表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/205

六十話  雑事こそ本気

 偉そうな笑顔で戻ってきたルーアは、俺達の前で大きくマントをひるがえした。

 どこもかしこも小柄なルーアがやっても虚勢にしか見えないのが悲しいが、背後に立つザガンのお陰でとても凄そうに見える。

 文字通りザガンの威を借るルーアだな。



「待たせたな。これで私の、ハシルカの戦力は跳ね上がる事間違いなしだ」



 自身たっぷりなルーアだが、これ自体は事実なのだろう。

 転魔の杖に強力な術をいくつか入れてもらったようだ。

 しかしザガンがネタを仕込んでないはずはない。そこは注意が必要である。

 ルーアは説明書のような紙を持っており、単語を唱えるとそれに対応した魔術を拾いやすくしてくれる仕様のようだ。

 なんという親切設計。冷静を装っているつもりらしいが、凄く嬉しそうなルーア。

 声色もそうだが、顔がほころぶのを隠せていない。



「ルーアちゃんルーアちゃん! 試しにこれ使ってみよう!」



 隣に立ったハミルが紙切れを指差し、しきりに何かの魔術を勧めている。

 どう考えても怪しいが、ご機嫌なルーアはそれに気付いてない様子。



「召喚系魔術か……。よし、やってみよう」



 意気揚々と快諾したルーアが、転魔の杖アズライルに意識を集中させる。

 そして横目でメモを見ながら、書かれた文字を読み上げた。



「《マジカルチェンジ》!」



 呪文と共に転魔の杖内部に浮かび上がる術式を起動させるルーア。

 新しく転魔の杖に括り付けられた玉石が怪しく光を帯びる。

 光に包まれるルーアの姿が、その光が収まると一変していた。



「な……、なんだこれは!?」



 驚いたような声を上げるルーア。着ていた服装がまるっと変化しているのだ。

 胸元が大きく開き、スカートはフリフリの超ミニ。

 黒を基調とした可愛らしい衣装だ。

 興味深く見守っていたカイラは飲物を吹き出し蒸せている。

 他のメンバーも唖然としていた。



「大成功だね! マジカルーアちゃん新生だよ!」


「ルーアおねえちゃん可愛い!」



 ハミルとリノレは両手を挙げて歓喜し、マジカルーアちゃん誕生を讃えている。

 言うまでもないが、この魔術は元々ハミルの提案。リノレが角を生やし変身したのを見たハミルは、もう一人変身少女が欲しいと言い出したのだ。

 それで俺にルーアの衣装デザインを渡し、製作を依頼してきたのが始まり。



「なんだこの衣装は! なんでこんな露出が……。そもそもサイズが怖いくらいピッタリなのは何故だ!」



 顔を真っ赤に染めたルーアは体を隠すようにしゃがみ込んだ。

 困惑しているらしく、隠せていない部分が目立つ。まったく隙だらけな小娘である。

 俺は採寸などする必要はないとばかりに小娘に教えてやった。



「サイズなんて見れば分かるだろう。上から順にBのななじゅ……」



 と、語っている最中であった俺の腹部に、いつの間にか転魔の杖の先端がめり込んでいる。

 恐ろしく速く、回避など不可能だった。いつ攻撃されたのか……。まったく見えなかった……

 先端部が宝石のように丸くなければ、俺は致命傷を負っていたであろう。



「死にたいのか!」


「すみません嫌です……」



 ルーアの怒号に、俺は悶えながらも声を振り絞った。

 腹を押さえながら身悶え、床に転がりながらだ。



「イリス! こいつの目はどうなってるのだ!」



 なおも憤るルーアは、椅子に座って優雅にコーヒーを飲んでるイリスを問い詰めた。

 いつもならこのタイミングで、イリスが俺を絞めてくれると思ったのだろう。



「ごめんねルーアちゃん……。諦めて……。無駄なの……。どんなゆったりした服着ても……無駄なの……。動きで分かるんだって……」



 イリスはうつむき、両手をテーブルの上で握り締め震えているようだ。

 そこに不思議そうな顔をしたセリオスが割って入る。



「その程度誰でも分かるだろう? 気にする程の事か?」


「そうだよなぁ? 大袈裟な小娘だ」



 当然のように語るセリオスに俺も賛同した。

 そう、当然の事なのだ。触れなきゃ分からないなんて、それこそハレンチだぜ?



「こいつらすげぇな……。俺らもあと数年したら分かるのか?」


「いや、この二人が変なだけだ。体得しようとするな」



 カイラとシリルも感心したように、羨望の眼差しを俺達に向けているようだ。

 やや引いているように見えるのは気のせいだろう。大丈夫だ。おまえらもすぐに分かるようになるさ。



「それはともかく可愛いじゃないか。なにか問題があるのか?」



 持ち直した俺の発言に赤くなりうつむくルーア。

 イリスやシトリーも続いて可愛いと連呼している。



「そうだよルーアちゃん! 僕とリノレちゃんと一緒にチームを結成しよう!」


「いやだ! こんな格好で戦えるか!」



 ハミルの誘いを一蹴し、しきりにスカートの裾を気にしているルーア。

 戦闘中に覗くヤツなんか……。うん、居るな。少なくとも俺は見る。

 見せパンを用意した方が良いかな?



「大丈夫だよ~! シリルくんもカイラくんも可愛いと思うよね?」



 退く気配のないハミルは、ハシルカ男性陣までも巻き込んだ。

 話を振られ、照れながらもシリルはすぐに同意する。



「あ、うん、可愛いと思うぞ……」


「お、俺は別にそんな寸胴みたくねぇし!」



 対するは素直じゃないカイラくん。真っ赤になりそっぽを向いてしまった。

 それは地雷だぞ。踏み抜いてしまったな。



「う……、ぐじゅ……。どうせ……私なんて……」



 みるみるルーアの目に涙が貯まって行く。

 精神的に限界は見えていたのに、追い討ちを仕掛けて泣かせてしまったのだ。

 当然、皆の白い目がカイラに集中する。



「い、いやごめん! 嘘だって! な、なんかす、すげぇ可愛くて……なんて言って良いか分からなくって……」



 しどろもどろで狼狽えるカイラ。顔は破裂しそうな程に赤い。

 初々しいなこいつら……。そのまま爆発しろよ。



「ぐす……ん? 魔力がごっそり無くなっているんだが……」



 ぐずりつつもルーアは少し落ち着きを取り戻したところで、転魔の杖の内包魔力が想像以上に減っている事に気が付いたようだ。

 今頃気付くとは、一流の魔道士を自称するわりに魔力管理がずさんだな。



「それはそうだろう。その術式を作るのは苦労したのだぞ? 何せその杖に括り付けてある玉石に圧縮して収納しているのだ。入れ替えを行った上でクリーニング、シワ伸ばし等の作業も術式に乗せている」



 どんなもんだとふん反り返るザガン。

 くだらない事に全力で労力を注ぎ込む俺達を甘く見てはいけないのだ。

 その際のコストなど、俺達は一切考慮しない。



「戦闘を行うのに無駄以外の何物でもないじゃないか! 却下だ却下!」



 ルーアの叫びに残念そうな顔をしているのはハミル。

 しょぼんと項垂れるハミルが可哀想なので、俺達は対策を練る事にした。



「ハミルのようにもっと簡単に着替えられないのか?」


「あれは異現魔法だからな……。魔法は理論や術式でどうこう出来るものではない。黒魔術で見た目だけ変える術は作れるが……」


「ならばそれを実体化する魔力を玉石などに込めるのはどうでしょう?」



 俺とザガン、シトリーの三名でああでもないこうでもないと話し合いを始める。

 真剣にだ。本来の目的があった気がしたが、そんな事は忘れた。



「やつら……、何故そんなに真剣なのだ……」


「あいつら暇潰しに命かけてっからな……」



 ルーアの呟きにラグナートが呆れたように答えているが、走り出した俺達を止める事など不可能なのだ。

 いつの間にか話に参加していたアガレスとヴァルヴェールの意見も聞き、とりあえずいくつか構想はまとまった。

 それではさっそく実験に移ろう。



「シリル、ちょっと来てくれ」


「え? 俺? 嫌な予感しかしないんだけど……」



 唐突な俺の呼び掛けに、怪訝な表情ながら応じるシリル。

 ザガンが手をかざすとシリルの足元に魔法陣が現れ、その光がシリルを包む。

 それと同時にヴァルヴェールがシリルの体を覆っていった。

 光と白蛇が晴れたそこにはゆったりとした白いローブを羽織り、長い青髪をした可愛らしい女の子が存在した。



「な……なんだよこれは!? あれ? 声もなんかおかしいぞ?」



 驚きを示すシリルの姿が、まるで別人のように変化している。

 皮膚の質感や声まで少し誤魔化してあるので、一見すれば女性にしか見えない。

 大成功だ。勇者シリルちゃんの完成である。



「おお、可愛いじゃないかシリルちゃん」


「シリルちゃん可愛い! 可愛いよ!」



 俺や興奮したハミルに続き、皆がシリルをもてはやす。

 ルーアが少し悔しそうにシリルを見ているが、ルーアも十分可愛かったぞ。



「少し……盛り過ぎではないか?」



 口惜しそうに呟くルーアは、シリルの一部分を見て顔を引きつらせていた。

 それに反応したセリオスが、またいらん事に口を挟む。



「いや、そうでもなかろう。精々Cの……」



 そこまで言ったセリオスの腹部に、転魔の杖の先端がめり込んでいる。

 異常な速度で繰り出された突き。これは凄いぞ。

 ついにセリオスの感知速度を越えて来たのだ。



「よ、予兆すら感じさせんとは……。う、腕を上げた……な……」



 お腹を抱え膝を折り、悶絶するセリオス。先程の俺と同じ姿勢で倒れてしまった。

 反射で一撃必殺を放てるとは小娘め、実は近接戦闘もいけるんじゃないか?



「黒魔術で上張りをして竜天魔法で実体化すれば、パッと見は違和感なく繕えそうですね。まあぶっちゃけ水の膜なんですけどね。可愛いですよシリル」


「こんな目立ち方は嫌だ~! カイラ! なんとか言ってやってくれ!」



 楽しそうなヴァルヴェールとは対照的に、嘆くシリルはカイラに助けを求める。

 しかしカイラは危険を察知していち早く逃げたようだ。

 シトリーとアガレスがカイラを女装化させようとしたのがバレたのだろう。


 とりあえず暇潰……、やることが増えてしまったな。

 ルーアの衣装変え魔道具を完全な形で用意するのだ。

 せっかく作った衣装はハミルが貰うことになった。

 試着したハミルも可愛らしく似合っていたが、胸がキツいとぼやいたのでルーアに締められていたがな。

 ルーアにはバレないように、こっそりサイズを調整しといてやろう。



 ーーーーーーーーーー



 それから二日経ち……


 転魔の杖にはザガン、シトリー、アガレス合作の玉石が括り付けられている。

 竜天魔法を杖に記憶させるのは不可能なので、結局精霊魔術で作る事になったのだ。

 苦労が山盛りだったよ。一見ドレスに見える鎧が出来上がってしまったり……

 一瞬ドレスになったがすぐに水になって消えてしまったり……

 発動場所によっては素っ裸になる危険性があったりと……

 アクシデントはあったが、苦労のかいあってなんとか形に出来た。


 着ていた服は玉石に収納され、暗黒魔術で先程のデザインの衣装が形成された上で精霊魔術で実体化される。

 渋るルーアだったが、魔法抵抗も上がると聞いて渋々納得したようだ。

 はっきり言って大層な見せ掛け魔術なのだが、無駄にならずに済んで良かった。

 何か大事な事を見落としている気もするが、きっと些細なことだろう。


 マトイのアクセサリーもなんとか完成した。

 簡素な首輪のような物だが、マトイの精神力を軒並み増大させる効果がある。

 宝物を加工するのに抵抗はなかったのかなと思ったが……

 そもそもゼラムル達はマトイ用の防具を作ろうとして、魔石を確保していたのだそうだ。



「これで私も無敵だね!」



 嬉しそうに飛び回るマトイ。

 どれ程の効果があるのか実験しようという運びになり、俺は遠慮なくアガレスの瘴気でマトイを包み込んだ。



「あははは、全然効かないよ!」



 マトイは平気そうなので、俺はアガレスにもう少し出力を上げるように頼んでみる。

 すると瘴気が少し濃くなった瞬間、飛んでいたマトイは落下した。



「くか~、すか~。うふふぅ……。マトイちゃんむてき~……」



 床に寝そべりお腹をかきながら、イビキと寝言を撒き散らすマトイ。

 むてきなマトイちゃんはあっさり熟睡したのである。



「大した効果はないようだな……」


「抵抗力自体も上がるが、基本的にマトイの意思の強さを増幅するものだからな……。戦闘時なら多少はマシになるだろう……。多分」



 俺の呟きにこんなもんだろうと言うザガン。

 どちらにせよ、マトイの単独行動は不可能ということがこれで分かった。


 マトイの装身具のついでに、旅行ということでチノレとリノレのお出掛け用ポシェットも作ってある。

 チノレもリノレも双方喜んでくれているようだ。肩から掛けてとても可愛らしい。

 リンゴやお菓子などのおやつを選んでいるが、まだ早いぞキミ達。

 そんなこんなで、どんどん和やかになってきたところで……


 各国の代表者としての名目もあるのでハシルカ一同は帰るようだ。

 ラグナートもグレイビア王国に向かわなければならない。

 出港はもう明日なので、マトイを叩き起こして送ってもらう事になった。



「ああ、聞き忘れるところだった。おまえらの追い出した魔王に関して聞きたいんだが……」



 玄関先で話を思い出した俺の言葉に、ビクリと反応するハシルカ男性陣。

 あからさまに目を泳がせている。



「ああ、ゼファー殿か。安心しろ、敵ではない」


「頼めばきっと協力してくれるんじゃないかな? すんごく強いから頼りになるよ」



 動揺する男性陣とは違い、ハシルカ女性陣のルーア、ハミルはあっさりと答えてくれた。

 まるで初めから味方のような口振りである。



「強いだと? おまえ達が追い出したのではないのか?」


「ゼファー殿の提案でな。あの時はああするしか手がなかったのだ……」



 セリオスの疑問に、うつむいたルーアは悲しそうに答えた。

 なんでも魔王ゼファーは、ハシルカにやられた事にしてフィルセリアから去ったようなのだ。



「名が広く知れ渡ってしまったので、このままだとカイラとシャルディア様に迷惑が掛かると言ってな……、それで……」


「ほ、ほら! 遅れちまうぞ! 急ごうぜ!」



 ルーアの話を遮って、帰宅を急かし始めるカイラ。

 あまり話したくない事情があるようだな。

 ともかくそういうことなら、魔王とリヴィアータ帝国には繋がりはなさそうだ。

 不安が少しでも期待に変わったのは喜ばしい。

 楽しい一時に別れを告げ、地獄への船旅が秒読み段階に移ろうとしている。



「なあヴァルヴェール……、なんでこんな石付いてんだ?」


「オシャレですよ? マトイやルーアのように私も着飾りたくなりまして」



 玄関から出る間際、シリルはヴァルヴェールの柄に取り付けられた玉石に、一抹の不信感を抱いているようだった。

 詮索など無駄なのにな。諦めたまえよシリルちゃん。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ