十九話 おべんきょー魔神編
珍しい客が魔神館に訪ねて来た。
以前散歩に出かけた際、古城で出会った魔道士ルーアだ。
先日のセリオス一行の襲撃事件。
その一翼を担ったのがルーアらしく謝罪に来たのだとか。
なんでもベルフコールの一件の後、こちらの戦力や能力を教団に伝えたせいで大神官が動く事になったとか……
ついでに青髪の少年シリルはルーアと組んでいるパーティーメンバーで、現在揃って教団にこき使われているらしい。
小娘はこちらを滅ぼすとか言ってなかったかな? ツンデレなのかな?
お土産にカステラまで持って来てくれている。
仕方ないからお返しにプリンでも作ってやるか。
作るのはザガンだがな。
「気にしなくて良いのに……、まあ茶でも飲んでゆっくりしとけよ。ところでワンちゃんはどこだ?」
「ワーズは預かって居ただけだと言ったろーが!」
「シトリー呼んで来てやる」
ワンちゃんの所在を確認した俺を冷たくあしらう小娘。
モフモフが居ないと知った俺は小娘の対応をシトリーに投げる事にした。
ーーーーーーーーーー
ルーアは円卓の間まで案内され、フレムはシトリーを呼びに部屋を後にする。
広い部屋に通されたルーアが立ち尽くしていると……
部屋の角でボケッと椅子に座っている一人の男が目についた。
「ラグナート!?」
「んあ? どちらさんだいお嬢ちゃん」
驚くルーアの声にラグナートは気だるそうに返す。
ルーアは自分でも不思議なくらい嬉しそうにラグナートの元に向かった。
「ああ、この姿じゃわからんか……。ルーア・ルーグだ」
「なんだ。アズデウスの魔道士連中まだそんなことやってたのか?」
自らの名を明かすルーアにラグナートは呆れたように言い放つ。
ルーアは予想以上に興味なさげなラグナートを見て頬を膨らませた。
「大きなお世話だ! おまえこそこんな所で何をしている。ここは魔神の巣窟だぞ?」
「おまえさんの転生術もよっぽどだがねぇ……」
ルーアへの返答として、ラグナートが溜め息混じりに呟いた『転生術』。
アズデウス公国が厄災の対抗策として千年間続けている実験である。
これは死して生まれ変わるというものではない。
現在の知識をルーアとなる母体に胎児段階で移すのだ。
全ての情報を移せる訳ではなく、また一つの人命を犠牲にすると言っても過言ではない術。
コピー元が反乱を起こし、二名のルーアが存在してしまったケースも存在した。
道徳的にも問題がある禁術である。
「同族嫌悪か……。それは分かっているが……。それでもそれは、自分と同じような存在を認めてやる理由にはならない」
「ははは、違う違う。おまえさんには関係ないこった」
「いや……、おまえの言うことは正しいさ……。私は自分の犯してきた罪に向き合わなければならない」
意気消沈するルーアにラグナートは軽く答えるが……
ルーアにとって、この術は自分の延命の為に他者の命を奪っているようなものだと考えていた。
数え切れない程の命を犠牲にし、自分は生きているのだと……
「う~ん……。聞くが……、俺と初めて会った時の事は覚えてるか?」
ラグナートは頭を掻きながら申し訳なさそうに質問を投げ掛けた。
質問の意図が理解できないルーアは正直に思った事を口にする。
「覚えていない……。だがそれがなんだと言うのだ? ラグナートという者を知っている。それで十分なはずだ」
「そりゃ覚えていない……。ではなく知らないんだよ……。俺とおまえは今日初めて会った。そういう事だ。焚き付けといてなんだが、あんま気負うなよ」
そう言うとラグナートは席を立ち、部屋から去って行く。
一人残されたルーアはラグナートの言いたいことがさっぱり分からなかった。
というより、ラグナートの存在自体に疑問を抱いている。
魔力もない。人間のはずだが人間のはずがない……
そんな事を考えていたルーアの元に、ラグナートと入れ代わりでシトリーがやって来た。
「お待たせしましたわ~! わたくしのお部屋でお話ししましょうか」
「あ、シトリー! 今日こそはおまえの化けの皮を剥いでやるからな!」
呑気なシトリーの声が響き、反射的に悪態をつくルーア。
ルーアはうだうだと考え込むのは止めにしようと思考を止める。
今後の自分の在りかたなど分からない。今は今出来る事をしよう。
そう思い、謝罪しに来た事をすっかり忘れ……
ルーアはシトリーの部屋に消えて行った。
ーーーーーーーーーー
円卓の間に集合し、今日も和やかな我等魔神館一同。
オヤツを食べながら、いつも通り皆好き勝手に自分の時間を楽しんでいる。
「でな? その消えちまった神様の後に出来たのがファシル帝国だ。この国は神々のお宝をかき集めてだなぁ……」
「ほほぅ! 宝の山なのだな!」
ラグナートとアガレスは楽しそうにお喋りをして居た。
毎度毎度よくおとぎ話を知っているものだ。
「続きはどこだシトリー! 旦那は結局嫁よりも隣の男子高校生を取るのか!?」
「ふふふ……、続きはこちらですわ~」
「やめてルーアちゃん! 私まだそこ読んでない!」
ルーア、シトリー、イリスの三名は読書中だ。
テーブルを囲み、一心不乱に読み漁る本の虫状態と化していた。
非常に仲睦まじく楽しそうである。
俺もまだ読んでないからネタバレは控えてほしいものだ。
というか、何しに来たんだっけか小娘は。
窓際の椅子に座る俺はネタバレが耳に入らないよう、窓の外に意識を集中させる。
視界には眩しい笑顔の可愛らしい天使達が入り込んだ。
「きゃー、気持ちいー!」
「にゃーーーん!」
窓の外から見える天使達。リノレ、チノレは空中散歩を楽しんでいる模様。
リノレはチノレのお腹にしがみ付き、とても幸せそうではないか。
俺なら恐怖で泣いているところだ。
さて、ではカステラもプリンも食った事だし……
俺は逃げるとするか……
クラウチングスタートの体勢でこちらを狙っているザガンが怖いのだ。
「フレムよ!」
俺が椅子から立ち上がった瞬間、ザガンが背後から俺のに腰にすがり付いて来た。
凄まじい速度だ。俺が動き出す瞬間を狙っていたのは明白だった。
「抱き付くな! すがり付くな! めっちゃホラーだから! 分かったよ!」
一頻り騒いだ後、深呼吸をして息を整える俺。
ザガンは構ってもらえると分かるとウキウキしながら俺の対応を待って居る。
「じゃ~、今日は魔神について教えてくれるか? あれも魔神、これも魔神でいいかげん整理したい」
そういうことで、俺は例のごとくザガン教室に軟禁される事となった。
部屋閉めきってドライアイスでスモーク炊くと危険だからやめてくれ。
「ではまず……、魔神の定義は曖昧だ!」
ザガン教室始まりの言葉を聞き……
俺は扉に向かってクラウチングスタートの体勢に入った。
もうこんな所に用はない。
「ま、待つのだ! 詳しく説明させてくれ!」
すがる骨が怖いので逃亡は諦めた。
部屋の雰囲気も不気味なので知らない人が見たら間違いなく泣くだろう。
今現在の俺ですら泣くほど怖い。
それでは聞いた話しをまとめよう。
魔神とは一般的に生物が魔術、もしくは魔道具などで肉体的、精神的に変質したものを指し、人に仇なす者を言う。
魔神は魔力を持ち変質した事により人間を食べ始めたり、居るだけで環境を破壊する者が多いのだとか。
魔力による変質で形をなしているので、魔力がなくなると形を保てずに消滅する。
基本的な生態系から外れるのだ。
また変質度合いが低い者は消滅を免れる事もあるようだ。
ワンちゃんことワーズはこれに該当するはずだが変質度合いが大きい。
不思議生物だろうか?
ちなみに害がなくても本来魔力を持たない生物が魔力を持っていたり、常識外れに強い者とかも魔神認定される事がある。
ようは人間から見て味方じゃない、普通じゃない、危ない物は皆魔神なのだ。
ついでに言えば魔物は人間以外の危険生物の事。
本当に身勝手で最悪ですね人間様は。
聞く限りではあまり良いイメージじゃないんだな……
これからは魔神の呼称は控えた方が良いのかも知れないな……
「おまえらは魔神と呼ばれるのは嫌じゃないのか?」
「いいや? なんかカッコ良いじゃないか!」
俺の心配は杞憂だった。ザガンはむしろ喜んでいる。
気にしなくて良さそうだ。
どこまでも絵面にこだわるコイツらがそんなもん気にするはずがなかったな。




