仲間3
「おまえは?」
翔の問いに答えることなく、猿渡は階段に置いていた学ランを拾いあげた。
引き上げる気なのかと見ていると、白い封筒らしきものを取りだして、翔の方に向き直る。
「──司が言っていた。失敗したあとじゃなく、プロになる前にあそこに来たおまえはすばらしく賢明だ、ってな」
翔は、おもわずまばたいた。
「ケンメイってなに?」
「賢い判断だ、って意味だろう。あの、サッカーやってるやつにはバカしかいない、が口癖だったやつに、賢いと言わせるなんてな」
「俺、賢いの? マジで?」
数歩、歩み寄った翔に向かって、猿渡が封筒を差し出す。
翔はけげんにおもいながら、側までボールを蹴り蹴り寄って行った。
封筒の宛て名には、猿渡望とある。
封はすでに切られており、どこか紙もくたびれていた。
「……俺が知っていて、おまえにおしえてやれることは、それだけだ。プロになるおまえが知っておけば、一度くらいは、穴に落ちる前に助けてもらえるかもな」
それ、というのは手紙に書かれている内容を指すのだろう。
おず、と出した翔の手のひらに、猿渡が封筒を載せてくれる。
取り出した便箋は、二、三枚といわない厚みがあった。
ちら、と猿渡の顔に視線をやってから、翔は文面に目を落とす。
──望、愛するおまえにどうしてもざんげしたくて、これを書く。
書き出しに、翔はぎょっとした。
味気ない白便箋といい、丸みのない力強い文字といい、口調といい、これを書いたのはどう考えても男にちがいないのに。
「これって…………ラブレター?」
「何でそうなる!」
「だって、おまえ、エンコーしてんじゃん。このテの趣味の男に気をつけろってこと? いやそれ、口で言えば良くない? 何も、もらったラブレター見せびらかさなくたってさ」
「エンコー? 援交って言ったのか、今? 寝言は寝て言え、バカ!」
「バカは自分じゃん。男のひとと、ホテルに入って行ったくせに。見たんだからな、背の高い男といちゃつきながら歩いてるの!」
ぱくぱく、と鯉のように猿渡が空気を食む。
返すことばがないのだろう、とどこか勝ち誇っていた翔の顔に、便箋のうしろから引き抜いた封筒をぺしっ、と猿渡が叩きつけた。
「いて!」
と言うほど痛くはなかったが、翔はとっさに目をつむってしまう。
「あれは、俺の、……父親だ」
後半は、ごにょごにょと聞こえただけで、はっきり言って誤魔化しにしか聞こえない。
「うっそだー。口調からして超ウソくさいし。第一、あのひと、どう見ても三十ちょいで、健太さんたちとおなじくらいだったもん。うちのパパ、四十代だし、若すぎ。無理がある」
ハァ、と猿渡が重いため息をついた。
「若いさ。十九のときの子らしいから。健さんよりひとつ上だ。おまえ、顔見たんだろ?」
猿渡があごをしゃくる。
翔は、便箋の上に落ちてきていた封筒に目をやった。




