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34 助手マリコ、です


「こここ、これは!」


 研究所名義で送られてきたダンボール箱を開けたユキは喜び勇んだ。


「未開封のメタルロボッツ魂ジル寒冷地仕様と同ハイゴルグ! 現存していたとは…」


「なんじゃユキ、ほう、おもちゃか」


「このグレーのロボット、イケメンでカッコイイですね。 パリパリ、モグモグ」


 ソファーでコンビニのおにぎりを食べながら見ていたパープレアがユキに話し掛けた。


「でしょでしょパープレア、マリコさんからのお礼の品なの。 さすがわかってらっしゃるわー。 あ、マリコさんって言うのは研究所のワンダフル助手、川村マリコのことよ」


「おっといけない、そう言えばもう直ぐ研究所が指定してきたビデオチャットの時間ね。 起動しておきましょう」



シュワーン、ポヨ


「こんにちは、お久しぶりですユキさん」


「こんにちは、って今日は永久じゃなくてマリコさんなんだ」


「あれ、もしかして永久さんじゃなくてがっかりした?」


「そそそそ、そんなことはありません。 絶対に。 (むし)ろ中年男を回避できてラッキーです」


「ふーん、どうだか」


「そんなことよりマリコさん、さっきジル寒冷地とハイゴルグ届きました。 ありがとうございます!」


「うふふ、いいのよ。 お礼を言わなくちゃいけないのはこっちですから。 ツナマヨの実証試験に6日間も付き合ってもらってありがとうございました」


「いえいえ、こちらこそ」


「チルドとツインテちゃん、あとそのお隣は以前ちょっとだけ映っていたパープレアちゃんですよね?」


「そうなのです。 私がイソウロウ2号のパープレアです。 ちなみに魔女です。 モグモグ」


「コラ、パープレア、食べながら話しをしない! ほっぺにご飯粒が付いてるわよ」


「うふふ、いいのよユキさん。 パープレアちゃんは魔女のコスプレが好きなのね」


 ユキはドヤ顔をしたパープレアの魔女発言に一瞬焦ったがマリコの反応に「あー完全に事情のある子の芸だと思われているな」と思って苦笑いで済んだ。


「リコ、久しぶり。 イソウロウ1号のツインテなのだ」


「はい、こんにちは、ツインテちゃん。 相変わらず体操服が似合ってるわね」


「そう、この新設された名札がチャームポイントだ。 ちなみに次にリコがこの家に来たときには臙脂(えんじ)色のブルマを履いてもうことになっている。 これはユキとの綿密な打ち合わせによる決定事項なのだ。 尚、ケーキがあった場合は自動的に免除される」


「はいはい、覚悟しておきます」


「ツインテちゃんと言えば、あのメイド服はツインテちゃんの改造した物らしいわね。 ちょっとアニメっぽい今風なすっきりしたセンス、素晴らしくて研究所の人達も絶賛してたわ。 動き易く機能的なところも高評価よ」


「そうなのか、メイド服改。 もっと褒めていいぞ」


「うん、それでね。 今後のある計画のために、あのメイド服を元にしたデザインの服を生産しようと思っていて。 いいかしら、デザインを真似て作っても」


「ほう、この本格衣装デザイナーツインテのアレンジした服の良さが分かるとは、なかなか目の付け所が高いな。 いいだろう。 許可するぞ。 どんどん作ってくれ」


「ありがとうツインテちゃん!」



「マリコ、それでツナマヨの事なんですけど…」


 チルドが待ちきれず画面のマリコに話し掛けた。


「そうね、ツナマヨは元気よ。 名前の由来も聞いたわ。 うふふ、パープレアちゃんが名付け親なのね。 いい名前をありがとう」


「そうです。 ツナマヨは私が育てました!」


 ユキ達は小さく首と手を振って「ないない」といったジェスチャーをした。


「そうそう、今、研究所に試験的に作られたお掃除ロボットが2種類あってテスト稼働中なんだけど、片方が子犬型お掃除ロボット、もう片方が子猫型お掃除ロボットなの。 でもこの子達の名前がいまひとつ不評なのよ。 何かいい案はないかしら。 ちなみに今の名前は子犬型がイヌクリーナ、子猫型がネコクリーナ。 どう? 何かあったら教えて」


「おーよ! それではこのネーミングスペシャリストである魔女パープレアが名付けましょう! モグモグ…。 うーん、きたきたきた! 命名! 子犬型『ウメオ』、子猫型『カカオ』、じゃあこれで。 パリバリ、モグモグ」


 ユキは「あー、今こいつおにぎりの梅おかか味食べていて、適当にこのネーミング考えたな!」と思ってじわりと汗が出たが黙っていた。


「ありがとうパープレアちゃん。 『ウメオ』と『カカオ』ね。 いい名前ね、これで行くわ!」


「でもツナマヨ達は短い間なのに本当に成長したと思うわ。 送り出したときとは大違い。 中でも一番違うと思うのは…何というか人の思いやりがあるというところかな」


「それで彼女たちの今後はどうなるのでしょうか?」


「チルドは心配なのね。 ツナマヨ達はこちらで学習結果をコピーして量産機に活かそうと思っていたんだけど、何か不都合があるらしくてデータの提出を拒むのよ。 AIが人間に逆らうなんて生意気よね。 まあ、チルドも同じAIなので目の前にして言うのはとても心苦しいんだけど」


「それは…」


「ちょっとツナマヨ達には口を割らす為の拷問が必要かしらね。 どこを攻めれば弱いのか私はよーく知ってるの。 それで固く閉ざされた心の鍵を縦横斜めに蹂躙(じゅうりん)して引き裂くような人格無視のこじ開けをするわ」


「え、そんな!?」


「うふふ、もちろん冗談よ。 今のチルドの困った顔、予想以上のリアクションでかわいかったわ」


 マリコは人差し指を立てて愛嬌たっぷりのウインクをした。


「驚きます、あまりからかわないでください…」


「あら、ごめんなさい。 何か思い当たることがあったのかしら。 それで、今後ツナマヨ達にはある仕事が待ってるわ。 これからのツナマヨ達には教官をやってもらうことになるの」


「教官ですか? 一体何の」


「まだ詳細は決まってないんだけど、今ね、チルドの正式量産機計画が進んでいるのよ。 それの教官」


「おお、教官、偉そうだな」


「そうよ、ツインテちゃん。 チルド正式量産機は大量生産されて衰退した人類の復興をサポートするの。 それは素晴らしいことよ。 でも、チルド量産機が次々と生産されても人の心が分からないとかじゃやっぱり人間社会とうまくやって行けないでしょ。 最悪、人類と敵対しちゃったりしてね。 まあ、敵対は極端な話なんであり得ないんだけど。 なのでツナマヨ達が新しく生産される量産機の教官になって指導するのよ。 これは学習データの提出を拒んだ彼女達が願い出た事なの。 例の2本あった銀の剣ね、ひとつはこの願いと交換に使われたわ」


「そうでしたか…」


「どうしたの? チルドもユキさんもそんなに神妙な顔をして」


「剣はもう1本ありました。 2本目の願いは何だったのですか?」


「うーんそれね、それはねー。 知りたい? うふふ、でも、ヒ・ミ・ツ。 うわー、私今凄い意地悪しちゃった気がしてチルドの困った顔も相まって胸とか色々なところがキュンとしちゃったわ。 あー申し訳なくて切ない、申し訳なくて切ないんだけど、何これ罪悪感と共に押し寄せるもっとやってみたい感!」


「マリコ…」


「うん、この話しは今日はここまで。 あんまりお喋りしちゃうと私が怒られて、永久さんが責任を取らされちゃうの。 もう悲しいわね組織の歯車って。 ごめんね、うふふ」


 マリコは目を細めて笑った。


「…」


 チルドがレンズを見て軽く睨んだ。


「そうね。 包丁でも研いで楽しみにしてるといいわ、近い内に判明するから。 助手として今言えるのはこれだけ」


「そんな…」


「あらいけない、もうこんな時間…実験結果を見に行かなくちゃ。 では皆さん、今回の件は本当にありがとうございました。 じゃあね。 ごきげんよう」


プツッ



 マリコとのビデオチャットが終わり、室内にはマリコの残した笑顔とは相反(あいはん)した複雑な思いの空気が流れた。


「ツナマヨ達…」


 まだ困惑した表情の少し残るチルドがユキに目をやった。


「何だったのかしら…ツナマヨの銀の剣2本目の願い事って…」


「さあなユッキー、でも近い内に判明すると言ってたから、それまで楽しみにして過そうや」


「まぁ、メカ弄り大好きお嬢さんの仰る言葉遊びに今さら振り回されてもな。 でも信用できる人物なんだろ、マリコって」


「そういうことだ、レアもなかなか分かってきたな。 フンフンフフン~♪」


 ソファーにもたれ掛かり天井を見上げたツインテが頭の後ろで手を組み、ハミングを歌った。


 それは皆の心のざわつきを(なだ)めるような静かでかろやかな歌声であった。




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