32 見送り、です
「さぁて、お昼ですよ。 ツナマヨ達のお別れ会も兼ねているのでちょっと豪華にしました」
お盆に載せた料理やお菓子をチルドがリビングのテーブルに運んできた。
「おお、これはおいしそうだな。 おっと、だが主役が来るまでもうちょっと待つべきか」
ツインテが焼きたてのお菓子に手を途中まで伸ばし、また引っ込めた。
「そう、今日の主役はツナマヨなんですから」
パープレアが早く食べたい気持ちを抑えるように言った。
「みんな成長したわね…」
ユキは嬉しそうに両手に頬を乗せニコニコと微笑んだ。
「でも、今日の主役であるツナマヨに料理の手伝いをさせると言うのはどうなんだろうか」
ツインテがチルドに聞いた。
「ツナマヨ達がどうしても手伝いたいと言いまして…」
「彼女達のこの家での家事もこれで最後になるからな…おっとイケナイ、しんみりは止めとこう」
「そうね、パープレアは楽しくやりたいのよね。 食べ終わったら記念写真を撮りましょう! ええとカメラは…このノートパソコンに内蔵されている物でいいかしら」
「大丈夫だと思います、十分な画質のものです。 私が遠隔操作しましょう」
「頼んだわチルド。 じゃあ後で」
トコトコトコ
「これで全部になります」
名札付きスク水姿のツナマヨ達がお盆に満載で運んできた料理で、テーブルが埋まった。
「おぉよ、ツナマヨ、そこの真ん中のソファーに」
「ハイッ」
ツナマヨは声を揃えて返事すると用意されていた中央の席に座った。
「それでは、ツナマヨ達の旅立ちを祝しまして、この南極コーラで乾杯を!」
「ツナマヨ達、ユキ家に於ける実証試験卒業おめでとう、カンパーイ!」
カチ、カチ、カチン、カッチーン
「ワイワイ、ガヤガヤ、ウハハ、グホッ」
ユキが音頭を取ると、皆笑顔で乾杯をした。
「さあ食べるぞレア、サクサク、モグモグ」
「い、いただきます! パクパク、うぉ、この焼きたてスコーンおいしい!」
「ツナマヨもチルドも食べるのよ」
「はい、ユキ!」
「合計6日間にわたったメイド修行だったけど、終わってみれば長いようで短かったわね」
「そうじゃな。 6日などあっと言う間だ」
「ハーイ、私はユキがどのようにしてチルドの尻を叩いたのかが気になりまーす!」
「これこれレアよ、お前さんコーラで酔ってないか?」
「そんなことあっりませーん! 皆さん聞いて下さい、ツインテ裁判長は裁判のあった夜に義務だとか言ってユキの部屋で尻叩きの刑をされるチルドを覗こうとしてたんですよー! やっらしー」
「えー! ザワザワ…」
ドカバキッ、ゴフッ!
「ちょ、ツインテ裁判長、背中はやめて、まだ痛いの…。 ゲフッ」
「発案はお前さんだったがな…。 ちなみに覗き、いや、観察計画は邪悪な心の逆流によって見事失敗したので皆安心するように!」
「アハハハハハ…」
リビングに笑顔と笑い声が溢れた。
・
「いい? 撮るわよ。 中央のおふたり、主役なんだからもっと寄り添って座って、笑顔で! それでは、はい、チーズ」
パシャパシャパシャ!
「ヨシ、記念の集合写真撮影完了!」
「ガヤガヤ…」
ユキがテキパキと指示して記念撮影が行われた。
「ツナマヨよ、次はこれに着替えて撮影じゃ」
「ツインテさん、これは?」
「ツナ、それは最初に着ていたメイド服だ。 こちらで勝手にだが少々アレンジしておいたので着てみい。 あとボロボロになっていたメイド靴も直しておいたので履くがよい」
パサパサ、パサット
ツナマヨ達はその場でスクール水着の上にメイド服を着て、スリッパをメイド靴に履き替えた。
「これは、お姉さまと同じデザインのメイド服です!」
「そうじゃ。 偶には気分転換に着てみてくれ」
「着てみたかったのです。 ありがとうございます!」
「おー似合ってるぞ、ツナマヨ。 そのメイド服のアニメチックなアレンジからはみだしたフトモモがそそる!」
胸元で両掌を反らして合わせたパープレアが称賛した。
「それでは、その衣装でもう一度記念撮影といこうかの」
「はいっ。 では」
サササッ
「おっとっと、あれれ?」
ツナとマヨがユキの手を引きソファーの中央に座らせ、その両隣にツナマヨがトスンと座った。
「今日の主役はツナマヨなんで、私はここじゃないんですけどー」
「これでいいのです」
マヨがレンズの方向を見たまま言うと、ツナもにこやかに深く頷いた。
「それでは撮影しますよ!」
パシャリ、パシャパシャパシャ!
今度はチルドの掛け声で撮影が行われた。
1枚目ではきょとんとした表情のセーラー服姿のユキだったが、3枚目、4枚目辺りになると自然な笑顔になり撮影された。
ユキの左右にはメイド服のツナマヨが寄り添い、またその左右には少し緊張したような顔の半袖体操服姿のツインテと、カッコよく決めたつもりらしい表情のスク水パープレアが、一番端では脇にトレーを挟んで持ったチルドが微笑んでいた。
「ふう、終わった。 なかなかこのイケメン表情を保つのは難しいのです」
「なんのドヤ顔かと思ったがイケメンのつもりだったのか、レアよ」
「なにをーぷんすか!」
「クスクス…」
メイド服を着てちょっとだけ大人びた感じになったツナマヨ達が笑った。
・
「そろそろ15時になるので運送業者が来るはずです。 私達は届けられたときに入っていた箱に戻ります」
ゴトゴト…
ツナマヨ達はそう言うと、玄関近くの廊下に移動させた縦長の箱にそれぞれ自ら入った。 その棺桶くらいのサイズの箱にはツナマヨの得た銀の剣が1本ずつ、花束、プリントアウトされた写真が入った小箱などがそれぞれ添えられるようにそっと入れられた。
「いよいよ卒業です。 研究所はお隣なのでいつでも遊びに来てください」
「はい、チルドお姉さま。 様々な指導ありがとうございました。 この経験は今後必ず活かします。 それとあの空間での信号には助けられました」
「ごめんなさい、少し厳し過ぎたかしらね。 うふふ、ツナマヨはいつもふたり一緒に答えるのね…」
「いい、ツナマヨ、戻ってからもいろいろあると思うけど、くじけずがんばるのよ。 研究所の変な言いつけは拒否していいのよ」
「ユキさん、ありがとうございます。 善処します。 この家でのことは忘れません。 あの飛ばされてきた大きな氷塊、凄ったです」
「あれは~まあ、そう、プラズマの応用みたいなものよ」
「この家での詳細は黙ってますので、ご安心ください」
「記念品じゃ、予備の名札付きスク水も入れておいたからな」
「はいツインテさん、大事にします。 名札やメイド服、いろいろな修理ありがとうございました。 もしかして廊下の穴を塞いでくれたのもツインテさんなのではないでしょうか?」
「ゲフンゲフン。 まあ元気でやってくれ、対戦ゲームも楽しかったぞ」
「私は何もあげる物がないな―。 メントなんとかっていうお菓子しかないや」
「パープレアさんからは大切な名前をいただきました。 それもあって深い暗闇から救い出してもらうことが出来たのです。 ありがとうございました。 それと、ネットで見た話には注意してくださいね」
「ハハハ、まだ覚えていたか。 こっちはツナマヨ達のキツキツスク水を思い出しちゃうぞ」
「クスクス、恥ずかしいですがそれもいい思い出です」
「それではみなさん、そろそろ時間ですのでこれで箱の蓋を閉じます」
「ツナマヨ…」
ユキが届かぬ手を前へ差し伸べ声を掛け、皆、息を呑んだ。
バタン、バタン
ふたつの箱の蓋が閉じられ、程なく到着した運送業者により手際よく運ばれて行った。
「…」
「とうとう行ってしまったわね…」
目を潤ましたユキがいつまでも玄関の方向を見つめ、長く見送った。




