家族1
翌、日曜日。
翔は、母親の運転する車で高速道路を走っていた。
向かう先は、もちろんクラブの練習場だ。
どうして、急に母親が練習を見に来る気になったのかは分からない。
もしかしたら、昨日から考え込んでいる自分の様子を見て、また練習をサボってどこかに行くことを心配しているのかも、と翔はおもった。
「ママが練習見に来るの、ひさしぶりだね」
努めて明るい口調で、翔は隣の運転席に向かって語りかける。
「お兄ちゃんがね、高校生になると、試合を見に来られるのをすごく嫌がってたから。男の子は放っとかれたい年頃なのかなーって」
「へー」
「でも、お兄ちゃんは、サッカーにだんだん自信がなくなってきていたから、ママに見られるのが辛かったのかもしれないね。ママはもっと、翔くんは翔くんとして見るべきだったわ。ごめんね」
翔はまたたいた。
なぜ謝られるのか、よく分からない。
しばらく、母親は横からの翔の視線を無言で受けとめていた。
「ママね、翔くんがなぜ練習をお休みしたのか分からなかった。だから、コーチのかたが、チームでの刺激が足りないからサボるんだろう、プロの選手たちといっしょに練習させてやれば向上心を持ってサッカーに取り組むようになるはずだ、って言うのを聞いて、そういうものかなって納得しちゃったの」
一拍おいて、翔はぽっかりと口を開ける。
「あれって……罰だったんじゃないの?」
「そうね、罰だったみたいよ?」
首をかしげた翔にちらり、と視線を流して母親は苦笑した。
「最初の日の練習、すっごく厳しかったんだってね。コーチのかたが、その日のうちに心配そうに電話してきていたわ。週末の試合でチームが負けちゃったから、監督さんが練習メニューをハードなものにしたんですって。でも、翔くんだけ特別あつかいはできないでしょう?」
くしゃり、と母親の左手が翔の髪を撫でる。
「あの練習についてこられるなら世界中どこのクラブのトレーニングだろうとついていけるって、監督さんは褒めていたそうよ。コーチのかたは、きっと、それを伝えたら翔くんが苦しくて投げ出しちゃうのを思い止まらせることができるとおもったのね」
でもね、と前を向いたまま母親はつづけた。
「ママは、もうダメだとおもったら無理してがんばることないとおもったの。コーチのかたが、翔くんの可能性を見込んでくれるのはうれしい。でも、子どもを育てるって、大人の期待に添わせることじゃないとおもうから」
「ママ……」
「ママも、翔くんの力を上手く伸ばしてあげたいって、以前はおもってた。だけどパパが、伸ばしてあげようとしなくても伸びたい方向に自分の力で伸びていくから大丈夫、って言ったの。どこに伸びていっても、翔くんが元気に笑っていてくれたらうれしいよね、って」
「……パパらしいね」
そうね、と母親もうなずく。