決着 〜雷神(ゼウス)vs戦闘神(ニヌルタ)〜
二階席にある来賓席で試合を見ていた国王の目が見開く。
雷音の持つ新たな武器はかつて見覚えのあるものだったからだ。
「あれは……刻斗の使っていた……雷音が使えるようになるとはな……。友よお前の残した種は大きく育ったぞ……」
「あなた……」
「今は国王という立場だ、どちらかに肩入れすることは許されん。だが一個人としては……」
「そこまでですよ。でもあの子の成長に期待しましょう?もしかしたら義理の息子になることもあるかもしれませんしね」
「む……それはまだよかろうよ。本人の意思というものもあるわけでな」
「それでしたらルナちゃんはすぐお嫁に行ってしまいますよ?あの子は昔から雷音ちゃんにべた惚れですからね」
「……まだ学生だ先のことは良かろう」
「サンちゃんは婚約してましてよ?」
「え、ええい!俺が認めん限りは許さん!」
「あらあら嫌われちゃいますよ?」
――――
「間一髪、ってとこだったな」
ガキン、と武器と武器がぶつかり合い、鈍い音が会場に響いた。
「テメェ……なんだそりゃあ?」
雷音の手には一振りの大鎌が握られていた。黒い金剛の様な輝きを放ち、成人の半身程の大きさの刃。それ全ての命を切り裂かんばかりの恐怖を与えるものだった。
「『万物切断』」
「ハッ、馬鹿のひとつ覚えみたいにまた違う武器かぁ?」
「……切り裂く……何もかも」
「あぁっ?なんだボソボソと」
雷音はウォードに向かいアダマスの鎌を横薙ぎに振り回すが、既に満身創痍の身体である為か、素早く振ることは出きずウォードに軽々と避けられてしまう。
「遅ぇんだよ。当たらなきゃそんな大層なモン持ってたって当たらなきゃ意味が……っ!?」
突如違和感を感じ首を振り回し周りを見るウォード。対して雷音はまたしても大鎌を振るう。
「なんだ!?なんだなんだ!?力が……力が抜けていく!?」
「見える……見えるぞ……神力で繋いだ無数の鎖が……」
「鎖、だと!? まさか……勇敢なる奴隷の隷属を断ち切ってやがるのか!?戦嵐鳥コイツを喰い殺せ!」
ウォードの背後に佇んでいた怪鳥が雷音を襲おうとするが雷音は襲いかかるそれに対して軽く大鎌を振るった。するとはピタリと動きを止め、静かにその存在を消していく。
「んだとぉ!?馬鹿な眷属まで! な、何しやがったテメェ……」
「断ち切っただけだ。お前とその眷属を結びつける神力を」
「あ、あり得ねぇ……そんなのあり得ねぇ……ふざけた真似するんじゃねぇ!さっさと失せやがれ!」
ウォードはを慌てたかのように雷音に向かって滅界乃棍を振り下ろそうとするが、雷音はそれを身体を捻って避けて再び大鎌を振り回す。
「ウォード、これでお前が縛る鎖は全て断ち切った」
「嘘だろ……俺が集めた力が全て消えただと!?」
勇敢なる奴隷の隷属を全て断ち切られたウォードは内包する神力が一気に弱まり、彼の引き締まった身体はどんどん痩せ細っていく。
「それが本来の……お前の姿かよ……」
「ぐっ……テメェ……クソッ、クソッ……クソォォォオ! 死ね!死んじまえぇぇぇ!」
自分の本来の姿が周囲に晒され、最早自暴自棄となったウォードは滅界乃棍を持って再度雷音に襲いかかる。
「遅いっ!」
「んだとっ!?」
体力は限界、しかしウォードの弱体化により雷音は攻撃はいとも簡単に避けられた。
「今だ!雷音やっちまえ!」
「頑張れ雷音!」
「行くでござる!」
右手に今持てる全ての力を込める。
仲間達の想いを込めて、目の前の男に虐げられていた過去への決別を込めて、そして何よりも勝利への想いを込めて。
「喰らえウォード……これが俺の想いを込めた拳だ! 雷光ぉぉ!閃っ!烈っ!拳!!」
輝く雷音の拳から放たれる稲妻の閃光は一筋の光となってウォードの身体を貫いた。
威力に耐え切れず吹っ飛んだウォードはそのまま気を失い地面に倒れ込んだ。
「しょ……勝者Eクラス!よってこの対抗戦優勝はEクラス!」
会場中が一瞬の静寂の後に大きな歓声と拍手が響き渡る。文句の付けようもない結果に最早Eクラスの強さを疑う者はいなかった。
「はぁ……はぁ……勝った……買ったんだよな?」
未だに勝利の実感が湧かない雷音の背中に三人分の体重がのしかかった。
「やったぁぁぁ!やったぜ雷音!俺達の優勝だぜぇぇぇ! 一年の時から馬鹿にされてた落ちこぼれの俺達が……うぅ…うわぁぁぁぁぁ!」
ぶわっ、と涙が溢れ出すシュウを笑いながら抱きとめる雷音も涙が自然と溢れていく。それはリンもネイルも同じであり、もしもヴィオの意識があれば同じく嬉し泣きをしていたことだろう。
「みんな……ありがとうな。色々あったけどみんなと同じクラスで良かったよ」
「馬鹿野郎! 俺もだよ!」
「ふふふシュウ殿、馬鹿は無かろうよ。だが某も気持ちは同じでござる」
「僕もだよリン。ありがとうみんな」
喜びを噛み締める雷音達、そこに近づく者の姿があった。
「おうお前らよくやった!優勝なんて担任として鼻が高いぜ!」
「「「「ウルス先生!?」」」」
包帯を巻いて松葉杖を使いながらも雷音達の元にやってきたのは担任のウルスだった。傍らにいるティナは呆れ顔になっている。
「まったく……無理言って病院抜け出して来るなんて昔と変わらないんだから……」
「うるせぇよ。生徒達が頑張ってんのに身体張らねぇ担任がいるか!っても試合は見れず終いだったがな。だけど俺は誇らしいぜ、あんだけ馬鹿にされてたお前達が……う、ふぐぅぅぅううう……」
シュウにも負けず劣らず号泣するウルスの姿を見て雷音達は皆顔を合わせて笑った。
「もう、みっともないわよ」
「うるせぇ!俺は今猛烈に感動しているんだ!」
「まったくガキねぇ……」
「んだとぉ!?」
今にも一触即発しそうな二人を雷音達は抑え、二人に向かって全員頭を下げた。
「落ちこぼれの俺達を信じて俺達を育ててくれたのは先生です。ありがとうございました!」
「へっ、よせやい。頑張ったのはお前らだろ、胸を張れ。つーか、ありがとうございましたっていうけどまだまだ教える事は沢山あるし担任は俺だかんな?」
「あら、私が交換してもいいわよ?こんな馬鹿より私のが良いでしょ?」
「あー、確かに」
「お前らぁ!?」
「ははは、冗談ですよ」
和気藹々とするEクラスを尻目にSクラスはルナとキールだけがベンチに座ってその様子を見てた。
「あーあ、負けちゃったわね」
「あぁ。EクラスがSクラスより強かった、ただそれだけのことだろう?」
「それだけって言うけどアタシ達学年最強Sクラスなんだけどね」
「その割には嬉しそうじゃないか」
ルナは僅かに口角を上げEクラスに視線を向けていた。
「ふふ、気のせいじゃないかしら。……でもね負けたのは正直悔しいわよ」
「同感だ」
「しかもアタシ達が戦った相手はまだ神装を纏って僅かな期間しか経ってない。これからどんどん成長していったらアタシだって今日闘ったリンに勝てるかわからない」
「確かにね。僕だって弟……ネイルに勝てるかどうだか。ただ君はまだ力を出し切れてないだろう?」
「……仕方ないでしょアタシの神理は昼じゃ使えないんだから。そしたらアンタもでしょうよ。学年最強が随分追い込まれてたみたいだけど」
「僕の神理はまだ完成してないからね。未完成なものを使って負けたら洒落にならないよ。どちらにしても僕達は強くならないとね」
ベンチの横に気を失って倒れている三人にルナとキールは睨む様に視線を送る。
「同感ね……」
試合終了後Eクラスは表彰され、学園長、そして国王からの言葉でクラス対抗戦は幕を閉じた。
雷音が終了後の会場からいの一番で向かったのは一年の教室、即ち繭の教室だった。
Eクラスのメンバーからもまずは妹のところへ、と言われたので全速力で向かい教室の扉を全力で開けた。
「繭っ!無事か!?」
「「「「「…………」」」」」
扉を思いっきり力を込めて開けた為に出た大きな音が響き渡り、いきなり二年のクラス対抗戦優勝クラスの大将が現れた為にクラス内は驚きの余り無音になった。
そしてその沈黙から数秒後に恥ずかしそうに頬を染めた繭が小走りで近づいてきた。しかしこともあろうか雷音は眉を全力で抱きしめた。
「ちょっ!?お兄ちゃんっっ!?」
「良かった無事だったか……」
「ちょちょちょ!取り敢えずこっち来て!」
教師はまだ教室にいない為、赤面した繭は雷音の手を引っ張りそのまま教室を抜け出して少し離れた廊下に移動した。
「もういきなりどうしたのよ?」
「いやいやお前人質になってただろ?大丈夫か?変なことされてないか?」
「大丈夫だよ。こないだウチにご飯食べにきたAクラスの双子の人に助けてもらったから。三兄弟って言ってたけど」
「あの二人か。餌付けしといて良かったな」
繭の頭の中で小さな狼と蛇に餌付けをする兄の映像が勝手に流れ始めた。
「餌付けって……ま、いっか。それよりお兄ちゃん優勝おめでとう。嬉しかったよ」
「ありがとう繭。今まで心配かけたけどお兄ちゃん強くなっただろう?」
「うん!今夜はご馳走期待してる!」
「今日も俺なのか!?」
「えへへ……じゃあ私教室いきなり抜け出しちゃったから戻るね」
そう言って繭は自分の教室に向かっていった。
「まったく……身体は怪我ないけど神力使い果たして疲れてるんだぞこっちは」
雷音の溜息が誰もいない廊下に吐き出されるが、内心は繭の無事が確認されたので一安心していた。
(もういきなりなんだからお兄ちゃんは。急いで教室戻らなきゃ)
教室に戻り静かに扉を開いて教室に入るが皆の目は繭に向けられた。
「ねぇ繭ちゃんのお兄さんって……シスコン?」
「なんでそんな発想に!?」
「だっていきなり情熱的にお兄さんハグしてたし……」
「違う!断じて違うから!あれはその……違うのぉぉぉ!」
誤解を解こうとしたが繭が拐われたことを知らないために、繭は教室の生徒達にしばらくのことをシスコン妹と呼ばれる羽目になったのであった。




