仲間4
「顔っていってもサングラス──……ッ!」
翔は、封筒の裏の差出人の名前に、息を呑んだ。
ごっきゅん、と喉が音を立てる。
「ああああ! そっか、あのほくろ!」
脳内で、例の男性の顔からサングラスを取り除く。
と、現われた顔は、かつて、日本代表一のイケメン選手と称された──
「そうだ! 上川匠!」
今でも、サッカー解説者としてスポーツ番組などで頻繁に見かける顔だ。
サングラスがなければ、こんな地方でも、すれ違う人間のいくらかはテレビで見た顔だと気がついたにちがいない。
そのとき、はた、と翔は分かった。
桃と、猿渡がプロになったら、と話していたときにひらめいたのは、とかく女性ファンに人気のあった彼の存在だったのだ、と。
翔の潜在意識は、彼と猿渡に接点があることをいち早くつかんでいたのかもしれない。
「あれ。でも、おまえの名前って……」
もういちどあごをしゃくってみせた猿渡は、読めば分かる、そう言っているようだった。
意を決して読み始めた翔は、淡々と一枚目を読み終わったあたりから、自分の頬がカッカッと燃え出した自覚がある。
避妊ということばが、一行にふたつもみっつも出てくるのだ。
要約すれば、猿渡の母親である七つ年上の女性と恋愛をして、避妊を怠り、結果、できた子どもが猿渡だ、ということらしい。
もちろん、それだけの告白なら、猿渡がわざわざ翔に読ませようとするはずがなかった。
話は、なぜ母親が未婚のまま猿渡を生まなくてはならなかったのか、に及ぶ。
それは、翔にとっても、驚くべき内容だった。
年代別の日本代表であり、高卒ですぐトップチームのレギュラーになった彼、上川は、恋人が妊娠した事実をクラブの関係者に話し、結婚の了解を得るつもりだったという。
が、クラブの強化担当者は、『本当におまえの子どもに間違いないのか』と訊いたらしい。
他の大人たちも、寄ってたかって『避妊はちゃんとしたんだろう?』と問い詰め、その結果、上川の子どもではない可能性がある、という結論でまとまってしまった。
スター候補のイケメン選手と結婚するためなら女は手段を選ばない、という意見に流されて、上川自身も恋人を疑ったそうだ。
けれど、それは自分の弱さによる自己弁護と責任転嫁だった、と振り返る手紙に、翔は読むのが居た堪れないきもちになる。
猿渡は、この手紙をいったいどんなきもちで読んだのか。
猿渡に対する謝罪だからあえて言及はしていないが、翔が読んでもこれは、若く将来性があり、抜群にルックスも良く、サッカー界のアイドル的存在だった彼に、まだ結婚して欲しくない──
ましてや、プロ一年目でできちゃった結婚などされては困る、というクラブなり協会なりの思惑がはたらいていたのでは、とおもえてならない。




