒水。


「一緒にがんばりましょうね!」

 怜花も笑う。


 そのとき、燈也の頭にある言葉がひらめいた。


「……“共鳴(きょうめい)”。

 そうだ……『Resonansceレゾナンス』ってのはどうだ?」


 静かに提案する。


「おー! かっこいいのだー!!」

 ななが飛び跳ねて喜ぶ。


「素敵な名前ですね。」

 怜花も微笑む。


「“()()()()()”か…。意味は全く分かんねーけど、すっげえオシャレじゃん!!」

 郷夜がドヤ顔で同意する。


「違うわ!!

 レ・ゾ・ナ・ン・ス!

 “()()”っていう意味よ!!」

 流水が全力で訂正(ていせい)する。


 皆も満場一致(まんじょういっち)の様子だ。


「決まりだな。なら景気付けに――あれをやろうぜ」

 郷夜が手を差し出す。


「もう、子供なんだから」

 流水が呆れたように笑いながらも、そっと郷夜の手に自分の手を重ねる。


「まぁまぁ良いじゃないですか」

 続いて癒水が穏やかな声で言い、ふわりとした笑みを浮かべて手を乗せる。


「良いライブにしましょうね。」

 怜花が静かな決意を宿した目で仲間を見渡し、しなやかな手を添える。

 その手は細いが、しっかりと強い意志がこもっていた。


「よーしやるのだ!」

 ななが勢いよく拳を握りしめ、勢いそのまま手を重ねる。


「ビビッ」

 ビビデバビルもななの真似をするように手を重ねる


「ほらよ」

 燈也も、ぶっきらぼうに手を置いた。

 こうして、仲間の手が重なり合い、ひとつの輪になっていく。


 その輪を、少し離れた位置でリエラは見つめていた。

 温かい光に包まれたような光景。

 胸の奥がじんわりと熱くなり、気づけば喉が詰まって言葉が出ない。


「おい、リエラ何やってんだ?」

 燈也が振り返り、優しく声をかける。

「お前も早く手を乗せろよ。」


 仲間たちの視線が一斉に集まり、リエラは驚いたように目を瞬かせ、

 そして、照れくさそうに微笑んだ。


「……うん」


 リエラはそっと歩み寄り、ためらいがちに、けれど確かに、

 仲間たちの輪の中心へ手を添えた。



「よし――『Resonansce』結成だ。皆で、最高の音を響かせようぜ!」


「おーーーーッ!!」


 空き教室に、仲間たちの声が重なり練習が始まる。



「じゃあ……合わせるのだ」


 ななが小さく深呼吸し、センターに立つ。

 胸の奥が少し震えていたが、それは不安よりも期待の鼓動だった。


 そのすぐ横で、燈也が指を軽く鳴らす。


「カウント入れるぞ。いくぞ――3、2、1」


 燈也はベースギターを構え、(あご)を軽く引いた。

 怜花はキーボードの前で指先を静かに浮かせ、

 癒水はフルートを胸元でそっと握り、呼吸を整える。

 郷夜はリズムに合わせてドラムを鳴らす。

 流水もギターの(げん)を弾きメロディーを奏でる。

 リエラも裏方としてミキサーで音を調整して仲間を支える。


 最初は細く、頼りない。

 だけどその声はまっすぐで、

 “誰かに届けたい”という願いを包んで震えていた。


 そこに燈也のギターが寄り添い、

 流水の刻むコード勢いを与え、

 郷夜のドラムがビートを刻み、

 怜花の柔らかな旋律(せんりつ)が広がりをつくり、

 癒水のフルートが透明な空気の層を重ねていく。



 声、音、鼓動。

 そのすべてが混ざり合って、

 空き教室はひとつの“共鳴体”になっていた。




 ***


 その旋律は風に乗り魔法執行部の部室まで届いていた。


「……ん? この音……歌か?」

 英明が足を止めた。


「今日は合唱部は休みのはずだがな。聞いているか、帝亜」

 横目で隣に立つ帝亜へと問いかける。


「さぁね……」

 帝亜は窓際(まどぎわ)にもたれ、

 知らぬふりをしながら外へ視線を逃がしていた。

 しかしその横顔は、わずかに口角が上がり、

 聞こえてくる歌声を密かに楽しんでいるようだった



 その歌が誰のものか――

 二人とも気付きながら、あえて言葉にしなかった。





  次回予告 『第18想 束の間の夜想曲』

騒がしくも温かな親睦会の夜。

燈也は“家族”という言葉と向き合うことになる。


踏み出せない一歩、言えなかった呼び名。

ななの何気ない一言が、燈也の胸に小さな波紋を広げていく。


「ななが姉と必死に向き合おうとしてるのに俺だけ逃げてるだけなんて恰好つかないよな……」


互いにすれ違う心が再び交わるのは、もう少し先の話――


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