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白の闘諍  作者: 死者モ
弐_狂気
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弐-14  daa520_故郷

 両親は世界がこんなことになる前に大学に通っていて、そこで知り合ったらしい。ボクが中学を卒業するまでは学校に通う形式だったが、今は家で授業を受ける形式だ。授業用の人工知能を備えたキットが家に届き、それで勉強をする。


 そうだ、高校の勉強キットがまだ残っているはずだ。物置となったらしいボクの部屋にあるだろう。のそのそと階段を上がり、部屋の前に立つ。きしきしと小さな鳴き声を上げてドアは開き、その有様をボクに見せつける。


 けほけほと咳き込んでしまうほど埃っぽい。ベッドはなくなっており、大量の荷物が押し込まれているが、勉強キットを置いた机や本棚はそのままだ。幸い勉強机はドアのすぐそばにあったので、勉強キットだけ抱えて部屋を出る。


 どうやら店の営業が終わったようで、後片付けと戸締りを終えた両親が廊下を歩いてきた。父親はこちらをちらりともせずに風呂場の方に歩いて行った。


「あんらぁ、まだ勉強すんのけ。」

「うん。眠くないし。」

「明日、あんたの部屋の荷物さ、出してやっから。」

「ん、ありがと。」


 結局、夜遅くまで高校時代の勉強を復習し、気を紛らわせているうちに眠りについた。


 うちの定食屋は昼営業はなく、夜営業のみでやっている。そのほうが、近所のおじさんたちの集まりがいいからだ。だから両親とも起きる時間は遅く、ボクが一番に目を覚ましたようだ。そういえば学校に行っていた時も、朝はボク一人で支度をしていたっけ。


 布団を片付け、持って帰ってきた荷物も片付ける。居間を少し掃除して、休憩する。まだ両親は起きてこない。冷蔵庫から勝手にパンをひとつ取り、もしゃもしゃと頬張る。


「散歩に行きます。」


 小さく呟きながらメモに一言残し、居間のちゃぶ台にひらり、と置く。前回この玄関の戸を開けたときは希望に満ちていた。Aクラスのトップだと信じて疑わなかったあの頃が、まだほんの季節ひとつぶんだけ前のことだというのにやけに懐かしい。家の前の道路に出ると、田舎の朝の空気がおいしい。足に任せてふらふらと歩き始める。


 ボクが最初にLEUKに憧れたのは、この地区に初めて出現した大型コンタギオンから助けてもらったときだ。居住区Ⅵは全ての居住区の中で飛びぬけて広いのだが、その時までLnodeはひとつしかなかった。DCシステムによるコンタギオンの探知が遅れ、さらには配置されている隊員も少なく、かなりの民間人が犠牲になった。


 それを受けて、ボクの家の近くにLnodeの支部が作られたが、それ以来大型のコンタギオンは発生していないらしい。小型のコンタギオンはDCシステムによる浄化作用で鎮圧される。


 すべての居住区内の至る所に、目に見えない有刺鉄線のような、TLRと呼ばれるアンテナが張り巡らされている。TLRにコンタギオンが触れると、Lnodeにサイトカインという警報が入る。


 サイトカインレベルによって、DCシステムが自動で鎮圧するか、隊員を出動させるかが決められている。DCシステムが自動で捉えたコンタギオンの記録なんかも、たくさん処理したなぁ、と思いながらてくてくと近所を散歩する。


 今度は目に見える有刺鉄線が見えてきた。ここからはLnodeの敷地なので、民間人となったボクは入ることが出来ない。否、軍にいたときでも入ることは出来なかっただろう。中では隊員たちがだるそうに訓練をしている。それもそうだ、居住区ⅥではGクラスの隊員すら出番はめったにない。


 そういえば、民間人も普通に外を歩く居住区Ⅵでは気付かなかったが、居住区Ⅰでは民間人はほとんど外に出ないのに、軍の訓練は野外で行うんだな。病原体をひっ付けて屋内に入り、空港で見たような惨事になったらどうするのだろう。


 色々と考えながら歩いていると、はたと気が付く。もしかしてボクはこんなところでほっつき歩いてはいけないのではないだろうか。今頃、保護対象が失踪したと探し回っているはずだ。実家の場所も試験のときに提出したような気がする。


 これは相当やばいような気がする。急に焦り始め、変な汗をかいてきた。ついさっきまで、田舎の懐かしい風景をみてなごんでいたはずが、急に速足で歩きだす。なんだか空がぐるぐると回り始めたかのような錯覚に陥り、歩きなれた道路で迷いそうになる。


 とりあえずLnodeの支部を離れるが、家に行くにも行けず、とにかく歩みを進める。居住区の端を示す木々が遠くに見える。都会ではコンクリートの壁、ここでは林が壁になっているが、普通に子供が森に遊びに行ったり、森の資源を採取しに行ったりと、自由に入ることが出来る。


 早歩きで森に入り、お気に入りの道を進む。このまま進めば、学生時代によく訪れた沢に出られるのだが、如何せん体力が復活しておらず、力尽きてしまった。


 朝はパンひとつだったので、途中で空腹に耐えきれず、座り込んでしまった。ぐぅ、と、腹はのん気に空腹を主張する。よっこいしょ、と小さく呟いて立ち上がり、来た道を引き返す。大人しく家に戻ることにした。


 逃避行もここまでか、と憂鬱になり、小石を蹴飛ばしながら家路に着く。しかし、家の周りには通勤や買い物をしている人はいるものの、武装した軍人などは見当たらない。


 不審に思いながら、そろりと家の引き戸をがらがらと開ける。


「ただいま~。」


 小さく呟いてみる。恐る恐る靴を脱ぎ、キッチンへ向かう。


「あら、どこさ行ってたの。お母さんとお父さんもうご飯済んだよ。」

「いや、ちょっと、散歩に。あ~、その、なにか、連絡とか、なかったか?」

「なかったねぇ~。なにか連絡あんのけ?」

「ん、いや、なかったらいいんだ。」


 ばたばたと居間に積み上げた布団の脇に駆け寄り、充電していたケータイを開く。


「新着メール…電話…ない…。」


 どうしてなにもないんだろう。否、なにも連絡がない方がいいはずだ。


 ぷつん、と緊張の糸が切れ、へなへなと座り込む。



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