密会にまつわる三つの問題
「う~~~~~~ん……」
僕は自室(幽霊屋敷の半物置部屋)をうろうろと歩き回りながら、うなっていた。シャルロット様と【沈黙の密猟者】(つまり僕のことだ)を会わせる件について頭を悩ませているのだ。
問題は、三つある。
一つ目は、【密猟者】でいると魔力を大量に消費すること。会ってちょっとおしゃべりして即解散ならともかく、それなりの時間、会話することになるだろう。シャルロット様のことだ。言葉通りに、ただお礼を言うだけ、なんてことはあるまい。正体を探ろうと根掘り葉掘り聞いてくるはずだ。
二つ目は、僕と【密猟者】が同時にその場にいられないことだ。僕は護衛でもあるのだから、その場を離れるなら何か言い訳が必要になる。
三つ目は、これが一番厄介なのだが……、天使がみていることだ。あのキャリオ様にくっついている天使はまだ僕のことをみている。気のせいではなく、間違いなく見ている。たまにパチパチと砂粒のような魔力がぶつかってくる感覚がある。一日中常に集中してみている、というわけではないが、常に視界には入れておいて、疑問を感じたら焦点を合わせる、という感じ。おそらく、変身すれば見とがめられるだろう。そうなるとアウトだ。変身して活動したときに天使に見つかると、僕だと一発でバレてしまう。
やりにくいことこの上ない。
この三つを同時に達成する作戦が必要だ。
実はアイデアはいくつかある。どれが一番いいかの評価もできている。しかし、どうにも、納得できない。もっとローコスト、ローリスク、ハイリターンな作戦があるはずだが……、思いつかなかったのだ。
「これが一番マシか……。シャルロット様にバレないといいけど」
僕は考えるのを打ち切って、ベッドに入った。
明日の成功を祈りながら。
***
翌日の買い出しで、僕は二か所寄り道をした。
まず最初に王都のギルドに足を運び、一般の依頼掲示板にむかった。そこには沢山の人々の困りごとが書かれている。王都といってもまだまだ行政システムは完璧じゃない。道が壊れたり、水が止まったり、飼い猫がいなくなったり、色々な問題が起こり、その対応は未熟だ。対応は遅く、不完全で、ごく限られている。だから互助的に住民それぞれで対処するケースもある。この掲示板はそのためのものだ。誰でも依頼を出せて、誰でも依頼を受けられる。
今日もたくさんの依頼が貼り出されている。僕は掲示板の前で依頼のいくつかに目を通し、受付に行った。
「すみません、昨日出しておいた依頼を確認しに来ました」
「お名前と依頼番号をどうぞ」
受付嬢が微笑む。僕は偽名と依頼番号を答えた。
「その依頼は、ええと……。ああ、完了になっていますね。……え?」
受付嬢は依頼書をまじまじと見て驚いている。それはそうだろう。僕は苦笑した。
今夜、王都のどこかに宿を予約しておいてほしい、という依頼だ。宿代は払っておいてもらう。報酬は宿代の三倍くらい。簡単でおいしい依頼ではある。
しかしよく考えればおかしい。王都には宿がいくつもある。宿に条件があるならともかく、条件なしなら空いている宿などすぐに見つかるだろう。
こうして依頼の確認に来ることができるなら、わざわざ依頼などする必要はないのだ。
「あの……」受付嬢が不思議そうに僕の顔をちらちらと見ている。「どうしてこんな依頼を?」
「ちょっと事情がありまして」
僕が微笑むと、受付嬢はそれ以上質問しなかった。
渡された地図で宿と部屋の場所を確認し、代理人がもらってきた宿屋の主人の書付を受けとった。これを見せれば泊まれる、というやつだ。
「ご、ご利用ありがとうございました」
「あ、まだです。もう一つ用があって」
「はい、なんでしょう」
「取り下げてほしい依頼があるんです」
「キャンセル料が必要になりますが」
「わかっています」
「何番の依頼でしょうか?」
受付嬢は「気になる!」と言わんばかりの表情で僕をみている。僕は番号を答えた。
「その依頼は……、これですね。……ええ?」
受付嬢はまたヘンテコな依頼だなあ、と言わんばかりの顔をした。
とある本の写本を頼みたい、という内容だ。「写本中はパン以外を食さないこと」など奇妙な条件がならんでいる。しかし、この依頼を誰も取らないことが決定的なのは、その報酬の少なさだった。写本依頼としては非常識なレベルだ。まるで「受けないでください」と言わんばかりの依頼だった。
「キャンセル料をお願いします」
「はい、どうぞ」
「あの……、この依頼はなんだったんですか?」
「さあ」僕はにやっと笑った。「なんでしょうね?」
僕は首をかしげている受付嬢を残して、ギルドを後にした。
一つ目の依頼についてはいずれわかるので、説明は省略。
二つ目の依頼は「【密猟者】と連絡を取りました」というポーズのためのものだ。依頼そのものに意味はない。この依頼は【密猟者】へのメッセージだったのだと、あとになって天使に納得してもらうためのものだ。天使の視線は何度か感じた。たぶん、疑問に思ってくれただろう。
次に、一昨日シャルロット様と一緒にのぼった時計塔に寄った。一番上にのぼり、【支援妖精】を起動する。あらかじめ割り出しておいた数値を入力し、魔法陣を算出。誰もいない時を見計らって、魔法陣を床に転写する。仮想物体のインクだ。肉眼では見えないが、魔術で使用する分には問題ない。今日一日くらいは持つ程度の魔力をこめている。
天使からバチバチと鋭い視線が飛んでくる。「何をした」と言わんばかりだ。
僕は天使がいるであろう方角へお辞儀をした。
「ただの下準備でございます」




